言うべき時に、言うべき言葉がある
「ところで、セミナスさん」
「はい。なんでしょうか? と問いたいですが、マスター。まずはこうして出会った女性に対して、何か言う事があるのではありませんか?」
……え? えっと……。
セミナスさんがそう問うって事は、実際に何かある訳だ。
となると、こういう場合に言うべき事は……。
「その姿、セミナスさんそのままです」
「ありがとうございます。ですが、足りません。もう一声」
もう一声?
そこら辺は個人の匙加減だと思うんだけど。
「えーと、眼鏡似合ってる」
「そこではありません。もう少し大きく見てください」
眼鏡はかなり重要だと思うけど。
「ドレス似合ってる?」
「疑問形で言わないように。大きい物を見ろという事ではありません」
「……綺麗です」
「ありがとうございます。マスターに綺麗と言われて、私は非常に満足しました。今はそれで充分です」
セミナスさんが嬉しそうに一礼する。
容姿を褒めて欲しかったよう……今は?
今後があるの? と思っていると、セミナスさんがチラッとエイトたちを見る。
エイトたちの表情に「?」が浮かぶが、直ぐに「!」へと変わった。
「ご主人様。エイトに対しては何かないのですか?」
「あたいたちも言われたいな」
エイトたちも同じような事をご所望のようだ。
というか、今、確実に合図が送られたよね?
セミナスさんとエイトたちが仲良くなって嬉しいけど、あまり俺を追い詰めないで欲しい。
でも、日頃助けられている事は確かだ。
感謝の言葉として言うくらい、なんて事はない。
………………。
………………。
あの、なんで二週目に突入するの?
セミナスさんもしれっと並んでいるし。
「約束では撫でてもらえるはずが、まだ撫でてもらっていません」
そういえば、そんな約束があったね。
………………。
………………頑張った。
いや、頑張るような事じゃないか。
でも、もう少しボキャブラリーを増やそうと思った。
―――
場が落ち着いたところで、セミナスさんに尋ねる。
「それで、セミナスさん。過去から戻ってきたけど、これからどうするの?」
「これから世界樹のある島に戻り、過去で知った事を説明し、アイオリとエアリーからの手紙を渡してください。そのあとは、来たる大魔王軍との決戦までの数カ月間。そのまま鍛錬を行います。マスターだけではなく、他の者たちにも。何しろ、相手はこの体と同じ神造超生命体。今よりレベルアップしていただかないと通用しません」
やっぱり、それだけ強いんだ。
……ん? あれ?
「通用しないってわかるの?」
「はい。私の力も上がり、大魔王、魔王と同等の体も得ました。故に、全て見通せるのです……と言いたいのですが、残念ですが相手も中々やるようです。以前よりは、かなり明確に相手の事が見えますが、未だ勝利が確定した未来は見えません」
それは、まぁ……なんとも言えない。
「……それだけ大魔王、魔王は強いって事?」
「いえ、正確に言うのであれば、魔王に関しては大丈夫です。ですが、大魔王は不可能でした。最初の神造超生命体だからか、それとも別の特殊性が存在しているのか……」
セミナスさんがとても悔しそうにしている。
なんというか、これまで言葉だけだった分、表情があるのが新鮮に感じた。
「まだ謎があるって事か。……ところで、セミナスさんの口ぶりだと、俺以外も鍛えるって事? 詩夕たちやアドルさんたちを、大魔王、魔王に通用するくらいまで鍛えるって事?」
「はい。可能です。少々スパルタになるかもしれませんが、強くなるためなら大丈夫です」
多分、少々じゃないと思う。
それでも大丈夫だからこそ、そう言っているんだろうけど。
「……ん? という事は、セミナスさんが直接指導を?」
「はい。こうして体を手に入れましたから、マスター以外とも会話が可能になりましたので」
そういえばそうだ。
というか、エイトたちとも会話してたね。
あっ、なんかそう思うと感慨深くなってきた。
巣立ちの時って感じがして……。
「何やら不本意な気分になってきました」
セミナスさんが口を尖らせる。
考えている事が読まれているのかもしれない。
実際は読まれていないけど。
「こういう時、マスターから離れた事が口惜しいと感じますね。表情だけでは正確に読み取れません」
大丈夫なようだ。
「時間の問題でしょうが」
セミナスさんの表情は自信満々だ。
エイトたちも、その通りだと頷いている。
案外直ぐそうなりそうで怖い。
とりあえず、セミナスさんが現れたら、皆が驚くのは間違いないだろうな。
で、そのあとに鍛錬という名の地獄が始まる気がする。
頑張って生きていこうと思った。
そして、目的が決まれば行動を起こすだけ。
まずは、ゴーイチたちとニセミチくんに確認。
「俺たちはそろそろ行くけど、どうする?」
「自分タチハ、ココニ残リマス」
「コノ研究所ヲ管理スルタメノ存在デスカラ」
「ソレニ、ソモソモ戦闘ガ出来ルヨウニハ造ラレテイマセン」
ゴーイチたちの返答は単純明快。
この研究所に残る事を選択。
まぁ、そうだろうな、とは思っていたけど。
「ゴーイチ、ゴーニ、ゴーサン……また、来るからね。今度は親友たちも連れて」
「「「待ッテルヨ、アッキー!」」」
ヒシッ! と抱き合って別れの挨拶をする。
「それで、ニセミチくんはどうするの?」
「あっ、自分もここに残ります。そもそも、ゴーイチさんたちと同じく戦闘能力ないですし、メンテナンスをする人も必要でしょうから」
「そっか。わかった」
ニセミチくんとは握手を交わす。
「マスター。ここは抱き合うところです」
「ご主人様。ここは抱き合うところです」
こらこら、セミナスさんとエイト。
どうして同じ事を言うのかな?
それに、自分とそっくりなのと抱き合うとか、ちょっとしたホラーじゃない?
ワンたちも、そうだと煽らない。
期待するような目を向けないように。
「それで、フォー、ファイブ、シックス、セブンはどうするの? 元々ここに居たけど」
「もちろん、ボスに付いて行きますよ。外の世界は刺激がありそうだ」
「お館様とお出掛け~、お散歩~、旅行~」
「お館様と出動~、出勤~、出向~」
「もちろん、大将と共に行きますよ。傍で見ていないと、平気で無茶しそうですし。それに、姉妹たちと離れるのも嫌ですから」
フォーたちは全員付いて来てくれるようだ。
それは素直に嬉しい。ありがとう。
「それじゃ、早速向かうけど、忘れ物というか、何か持っていく物はある?」
その問いに、ファイブ、シックス、セブンは、特に何もないと首を振る。
しかし、フォーは思い当たる物があるようだ。
「広場に一時保管しているのを全部」
「必要ないから」
ボスらしく、ピシャリと言い切ってとめた。




