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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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言って欲しい時ほど言ってくれない

 ……森を出るのに数日かかった。

 本来なら、もう少し早く森を出る事が出来たのだが、時間がかかったのには理由がある。


 単純に迷った。


 いや、でも……これは仕方ない。

 巨大バッタを追っている内に、方向がわからなくなったのだ。

 それくらい必死だったのだから、これは誰も悪くない。

 誰も責めちゃいけないよ。


「やはりここは、セミナスさんに尋ねるしかないか」

「そうですね。となると、アキミチにお願いしましょう」

「アキミチにお願いというか、アキミチがお願いをするって方が正しいんじゃない?」

「………………」

⦅マスター以外の者の言う事を聞く気はないんだからね、と言っておきましょう⦆


 必然的に俺に白羽の矢が立つ。

 ……誰も責めちゃいけない。


 進むべき方角がわかれば、あとはその方角に向けて進むだけだ。

 幸い、動植物が豊富だったのと、近くに飲める川が流れていたので、道程は特に問題はなかった。

 ……でも、総合的に考えれば、ここで時間を食ったとも言える。


⦅問題ありません。まだ許容範囲内です⦆


 大丈夫っぽい。

 それと、森を出るまでの間に、インジャオさんによる俺の鍛錬が始まった。

 といっても、基本は体力向上のトレーニングで、寝る前に一日の総仕上げとしてインジャオと模擬戦を行うくらいだろうか。


 模擬戦といっても、俺から攻撃はしない。

 攻撃に関する才能はなくても、防御に関する才能はピカイチらしいので、そっちを重点的に鍛えるため。

 アドルさんとウルルさんが言うには、インジャオさんの攻撃能力はこの世界でもトップクラスとの事で、インジャオさんの本気を少しでもしのげるようになれば、大抵の相手には充分通用するそうだ。


 ちなみに、インジャオさんはまだ本気を出していない。

 かなり手加減されているにも関わらず、俺はインジャオさんの攻撃をしのぎきる事が出来ないのが現状である。

 いや、寧ろ普通に手も足も出ずにボコられた。


「まだまだですね、アキミチ」

「ふぁい」


 倒れたまま返事をする。

 こんな恰好で失礼。

 でも、立てないんだから仕方ないよね。


 そうして、インジャオさんの手加減された攻撃を受け続けていく内に、やっぱりそうだと理解する。

 たとえ対応するスキルがあろうとも、所詮は使う者次第。

 使えるという事と、使いこなすという事は、全くの別物だという事だ。

 ……熟練度、あるかもしれない。


 まぁ、なかったとしても、慣れ親しむ事は重要で間違っていないと思う。

 それに、使いこなせるようになれば、セミナスさんの出す指示にもきちんと応える事が出来るようになっているはずだ。

 頑張ろう……頑張れ、俺。

 モチベーションが自然と高まった。


 という訳で、森は出たんだけど……これからどっちに向かえば良いの?


「安心しろ、アキミチ。森さえ出てしまえば、もうこちらのモノだ。インジャオ、地図を」

「もう出していますよ、アドル様。これで進行方向もバッチリです」

「さて、近場の町か村は……どこかなぁ?」


 アドルさんたちが地図とにらめっこをし始めた。

 ……でも。


「出て来た場所がどこかわからないと、進む方向もわからないんじゃ?」

「「「………………」」」


 俺の呟きに、アドルさんたちが固まり、どこか暗い雰囲気が漂う。

 ……再び、心の中でセミナスさんに頭を下げる。


⦅……はぁ。仕方ありませんね⦆


 出て来た場所がわかり、地図によって進むべき方角がわかると、アドルさんたちは活き活きし出す。


「私たちの進むべき方向はあちらだ!」

「道中の野良魔物は任せて下さい! 全て薙ぎ払ってみせます!」

「少し行けば街道があって、一番近いのは村ですけど、そう離れてはいないようなので、余り時間をかける事なく一息吐けそうですよ」

「うむ。では、行くぞぉ!」


 おぉー! と、インジャオさんとウルルさんが拳を突き上げる。

 いや、待って。

 もう少し俺を労ってくれても良いんじゃない?

 確かに、セミナスさんに聞いただけよ?

 でも、皆の代表として頭を下げたんだからさ………………まぁ、心の中だから目に見えて、という訳じゃないけど。

 それでも、ありがとう、と感謝の言葉は欲しい。


 と、考えていると、不意にアドルさんが俺の肩に手をポンと置く。

 目の前に居るアドルさんだけじゃなく、後方に居るインジャオさんとウルルさんも、笑みを浮かべて俺を見ていた。


 おっ、まさか……。

 そうだよね。未だ短い期間とはいえ、ここまで一緒に行動を共にしてきたんだから、絆が出来ていてもおかしくない……はず!

 つまり、感謝の言葉を――。


 アドルさんたちが、グッ! と親指を立てた。


 言わないんかい!

 気持ちは届いた……と思っておこう。


 そして、いつまでもここに居ても仕方ないので、早速移動を開始する。

 といっても、ウルルさんはそう時間がかからないと言っていたが、多分だけど思った以上に時間はかかっていた。

 何しろ、俺の鍛錬を行いながらだったので。


 継続は力になると言うし……申し訳ない。


 そんなこんなで、街道に出てから数日後、村が見えてきた。

 視界に映る村は、それほど大きくない……ように見える。

 まぁ、村だしね。

 壁……ではなく柵に囲まれ、それなりに大きな畑が隣接している。

 木造の建物が何棟か並び、閑散な雰囲気が流れていた。


 ……パッと見は、寂れているように見える。

 いや、待てよ。

 寂れていると感じるのは、俺の感性だ。

 この世界からすれば、普通の村なのかもしれない。


「ふ~む。寂れているな」

「そうですね。こんな状態ですと、馬も居るかどうか」

「牛とかなら居るかも?」

「「……いや、牛が居ても」」


 あっ、やっぱり寂れているんだ。

 どうやら、一般的な感覚に間違いはないようで安心。

 でも、馬は居ないよね……多分。

 ……居たとしても、なんか連れて行き辛い。


 それはアドルさんたちも同じなのか、う~ん……と悩み、判断が出来ないでいるようだ。


⦅問題ありません。馬を手に入れるのは、ここではありませんので⦆


 一気に解決した。

 悲壮な思いをしなくて良し!

 セミナスさんは一体どこまで先が見えてんの? と問いたいけど、今はその答えだけで満足だ。

 細かい事を気にしてはいけない。

 セミナスさんは俺の味方、という事だけで充分。


 俺はニコニコと笑みを浮かべて、アドルさんたちに教える。

 アドルさんたちも笑みを浮かべた。

 ……インジャオさんは雰囲気が華やかになった……ように見える。


「それでは、折角だし一泊くらいはしていくか」

「そうですね。野宿ではないだけありがたいです」

「はぁ~、久々にのんびり出来そうですね~」

「それじゃ、行こう!」


 おー! と揃って拳を突き上げる。

 村へと向かった。

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