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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 EB同盟 上大陸西部 1

 ――大陸歴116年。

 EB同盟対大魔王軍の長きに渡る戦いは、この年に終結する。

 双方共にこの戦いが最後だと準備を進めていた時、先に相手陣地に現れ、戦端を開いたのは――。


     ―――


 ある平原に戦力が集結していく。

 それは目に見えてわかる戦力。数の暴力である。

 その数は一万や二万ではきかない。


 というよりは、今も集まり続けているのだ。

 膨れ上がっている、と表現する方が正しいかもしれない。


 ただし、統一性はない。

 バラバラで協調性は一切見えない。

 いや、ある程度ごとに固まってはいるのだが、他のところと関わっている素振りはなかった。


 また、今も増え続けている影響か、柵のようなモノもない、

 ここは終点ではなく、通過点なのだ。

 目的地は、ここより先にある事の証明だろう。


 そこに、大きな音が鳴り響く。

 一度ではない。

 二度、三度、と。


 相手に己を示すように。

 己を鼓舞するかのように。


 当然、平原に集まっていた者たちは、音の鳴る方へ注意を向ける。

 視線だけではなく、意識を。


 何しろ、今自分たちが居る場所は、自分たちの支配地域。

 そこに自分たち以外の者たちが、ここに居るぞと激しい音を鳴らしたのだ。

 一気に警戒を強める。


 そして、音が鳴った方向から、次々と姿を現す。

 それは、この場に集まっている数よりも多い、まさに大軍勢であった。


 現れた大軍勢を率いているのは、赤い髪をたなびかせる美しい女性、白髪に狼の耳を持つ筋骨隆々の男性、青髪オールバックの細身の男性の三人。


 軍事国ネス、獣人国、魔族の国の連合軍である。


 戦端を先に開いたのは、EB同盟。

 場所は、上大陸西部。

 下大陸から上大陸に入って少し進めば存在する、大平原であった。


     ―――


 平原に集結する大魔王軍を見て、軍事国ネスの女王・ガラナは溜息を吐いてから、隣に視線を向ける。


「先にこちらが攻め入り、大魔王軍を見つけた。なのに、銅鑼を鳴らす意味はあったか? そのまま攻め入れば大魔王軍に混乱を起こす事が出来た。それはつまり、こちらに有利な状況を作り出せたという事になる」


 ガラナが少しだけ責めるような言葉をかけたのは、銅鑼を鳴らすように提案した獣人国の王・ウルトラン。


「ハハハハハッ! 確かに、ガラナ殿の言う通り、先手は取れたかもしれん。しかし、大魔王軍の数を見ろ。今も増え続けているのだ。なら、長期戦になるのは確実。初手を制して勢いを得るのも重要だが、落ち着く間もなくここまできている。一度、間を作ってしっかり構えんと、勢いに乗り過ぎて飛ばす事になり、先に疲れ切ってしまうのはこちらだ。なっ? ロードレイル殿」


 ウルトランが隣に居る魔族の国の王・ロードレイルに同意を求める。


「………………」


 ロードレイルは答えない。

 キリッとした表情を浮かべて、大魔王軍を見ているだけだ。

 代わりに、ロードレイルの傍に控えている宰相が答える。


「すみません。ロードレイル様は人の多さに色々と一杯一杯と言いますか、許容限界を超えてしまったようでして、この表情と態度を……王としての姿を見せるだけで精一杯でございます」

「あ、あぁ」

「そ、そうか」


 ウルトランとガラナは曖昧な返事をする。


「ですが、意見としてはロードレイル様もウルトラン様に同意するでしょう。ここは通過点でしかありません。目的が勝利で相手が大魔王軍である以上、戦いはここだけで終わらないのですから」


 その通りだとウルトランが頷く。

 ガラナも、自分の気持ちが少々早っていた事を自覚し、言いたい事は理解したと頷く。


「もう大丈夫。……我もまだまだか」


 情けない、とガラナは息を吐く。


「そう自分を卑下する事はないぞ、ガラナ殿。その若さで軍事国ネスを率い、ラメゼリア王国と和解までしたのだ。立派な女王として、歴史に名を残すだろう」

「ありがとう。だが、それも大魔王軍に勝利して生き残ればこそ、だ」

「それこそ心配は要らん。確かに、大魔王軍は大軍勢だ。だが、こちらも大軍勢だ」


 ウルトランが後方を見る。

 そこにあるのは、軍事国ネス、獣人国、魔族の国からなる連合軍。大軍勢。

 どの国も、念のための最低限の戦力だけを自国に残し、それ以外の戦力はここまで引き連れて来ていた。


 また、この場に居る者たちは、誰しもがやる気に満ちている。

 今この時、この場所から、大魔王軍との戦いを終わらせるための戦いが始まる、という意思の高さがあった。


 その表情を見て、満足げに頷くウルトラン。


「では、始めようか。ガラナ殿。ロードレイル殿」

「ああ」

「………………」


 えっと、という感じで、ガラナとウルトランはロードレイルを見る。

 ロードレイルは、キリッとした表情で大魔王軍の軍勢を見ているだけだ。


 控えていた宰相が、ロードレイルにこそっと耳打ちする。


「……はっ! ……だ、大丈夫です!」


 何が? とガラナとウルトランは思うが、口には出さなかった。

 ロードレイルの傍で、宰相が状況を説明しつつ、ガラナとウルトランに向けて続きをどうぞと促しているからである。


 大丈夫だろうか? と思いつつ、ガラナ、ウルトラン、ロードレイルと、順番に声を張り上げていく。


「精強なる軍事国ネスの者たちよ! 戦の準備は出来ているか!」

『おおおおおっ!』


 軍事国ネスに所属する者たちが、天に轟くように声を張り上げる。


「勇猛なる獣人国の者たちよ! 我らの武を示す時が来た!」

『うおおおおっ!』


 獣人国に所属する者たちが、最強は自分だとでも言うように声を張り上げる。


「屈強なる魔族の国の者たちよ! 私たちの前に立ち塞がるモノを蹂躙せよ!」

『わああああっ!』


 魔族の国に所属する者たちが、己を鼓舞するように声を張り上げる。

 ロードレイルの時だけ、宰相がこそっと耳打ちしていたのはご愛敬だろう。


 そして、タイミングを意図的に合わせた訳ではなく、自然な流れのように、ガラナ、ウルトラン、ロードレイルの声が重なる。


「「「EB同盟! 今この時より、勝利を掴むための戦いを始める! 進軍せよ!」」」

『『『うおわあああああっ!』』』


 EB同盟が大魔王軍に向けて進攻を開始する。


 EB同盟対大魔王軍。

 上大陸西部側での戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「始まるっ!!」って感じが凄い。映画を観ているようでした。 鳥肌が立ちすぎて鳥肌なのかわからなくなった
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