求めるモノは人それぞれ
セミナスさんの前に、シャインさんが立つ。
なんだろう。それだけでなんか怖く感じる。
いうなれば、ラスボス戦というか、宿命のライバルがぶつかり合うような、そんな雰囲気が流れているように感じた。
まっ、俺の勝手な思い込みだけど。
何しろ、俺が知る中で、最強の二人なのは間違いない。
セミナスさんは言うまでもないし、シャインさんも誰かに負ける姿は想像出来ないからだ。
だからだろうか。
シャインさんは……それはもうニッコニコだ。
これから始まる戦いに、胸を躍らせているように見えなくもない。
そんなシャインさんに向けて、セミナスさんが口を開く。
「正直なところを言えば、あなたに私の課す鍛錬は必要ありません。既に大魔王、魔王と対抗出来るだけの力を有しています。その自覚はあると思いますが?」
「ああ、あるな。今の私なら、本気を出せば渡り合えると思っている。実際、ドラロスからも似たような事を言われた」
え? そうなの?
シャインさん、そんなに強かったの?
なのに、出会って直ぐ俺を追い回していたの?
思い出すだけで恐怖案件になるから、俺に聞こえないところで言って欲しかった。
「だからといって、私は現状に満足していない」
「………………」
「渡り合える程度じゃ駄目だ。私が求める私の強さは、誰が相手でも何も失わない強さだ。誰からも奪われない強さだ。誰の手も届かない強さだ」
そう言うシャインさんの表情は、どことなく狂気を孕んでいるように見えた。
まるで、ひたすらに強さを求める事で、旦那さんの死を乗り越えようと、必死にもがいているように。
「だから私は、相手が誰であれ、なんであれ、圧倒出来るだけの強さが欲しい」
「……私からあなたに何かしらの助言をするのであれば、強さを求める以外の事にも、そろそろ目を向けるべき時が来た、でしょうか」
「………………」
一瞬だけど、シャインさんが俺を見たような……気のせいかな。
「いえ、わかった上での行動のようですね」
「今は戦いの時代。いや、私の中では、あの時からずっとそうだ。その時代が変わらない限り、私の考えは変わらない」
「その一つの区切りが魔王……いえ、大魔王ですか。存外、不器用なのですね」
「戦いばかりの女だからな」
……なんだろう。
一流は一流を知る、みたいな空気感というか、セミナスさんとシャインさんは、どこかで通じ合っているように見えてきた。
「「それはない(ありません)」」
二人揃って俺にそう言ってきた。
息もぴったりだ。
「……まぁ、良いでしょう。絶対に勝てない相手が居るという事を教えてあげます。今の内に、私が上だという事を、あなたの心と体に刻んであげましょう」
「それは無理だな。私がお前に教えてやろうと思っていたんだ。勝てない相手が居るって事を」
バチィン! と二人の間に火花が散ったような気がする。
危険な予感がするので、一歩下がった。
同時に、パァン! と激しく弾けるような音と衝撃によって発生した風によって、体が揺さぶられる。
見れば、シャインさんが拳を突き出し、その拳をセミナスさんが受けとめていた。
動きがまったく見えなかったんですけど。
「今のをとめるか……楽しませてくれそうだ」
「お忘れですか? 私は先を読むのですよ」
「そう、だったな!」
セミナスさんとシャインさんの模擬戦が始まる。
いや、もう模擬戦ってレベルじゃなかった。
お互い本気なんじゃないかってくらい、規模が大きい。
漫画みたいに地面がえぐれたり、衝撃波だけ残して姿が見えなかったりと、明らかに違う世界の人たちの戦いだ。
というか、こういう戦いって自然災害レベルだけど、大丈夫なんだろうか?
直ぐ近くには世界樹もあるのに。
近くに来たドラロスさんに尋ねる。
「これ、大丈夫なんですか?」
「我だって出来るぞ、これくらい」
そういう事を聞いているんじゃない。
同じく近くに来た詩夕に尋ねる。
「これ、もう駄目でしょ?」
「僕もこれくらい出来るようにならないと」
駄目だ、詩夕。そっちに行っちゃ。
とりあえず、セミナスさんとシャインさんの戦いは、基本的に俺以外には参考になるそうで、全員で観戦する事になった。
ついでに言うと、一日半くらい続いたあと、ここで決着を着けるのはもったいないという理由で、引き分けで終わる。
―――
セミナスさんの前に、DD、ジースくんたち、それと竜の女王であるミレナさんが並ぶ。
「………………」
セミナスさんの表情は困惑、というか、面倒そうな表情を浮かべている。
「竜は大魔王軍との戦いには不干渉。なら、あなたたちも鍛える必要はありませんが?」
「いえ、鍛えて欲しい訳ではありません。ですが、不干渉という訳でもありません」
答えたのは、ミレナさん。
DDとジースくんたちは、直立不動で待機している。
竜形態なので辛そうだ。
でも、解く事は許されていないんだろうな、きっと。
「不干渉ではない、とは? 干渉すると?」
「ええ、干渉します。確かに、これまでは不干渉でした。ですが、状況は刻一刻と変化するモノ。何より、私は知りました。父であるドラロスが秘密裏に協力し、魔王を仕留める事が出来なかった事を」
仕留めきれなくて……すみません、とドラロスさんが無言で頭を下げていた。
というか、この会話……なんとなくだけど、竜たちが協力するって事を、俺や詩夕たちに聞かせているような気がする。
だって、セミナスさんはそういうのを全部知っている訳だし。
まぁ、今詩夕たちはシャインさんにしごかれているので、聞こえているかどうかはわからないけど。
「なら、その雪辱を晴らすためにも、竜はあなたたちに協力します。ですが、以前と同じように秘密裡の協力です。具体的には、バレないように牽制と殲滅を行うのと」
ミレナさんがそこで区切って、俺に視線を向ける。
「私とダーリンが人の姿を取り、あなたの護衛として行動を共にします」
「良いでしょう」
答えたのは、セミナスさん。
あれ? 俺の意思は?
いや、助かるっちゃ助かるから、別に断るつもりはないけど。
「話はわかりましたが、なら、そこに並んでいる竜共はなんでしょうか? 鍛えて欲しい訳ではないのですよね?」
「実は、このような相談をするのもどうかと思うのですが……ここで過ごしている内にダーリンたちの耐久力が更に上がったようで、これまでの技では効きづらくなっているのです。なので、効果のある技を知りませんか? もしあるのなら、教えていただきたいのですが?」
聞く人を間違えて……いや、この場合は正解なのかな?
それはDDとジースくんたちも実感しているのか、ダラダラと汗を流している。
セミナスさんは、楽しそうに笑みを浮かべた。
「それは大変興味深い話ですね」
頑張って生き延びてください、と心の中で、DDとジースくんたちに向けて応援しておいた。




