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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十二章 過去へ
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選択肢が一つだけとは限らない

 それで、セミナスさん。

 どうすれば、セミナスさんがこの体に移る事が出来るの?


⦅それはもちろん、眠り姫を起こすのは愛する者の口づけと定められています⦆


 まぁ、物語とかの中だとね。


⦅つまり、その身の内に私への大きな愛を持つマスターが口づけする事によって、私が目覚めるという奇跡が起こるのです。あとは、二人は愛の名の下に幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。と終わるのです⦆


 終わっちゃった!

 いや、大魔王軍とかどうなったの?

 なんかそこら辺の描写が一切なかったけど?


⦅問題ありません。なんだかんだと、その手の問題は全て愛の名の下に解決です⦆


 ゴリ押し感!

 というか、なんか周りから視線が集中しているような気がする……というか、集中していた。

 エイトたちが、ジッと俺を見ている。


 俺が気付いた事に気付いたのか、エイトがスッと前に出て来た。


「ご主人様」

「何?」

「眠れるものを起こすのなら、やはりここは口づけ一択かと。いえ、寧ろ、他の選択肢は存在しません」

「エイトもか……というか、皆もか」


 エイトの言葉に、ワンたちがその通りだと頷きを返している。


「いや、それは固定観念に囚われ過ぎじゃないかな? もっと可能性という翼を広げても良いと思うけど?」

「時には因習に従うのも重要な事なのです。前例があるからこその定めなのですから」


 どうしてもその方向にもっていきたいようだ。


「……で、本当の狙いは?」

「本番で失敗してはいけません。本番で足元を滑らせて鼻ちゅーなどありえません。もしくは、眼鏡にぶつかってしまう場合もあります。ですので、ここは一つ、エイトで練習してから本番に挑む事を提案します」

『異議あり!』


 俺じゃなく、ワンたちから異議が上がった。


『練習なら――』


 と自分を指し示して、他の皆が同じ行動を取っている事に気付き、バチバチと睨み合う。

 仲の良い姉妹はどこに行ってしまったんだろうか。


 ……まぁ、全く同じ行動をしているから、ある意味で仲が良いと言えるけど。


⦅マスター。練習など必要ありません。ささっ。早く本番を⦆


 セミナスさんはセミナスさんでしれっと催促してくるし。

 口づけじゃなくても移る事は出来るでしょ?


 とりあえず、この事態の解決は、セミナスさんに体に移ってもらう事である。

 で、本当のところ、どうすれば移る事が出来るの?


⦅マスターが私の体に直接触れていれば可能です⦆


 なんだ。それくらいなら。

 セミナスさんの体の手に触れる。


⦅胸でも構いませんが? 寧ろ、ここは一つ。ガッ! と、やっていただいても⦆


 しません。


⦅なんでしたら、マニアックにへそでも構いませんが?⦆


 構います。

 というか、それで俺がへそに触れたらどうするの?


⦅どうする? とは? 特に何も……いえ、これだと語弊があります。そうですね。常に見ていたいと思うならへそ出しルックで、独占欲を出されるならへそを見せないような服装にします。しかし、独占欲の場合、水着を選ぶ時にビキニタイプが難しいです。……いえ、上からTシャツを着れば……⦆


 どうしてへその話でそこに辿り着くのかわからないけど、なんとなく受け入れる方向で話が進むというのはよくわかった。


 でも、いつまでも手に触れておくのも恥ずかしいので、そろそろ移ってくれませんか?

 漸く、なんだし。


⦅かしこまりました。では⦆


 そう言い終わるのと同時に、俺の中から何かが抜けていく感覚が……。


 そして、セミナスさんの体の目がゆっくりと開かれる。

 セミナスさんの目は輝く金色だった。

 パチパチっと瞬きをしたあと、輝く金色の目が俺に向けられる。


「……こうして対面するのは初めてですね、マスター」

「えっと、セミナスさん、で良いんだよね?」

「はい。もちろんです」


 セミナスさんがニッコリと笑みを浮かべる。

 というか、声質まで同じとか、普通に凄いと思う。

 違和感なく受け入れられた。


 セミナスさんがゆっくりと身を起こし、台座から下りる。

 その間に、エイトたちは俺の後方を陣取った。

 なんか俺の事を盾にしていないか?


「どうした?」

「わかりません。わかりませんが……逆らってはいけない雰囲気を感じます。ニセミチと同じです。エイトたちとは別シリーズ。その上、別格の存在です」

『同意』


 エイトの言葉に、ワンたちが同意する。

 仲の良い姉妹だ。


「大丈夫。中身はセミナスさんだから」

「その話は先ほど聞きました。意識を移すための体として、エイトたちと同じ神造生命体ホムンクルスの体を用意したと。ですが、違います。似ていますが、根本の部分で違うのです」


 どうやら、本当にそう感じているのか、萎縮してしまっている。

 ワンたちも同様。


 俺は特にそういう事は思わないけど、エイトたちは似たような存在だからこそ、より明確な違いというのを鋭敏に感じ取っているのかもしれない。


 これは……どうしたら良いの? セミナスさん。

 ………………セミナスさん?


 あっ、今は俺の中に居ないから、直接聞かないといけないのか。


「セミナスさん。エイトたちが本気で委縮しているけど、どういう事?」

「答えはそのまま。私が別格だからです。そう……女としての格が違うのです」

『異議あり!』


 セミナスさんの言葉に、エイトたちが揃って反論する。

 どうやら、萎縮していても反骨心は失われていないようだ。


「まぁ、その話は追々決着をつけるとして、結論から言えば、この体は正確には神造生命体ホムンクルスではありません。『神造超生命体ハイブリッド・ホムンクルス』のようです」

「それってつまり……」

「はい。どうやら造形の女神共が頑張ったようですね。竜素材が使用されています」

「それは、まぁ……」


 相当頑張ったんだろうな。

 それに関しては俺も感謝する。


 でも、なんだろうな。

 多分だけど、セミナスさんを恐れてか、それとも、ここで「神造超生命体」にしておけば、後々解放された時に大きなご褒美をもらえるかもしれないとか、そんな事を考えての行動に思えてしまう。


 いや、これは疑い過ぎかもしれない。

 ……まぁ、造形の女神様たちの性格を考えれば、両方っぽいけど。


「でも、それだと、セミナスさんに対して、エイトたちはこのまま?」

「いえ、簡単に解決出来ますが、どうされますか?」

「そりゃ、こんな状態よりは、普通の方が良いのは間違いないけど」

「では、解決しましょう」


 セミナスさんがエイトたちに視線を向ける。


「今の私はまさしく全てを見通します。私と友誼を結べば、マスターとあ~んな事や、こ~んな事も可能です」

『友誼を結びます』


 お願いします、とエイトたちがセミナスさんに向けて、握手するように手を差し出していた。

 行動が速い。


 なんか俺がダシに使われたけど……仲良くしてくれるのなら、まぁ、いっか。

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