自然と増える時があるよね
ウーノとあっちむいてホイで勝負を行うのだが、未だ決着が着いていない。
というより、ジャンケンから先に進まない。
……こうなったら、最終手段しかない。
セミナスさん。
⦅漸く声をかけてもらえましたか⦆
ズルをするような気分になるけど、このままだといつまで経っても決着が着かない気がする。
結界の神様の方は早く解放した方が良いのは間違いないので、俺の気持ちは二の次だ。
という訳で……お願いします。
⦅かしこまりました。以前までの瞬間的なのでしたら、マスターの反射神経をもってしても確実な勝利を得るのは難しかったでしょう。ですが、一分先がわかるようになった今、私にとってじゃんけんなど子供の遊戯⦆
いや、元から子供の遊戯というか、メインは子供だと思うけど。
⦅……何か?⦆
いえ、何もございません。
協力感謝します。
いつも感謝しています。
⦅感謝など必要ありません。私はマスターのスキル。私の力はマスターの力なのです。ですので、私に頼るのは決して悪い事ではありません。私はマスターが勝つための手段の一つでしかありませんから⦆
手段の一つという割には、絶対的な気がするけど。
でも、俺の気持ちを軽くするために言ってくれたのはわかるから、そこは素直にありがとう。
⦅では、感謝の気持ちは体で返していただければ構いません⦆
さっき感謝は必要ないって言ったのに!
⦅さっきはさっき、今は今、です⦆
ええ~。
⦅あっ、チョキを出せば勝てます⦆
一瞬反応が遅れるが、直ぐに気付く。
そうだ。今、ウーノと勝負の最中だった。
言われた通り、チョキを出す。
ウーノはパー。
勝った。
ここで喜んでやめちゃいけない。
「あっちむいて」
今度は忘れずにウーノを指差す。
「ほい」
左を差す。
ウーノの顔は……俺が指差した方向とは逆を向いていた。
「……ふっ」
ウーノが勝ち誇った笑みを浮かべる。
眼鏡の影響で余計にイラっとした。
というか、勝ってないから。
寧ろ、じゃんけんで勝ったの俺だから。
それに、じゃんけんと違って、あっちむいてホイの方は確率四分の一。
三つの中から選ぶのと、四つの中から選ぶのとでは、数の上では一つだけでも大きな差がある。
外れる確率の方が高くなったのだから、外れてもおかしなところは一切ない。
⦅……マスター⦆
そんな残念そうに言わないで。
俺だってわかっているから。
次は勝つから。
⦅わかりました。信じましょう。次はグーを出せば勝てます⦆
わかった。
―――
じゃんけんは勝てるようになったが、あっちむいてホイは当てられず、十回続く。
―――
⦅……マスター。じゃんけんであそこまで息が合っていたのに、あっちむいてホイではどうしてそれが発揮出来ないのですか? いえ、寧ろ、この場合は逆ですか? 息が合っているからこそ、あっちむいてホイで当てられないのですか?⦆
返す言葉もございません。
どうやら、じゃんけんだけではない模様。
俺とウーノは相性が悪い……いや、良すぎるのかもしれない。
⦅もう面倒ですので、私が全て指示します。構いませんね?⦆
お願いします。
……なんか、無駄な時間を使ってすみません。
⦅元々私たちが先行してここに来ていますので、時間的な問題は大丈夫でしょう。まぁ、余裕分は消費されたかもしれませんが⦆
うっ。
今頃魔王と戦っているアドルさん、インジャオさんとウルルさんに向けて頭を下げる。
「……何かの祈りか?」
「ああ。お前に勝つための祈りだよ!」
ウーノの問いに、ビシッと言い返してやった。
⦅内情を知っている身としては、なんとも言えません。次はパーで勝ち、上を指差してください。それで終了です⦆
……なんか、ほんとすみません。
セミナスさんの指示通りにして……パーを出し、上を指差す。
じゃんけんに勝ち、あっちむいてホイでウーノは上を向いていた。
「……ば、馬鹿な」
ウーノが項垂れる。
同時に眼鏡がずり落ちて、床に当たってカシャンと悲しい音が鳴った。
この眼鏡に罪はない。
ウーノに似合わなかっただけだ。
「じゃあ、俺の勝ちって事で」
「いいや、待った! 言い忘れていたが、これは三本勝負! 先に三回勝つまでは先に進ませない!」
「負けてから言うヤツ居るよね。でも、わかった。三回だな」
「え? あっ、はい」
時間が惜しいので、サクサク進める。
セミナスさんの指示で、全て一発で勝っていく。
あっという間に、俺の三連勝が確定した。
「………………」
ウーノは何も言わない。
茫然自失という感じだ。
恐らく、これまでの努力が頭を過ぎり、なんだったのかと自問自答しているのだろう。
……なんか、ごめんなさい。
「………………そうだよな。俺みたいな本の魔物なんて、やっぱり大した事ないよな。いくら鍛え上げようとも、所詮は紙。知識だけ」
いや、そこまで卑下する事ないんじゃない?
本だって馬鹿にならないよ?
暑くなればなる分だけ、加速度的に重量は増していくし。
「……今までありがとう、兄弟。さぁ、一思いに燃やしてくれ」
「……え? 燃やすの?」
「ああ。そうしてくれ。ここでの役目が終われば、どうせ俺はお払い箱だ。それに、ここに残っても仕方ないしな」
「ここに残るって……出れば良いだけでは?」
ウーノは首を左右に振る。
「それは無理だ。兄弟。我の本はもうこの初版しか残っていない。分身は全て消え、本体しか残っていないようなモノだ。それに、我は本の魔物。見てわかる通り、自分で自分を持ち上げる事は出来ない。そして、ここが地下である以上、這って進む事は出来ても、階段の段差を越える事は出来ないのだ。つまり、我は詰んでいる」
………………。
「なんだったら、外に運ぼうか?」
「良いのか!」
ウーノの目が見開かれる。
食い付きがすごいな。
「まぁ、害らしい害がないし。無闇に敵対しないように、みたいな条件は付けるけど、別に良いかなって思うし。もちろん、破ったら燃やすけど」
それに、なんというか、エイトたちが食い付きそうだ。
「……わかった。どうせここに居ても朽ちていくだけだ。そうなるくらいなら、条件を呑んで我は外に出たい」
「わかった。なら、連れて行くよ。閉じて持っていけば大丈夫だよな?」
「それで大丈夫だ。感謝する。さすが兄弟だな」
外に出すなら、その呼び方も直して……無理っぽいなあ。
……というか、気軽に決めちゃったけど、大丈夫だよね?
⦅力が制限されている現状だと確認出来ませんが、大丈夫だと思われます。もし駄目なら、結界の外に出たあとに私が忠告しますので⦆
うん。よろしく。
「それじゃあ、外で会えるのを待っているぜ、兄弟。……あっ、眼鏡」
「せんでいい!」
問答無用でパタンと本を閉じる。
ウーノは消え、落ちていた眼鏡も消えていた。
眼鏡装備で現れたら没収してやろう。
ウーノの本を脇に抱えて、次の部屋に向かった。




