言う人によっては重みがある
エイトたちと、俺に抱いているイメージに対して、熱い討論を交わす。
ドラーグさんは特に何も言っていなかったので、問題ないと思いたい。
⦅……マスター⦆
だからどうして、俺があんなキザっぽい感じになるんだ!
⦅……マスター⦆
どんな俺でも受け入れる準備?
そもそも、どんな俺でもって段階でおかしくない?
⦅マスター!⦆
うえっ! あっ、はい。
どうかした? セミナスさん。
ちょっと今、エイトたちの俺に対する認識というのを再確認していて……。
⦅汎用型と特化型たちは、マスターの事を正確に把握していますので問題ありません⦆
いや、把握してないから討論しているんだけど!
⦅先ほどのは待ち時間の間のお遊びのようなモノです。どのようにしてマスターに来るか。それに対してどのように反応するのが良いのかを、遊び感覚で学習していたのです⦆
遊び感覚の時点でおかしいと思わないだろうか。
⦅ちなみに私の場合は、出てきた瞬間に『セミナニウムが足りない』とマスターが呟き、出迎えた私、もしくはマスターの中に居た際は私の体を取り出し、強く抱き締め、熱く濃厚な口付けをしています⦆
うん。していません。
というか、セミナスさんもか。
それに「セミナニウム」ってなんだよ。
⦅『セミナニウム』。マスターの中に自然発生している愛の組織。時間経過と共に加速度的に失われていき、なくなると幼児化する。補充する際は愛するセミナスとの濃厚接触が必要⦆
そんな謎組織は俺の体内にありません。
……わかった。わかったから。
エイトたちとの討論は終えるから、一体どうしたの?
何かあるから声をかけてきたんでしょ?
⦅そうでした。何かお忘れではありませんか?⦆
………………。
………………。
あっ! 結界の神様!
バッ! と振り返る。
結界の神様は体育座りで空を眺めていた。
あまりにもいたたまれないその姿に、俺は即座に結界内に戻って謝る。
「すみませんでした」
「え? 何が?」
「いや、討論でちょっと時間かかってしまって」
「ああ。気にしなくて良いよ。だって、それは大魔王軍が居ないから。平和って事だよね? 平和、素晴らしい!」
どうやら、周囲に大魔王軍が居ない事を実感していたようだ。
「それじゃ、えっと、出て来てくれますか?」
「思ったんだけどさ」
「はい」
「この中が一番安全じゃないかな?」
………………。
………………。
「そんな事はありませんよ」
「今の間は何かな?」
否定出来なかっただけです。
「でもまぁ、出ないと結界破りの力は与えられないし、出るよ」
「ありがとう」
今度は結界の神様と共に結界の外へ出る。
『おかえりなさいませ』
エイトたちとドラーグさんが丁寧に出迎える。
「いや、さっきまでと全然違うし」
「なんの事ですか?」
エイトが首を傾げる。
他のみんなも同じような反応だ。
あっ、先ほどまでの事をなかった事にしようとしているな、これ。
⦅なんの事ですか?⦆
いや、セミナスさんまで惚けなくても良いから。
でも、とりあえず今は結界の神様である。
エイトたちとドラーグさんを紹介していく。
「……なるほど。つまり、ご主人様はショタ属性を獲得したという事ですか?」
「いや、違う。紹介、顔合わせだって言ったでしょ」
安定の返し。
ワンたちは、俺と結界の神様を交互に指差しながらコソコソ話さないように。
あと、ドラーグさんに変な知識を与えないように。
⦅どちらが攻めかで揉めているようです。私も会話に交ざりたいので、体を出していただけますか?⦆
その理由で体は出せません。
それと、出来れば交ざるのではなく、注意する立場でいてください。
一方、結界の神様は普通だった。
「神造生命体か。……あいつら、漸くまともなのを造ったんだ」
「漸く」とか、「まともなの」とか、神様が言うとなんか重みがあるな。
本当に、ろくでもないモノばっかり作ってきたのかもしれない。
でも、ゴーレムたちが傑作なのは間違いない。
⦅汎用型、特化型たちは?⦆
まぁ、造形の女神様たちを認めるようでアレだけど、大傑作だと思う。
色々と困らされる事も多いけど、エイトたちが非常に優秀なのは理解している。
「今、ご主人様からの好感度が上がった気がします」
私も私も、とワンたちが追随する。
そこは好感度じゃなくて評価だと思うんだけど。
「それで」
結界の神様が少し呆れ気味に声をかけてくる。
なんか、すみません。
こういう子たちで、いつもこういう流れなんです。
「この中に居るの? 結界破りの力を授けて欲しいのは」
「いえ、今まさに魔王と戦っているはずなんですけど……」
「そっちね」
う~ん……と確認するように、結界の神様は左右に頭を振る。
「……すっごく怖い気配と戦っているのが、左右に居るね。その人たち?」
「はい。それで合っていると思います」
念のため、アドルさんたちの容姿を詳しく説明しようとするが拒否される。
「いや、近場まで行くなんて無理だから。神の啓示的なので授けておくよ。吸血鬼、骸骨、獣人でしょ。大丈夫大丈夫」
気楽に言うけど、大丈夫なのだろうか?
⦅問題ありません。吸血鬼たちに力が付く未来が見えました⦆
ホッと安堵。
「それじゃ、ここは正直言って落ち着かないし、なんか他の神たちが集まっている場所があるから、僕はそっちに行くよ」
「わかりました」
ありがとうございますと頭を下げる。
そして、結界の神様は、どこか遠くの空に向かって飛んで行った。
とりあえず、これでアドルさんたちの助けにはなった、はず。
……間に合ったよね?
⦅問題ありません。許容出来る時間内です⦆
それならよかった。
……アドルさんたち、勝てる……よね?
⦅そればかりは今の私でもなんとも言えません。前よりも正確な未来は見通せるようになりましたが、未だブレが大きく、確定はしていないのです。やはり、大魔王、魔王が相手となると、一筋縄ではいかないようです⦆
そっか。
でも、勝率はあるんだよね?
⦅この数か月で対抗出来るまでは力を上げましたので、あとは本人たち次第です⦆
そういう事なら大丈夫だよ、きっと。
⦅それと、あまりこういう不確かな事は言いたくありませんが、マスターの思いはきっと届きます⦆
俺を安心させようとしているのかな?
大丈夫。もちろん信じているよ、アドルさんたちの勝利を。
でも、ありがとう。
……さて、こっちはこっちでやるべき事をやろう。
次は、予言の女神様を解放しに行かないとね。
⦅それは違います、マスター⦆
え? 何が違うの?
何か間違えた?
⦅一発しばきに行く、です⦆
いや、文句は言いたいけど、別にしばくつもりはないんだけど。
⦅では、体も手に入れた事ですし、代わりに私が⦆
もし今この場でセミナスさんが体の方に入っていれば、ブオンブオンと素振りの音が聞こえていたと思う。




