なんか続く時があるよね
思い切って言ってみる。
「とりあえず、似合ってないから眼鏡外してくれない?」
「何を言う。今の我には似合っているだろう? もし、ベスト眼鏡リストなんて表彰モノのイベントがあれば、間違いなく我が受賞、そして殿堂入りだと思わないか?」
「思いません」
その発言……眼鏡を殴って壊してやろうか。
だが、相手は余裕の表情だ。
「ふっ。以前までの我であれば、体も心も紙装甲であったが故に、眼鏡を外して項垂れていたかもしれない。だがしかし、今の我は断る。これは、我が更なる知力を身に付けた事の証明なのだから」
そう思っているだけじゃないだろうか?
どうにも怪しい。
だって、前回もなんだかんだ自信満々だったけど、見事に打ち砕かれていたし。
「その顔……信じていないな? ならば証明しようではないか。我と勝負だ。兄弟が勝てば、この部屋の先に行けるだけではなく、我は眼鏡を外そう」
「よし。そういう事ならさっさとやろう。……えっと、『ボーノ』」
「………………」
「どうした? 早くや」
「『ウーノ』だ」
「……ん? え?」
「だから、我の名は『ウーノ』だと言っている!」
………………。
なんというか、ほら、前会った時から結構経っているからさ、ね。
こっちはたくさんの竜と知り合ったり、遠い島行ったり、エイトたち勢揃いしたり、過去に行ったりして、慌ただしかったからさ。
別に忘れようとして忘れた訳じゃなくて、間違えようとして間違えた訳じゃなくて……えっと……。
「なんか、ごめんなさい」
「許そう」
許してくれるんだ。
次からは間違えないように気を付けよう。
……いや、終止符を打つとか言っていたし、これで最後かもしれないのか。
………………。
………………。
でも、今度こそ憶えておこう。
ウーノ。ワスレナイ。
「それで、勝負内容はなんなの?」
「勝負内容は、知力を用い、身体能力……主に反射神経を使い、心を強く持たないといけないモノだ」
ウーノが真顔でそう説明する。
なんか、すごそうな感じがした。
思わず、ごくりと喉が鳴る。
「……それは、どんな勝負?」
「『あっちむいてホイ』だ」
「……馬鹿にしてんのか?」
「いや、本気だ」
そうか。本気か。
いや、確かに、言っていた内容に沿った感じはする。
相手が何を出して、どちらを向くか考えないといけないし、反射神経も確かに大事だろう。
指先がどっちを向くかを察する事だって出来るかもしれない。
もちろん、勝負事である以上、心を強く持たないと。
ジャンケンに負けても終わりじゃなく、当てられなければ次だ、と諦めない心を保ち続けないといけない。
そう考えると、何やらすごい勝負のような気になってくる……ような……いや、ならないかな。
やっぱり、あっちむいてホイだし。
いや、待てよ。
「勝負のルールを教えてもらえるか?」
「良いだろう。勝負であるからこそ、公平は期さねばならない」
ここは異世界。
もしかすると、俺が知っているのと違う可能性だってある。
………………。
………………。
全く一緒だった。
本当に普通のあっちむいてホイである。
「……本当にこれで終わりにするの?」
「そうだな。この勝負が終われば、兄弟の絆も終わるかもしれないな。所詮は人と魔物。相反する存在なのかもしれない」
いや、なんか言い出しているけど、そういう意味で言ったんじゃない。
この勝負を本当にするのか? て意味なんだけど。
正直言えば、ショボい。
これで終わらせて良いのか、本当に不安になるような勝負方法だ。
でも、提示された以上はやるしかない。
早々に終わらせよう。
⦅自信満々ですね、マスター⦆
まぁ、ね。
⦅もしや、これまであっちむいてホイにおいて、負け知らずとかですか?⦆
いや、普通に負けた事あるけど。
トータルで考えれば……半々じゃない?
でもまぁ、負けないよ。
なんといっても、こちらは経験者。
これまでの場数が違う。
⦅マスター。場数は関係ない勝負だと思いますが? 寧ろ、運要素が絡んできます。それでこれまでの戦歴が半々となると……⦆
え? 駄目なの?
⦅駄目という訳ではありませんが……⦆
大丈夫大丈夫。
経験者に任せなさい。
「それじゃ、早速やろうか! 時間がもったいないし」
「何やら急ぎの用でもあるようだな。良いだろう。こういうのは勢いも大切だ。……いくぞ」
「来い!」
「「じゃーんけーん……ぽいっ!」」
俺、チョキ。
ウーノ、チョキ。
「「あいこで、しょ」」
俺、パー。
ウーノ、パー。
「「あいこで……」」
―――
このあと、十回あいこが続く。
―――
「タイム」
「良いだろう」
じゃんけんを一旦中止して、一呼吸入れる。
あっちむいてホイなのに、あっちむいてまでいけなかった。
というか、二人でやっているのに、どうしてここまであいこが続くの。
普通はどこかでどっちが負けても良いはずなのに。
⦅……それだけ相性が良いという事では?⦆
その事実は認められない。
それに、ここで一旦とめた事で、流れは変わったのだ。
今度は直ぐどちらかが負けるはず。
「いくぞ! ウーノ!」
「来い! 兄弟!」
「「じゃーんけーん……」」
―――
このあと、再び十回あいこが続く。
―――
「「なんでだよっ!」」
俺とウーノは変わらないこの状況にそう叫ぶ。
駄目だ。抜け出せそうにない、このスパイラル。
……どうしたものか。
「もう一度だ! ……我は、グーを出す」
ウーノがそう言う。
なるほど。事前申請する事で、場を乱す訳か。
それなら、あいこ以外の結末になるはず。
というか、三分の一の選択で出しているのに、どうしてあいこばっかり……。
セミナスさんが言うように、似ているというのか。
見た目ではなく、本質的な部分が……いや、そんなはずはない。
「いくぞ!」
「来い! ウーノ!」
「「じゃーんけーん……」」
きっとウーノは、グーを出すと聞いた俺がパーを出すと判断して、チョキを出してくるはずだ。
なので、俺はカウンターとしてグーを出そうと――。
⦅あっ⦆
セミナスさんの呟きにビックリして、チョキを出してしまう。
……どうして邪魔したの、セミナスさん。
⦅邪魔とは心外です。結果をよく見てください⦆
俺、チョキ。
ウーノ。パー。
どうやら、更に俺のカウンターを読んで、パーを出してきたようだ。
⦅いえ、そこの本は何も考えていません。今の一戦においては、無の境地でした⦆
それはそれですごいと思う。
でも、俺は勝った……そう、勝ったんだ!
「いよっしゃー!」
喜びを表現する。
本当に嬉しい。
「じゃあ、勝ったし、先に行かせてもらうから」
「いや、兄弟。これ、あっちむいてホイだから」
「……あっ。えっと、じゃあ、あっちむいて」
「いやいや、待って待って。流れ断ち切ったあとにするの? 単独で?」
「でも、勝ったし」
「いや、そうだけど、普通は勝って、あっちむいて……なのに、今は勝って、喜んで、あっちむいて……になっているから、流れがおかしい。これちょっと仕切り直し案件じゃない?」
ええ~……まぁ、言いたい事はわかるけど。
「………………わかった。でも、貸し一な」
「それで構わない。じゃあ、最初から」
あいこが十回続いた。




