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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 魔王強襲作戦 東部

 上大陸の東西でEB同盟と大魔王軍の戦いが始まった。

 その報告は、EB同盟側だけではなく、大魔王軍側にも届けられる。

 EB同盟側は先に仕掛けたという事と、既に今後の予定も話し合って第二陣の準備を行っているため、焦るどころか余裕がまだあった。


 しかし、仕掛けられた側、大魔王軍にとっては急展開である。

 なまじ知性があるだけに、先手を取られた事によってEB同盟側にある程度アドバンテージを取られた事を理解していた。


 だからこそ、その状況を覆さないといけなくなる。

 それに、状況を覆せば、それはそのまま勢いとなり、情勢は大魔王軍側に一気に傾いてもおかしくない。


 EB同盟もそれは理解している。

 既に戦端が開かれた以上、主導権争いも発生しているのだ。

 双方共に、そのための指示も出されていく。


     ―――


 EB同盟に各国という拠点が存在しているように、大魔王軍にも拠点はいくつか存在している。

 といっても、その数は多くない。

 大魔王、三人の魔王、その直属の部下的立場の魔物の数体だけ。


 その内の一つ。

 上大陸東部にある古城と古都。

 そこを拠点としている大魔王軍が存在していた。


 拠点として利用しているのは、単純に自分が攻め落としたから。

 それと、ある意味挑発でもあった。


 元々ここにはきちんとした国が存在していた。

 国民の大半は吸血鬼。

 ここは、元吸血鬼の国「ルフセレンジ」。


 アドルの国である。


 古城の謁見の間。

 そこに置かれている玉座には、灼熱のような真っ赤な髪の男性が乱暴に座っていた。

 その男性は、三人の魔王の内の一人。

 名は、「リガジー・フューリー」。


 リガジーは、部下の鳥型の魔物からEB同盟に先手を取られたという報告を聞き――。


「それがどうした」


 と興味なさげにそう返す。

 実際、リガジーはEB同盟に興味はなかった。


 強い者との戦いを求める傾向にあるリガジー。

 EB同盟の中にも自身が楽しめるだけの強さを持つ者は居ると思ってはいるが、リガジーの興味は今、ただ一人に注がれている。


 必ず自身の前に立つと確信している者をここで待っているのだ。


 ただ、部下の鳥型の魔物はどうしたものかと汗を掻く。

 答えを求めてきたのに、その答えがもらえていないからだ。


 その姿を見て、リガジーはため息を吐く。


「……わかった、わかった。援軍を送れ。何がどうなろうと、数を増やせば対処出来る幅も広がるだろ」

「かしこまりました」


 部下の鳥型の魔物は頭を下げ、謁見の間から出て行こうとした時、扉が勢いよく開かれ、狼型の魔物が入ってくる。


「リガジー様! 大変です! ここに侵入者たちがあ」


 言葉は最後まで言えなかった。

 頭が斬り落とされたように離れ、絶命したのである。


 狼型の魔物は倒れ、その奥から別の者が姿を現す。

 その姿を見て、リガジーは楽しそうに笑みを浮かべた。


「随分と俺を待たせるじゃないか」


 リガジーの視線の先、現れたのは、アドミリアル――アドル。


「……時間がかかった事は確かだ。だが、お前を確実に殺すためにこれまでの時間が必要だったのだ」

「なるほど。確かに、俺を倒せるだけの強さを得るのなら、これだけ時間がかかるのも納得だ。だから、失望させてくれるなよ。お前が俺の前に現れるのを待ってやったんだからよ。勝者に捧げられる景品と一緒にな」


 玉座の奥、リガジーの上。

 アドルはそこに視線を向ける。


 そこには、アドルの妻――氷に閉ざされたままのロザミリアナが宙に吊るされていた。


 アドルの胸の内に去来するのは、あの日の事。

 ロザミリアナを残し、強襲したリガジーから逃れた……敗北の日。


「……あの日失った全てを取り戻す事は出来ない。だが、ロザミリアナは返してもらうぞ」


 アドルの表情が怒気と殺意に満ちる。


「さぁ、殺し合いを始めようか。リガジー・フューリー」

「ハハハハハッ! そうだ! 始めよう! 殺し合いを!」


 アドル、リガジー、双方共に真正面に駆け出し、拳を放つ。

 二人の拳は衝突し、大気を震わす衝撃が謁見の間全体に響いた。


 逃げ遅れた部下の鳥型の魔物は、隅の方で縮こまる。


     ―――


 一方、城内。

 狼型の魔物が言ったように、侵入者は複数。

 アドルだけではなかった。


「セミナスさんから魔王がどこに居るかを聞いた時からここまで、アドルさんは怖かったね。ピリピリしていたというべきか」

「事情を知れば、それも仕方ないと言える」


 詩夕と常水が、魔物を倒しながら城内を進んでいく。

 そのあとに続いて、咲穂と水連も続く。


「でも、勝てるかな……心配だよ」

「……それは私も同じ。でも、手出しは出来ない。しちゃいけない」

「うん。そうだね」


 咲穂と水連も、詩夕と常水と同じように魔物を倒していた。

 その目的は明白。


 大魔王軍の戦力を少しでも削ぐのと、アドルの戦いに邪魔が入らないようにする事である。

 なので、詩夕、常水、咲穂、水連の四人は、自分たちが目立って魔物たちの注意を集めるために、派手に暴れていた。


 また、相手が魔王である以上、もしもの可能性は存在している。

 その時のために、詩夕たちは控えてもいた。

 誰も、その時は来ないだろうと信じて。


 古城の外、古都の方でも同じような事が起こっている。


「オラオラ! かかってこんかい! 義父や義母、妻のしごきに比べたら、お前たちなんて脅威でもなんでもないからな!」


 DDが暴れて襲いかかる魔物を蹴散らしていた。

 追随するように、普段は音楽を奏でている竜たちも参加している。


 基本的に竜たちの参戦は秘匿だが、知っている者たちだけしか居ないところであれば、姿を見せても問題ないのである。


 アドル、詩夕、常水、咲穂、水連、DD、竜たちのこの行動は、セミナスの案によるモノだ。

 セミナスがその能力で魔王たちの居場所を探り、DDと竜たちの背に乗った、アドルと詩夕たちによる、魔王強襲作戦。


 もちろん、勝算ありとセミナスが判断しての行動。


 確かに、大魔王軍は脅威である。

 だが、その中でも特に脅威となるのが、やはり大魔王と魔王たちなのだ。

 大魔王軍にとっての象徴であり、ただ数を集めて挑んでもいたずらに減らすだけで、個人で全てを覆すだけの力を有している。


 だからこそ、大魔王軍はEB同盟に任せて、大魔王、魔王たちに関しては少数精鋭で挑むしかないのだ。


 上大陸東部。古城にて。

 アドルと魔王の戦いが始まった。

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