たった一言で終わる話もある
造形の女神様たちが、俺に無断で俺に模した家事専用の神造生命体を造っていた。
その事に対して何かしらの制裁をしたいと思っていると。
⦅かしこまりました。まずは、過去で与えた道具類と、その道具類によって開発された運動器具が各部屋にありますので、それらを破壊、もしくは神共が使えないように没収する事を提案します⦆
セミナスさんがそう言ってきた。
有効なのは間違いない。
とりあえず、破壊は俺に向かないので、没収しようと思う。
それでも足りないような気がするが、目の前に居ない以上、今はこれが限界だ。
いや、待てよ。
もう一度過去に戻って――。
⦅時の神が封印されていて、特化七型の溜め込んでいた魔力が亡くなった以上、現状で時間移動は不可能です⦆
手段がないか。
非常に残念だ。
それにしても……なるほどね。
あの時、造形の女神様たちがジロジロと俺を見ていたのは、この神造生命体を造るためだったのか。
⦅はい⦆
で、セミナスさんも知っていた、と。
これってかなりの影響だと思うけど?
⦅悪い影響ではありませんので、スルーしました。それに、見分けがつかないくらいの精巧な出来栄えを。どうやら認めるしかないようです。造形の女神たちの腕前を⦆
確かに精巧だけど、別に認めなくても良いと思うよ。
⦅造形の女神たちには、『公式』の名を授けます⦆
いや、授けないでください。
俺は認めていません。
しかし、こうなると、この俺を模した神造生命体――ニセミチはどうすれば良いんだ?
どうしたものかと思っていると、ゴーイチたちが話しかけてくる。
「アッキー。ニセミチハ悪クナイ。悪イノハ、勝手ニアッキーヲ模シタ、ココノ神様タチノ方」
「ソレニ、ニセミチハ、ワタシタチノメンテナンスモ、シッカリ行ッテクレル!」
「ニセミチガ居タ事デ、ワタシタチ寂シクナカッタ! アッキーニ似テイルカラ!」
「ゴーイチたち……」
ニセミチの弁護を行うゴーイチたち。
多分、俺がどういう判断をするのかわからず、最悪破棄される可能性もあると考えての行動だろう。
現に、ニセミチはゴーイチたちの陰に隠れて、不安そうに俺を見ている。
俺にそこまでの権限があるとでも思っているんだろうか?
⦅ありますよ⦆
あるの?
⦅はい。この場に居る者たちの忠誠はマスターに集められています。つまり、実質ここのトップのようなモノです⦆
いや、ここのトップは嫌だな。
色々と面倒が多そうだし、変な責任も負わされそうだ。
フォーや造形の女神様たちの造ったモノに対して、毎日色んなところで謝罪する未来が見える。
⦅否定はしません⦆
してください。
でもまぁ、言いたい事はなんとなくわかる。
つまり、ニセミチの処遇は俺の意思次第って事なのね。
そうなると……。
「わかった。俺が特に何かするような事はしない。別に問題行動を起こしている訳でもなさそうだし。ゴーイチたちのメンテナンスに関しては、素直に感謝しかないしね」
「……いいんですか? 自分の存在を認めてくれるんですか?」
ニセミチが不安そうに尋ねてくる。
「いや、認めるとか認めないとかじゃなくて、現に一つの生命として存在しているんだから、俺がどうこう言う事じゃないでしょ?」
「いえ、そんな事はありません!」
その言葉を表現するように、ニコイチは両手を握って顔を振る。
⦅普通に「認める」と言えば、それで納得しますので、話が終わります⦆
それはそれで俺はなんか嫌なんだけど……まぁ、それで丸く収まるのなら仕方ない。
「わかった。認める」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにそう答えたニセミチは、エイトたち、ゴーイチたちを交えて、「ばんざーい! ばんざーい!」と喜びを表現した。
俺としては、自分とそっくりなのが、そういう行動を取ると少し複雑な気持ちになる。
ただ、そんなニセミチに、俺は大事な事を伝えないといけない。
「ところでニセミチくん」
「はい。呼び捨てでも構いませんよ」
「う~ん……いや、どことなく「くん」付けの方が合いそうだから、「くん」付けでいくよ。じゃなくて、一つ言いたい事があるんだけど、いいかな?」
「はい。なんですか?」
ニセミチが聞く体勢になったので、しっかりと言う。
「俺に関するエイトたちの発言は、全て消去で」
「わかりました!」
『えっ!』
ニセミチくんはかしこまりましたと敬礼する一方、エイトたちは驚きの表情を浮かべる。
いや、それはそうでしょ。
少しだけ聞こえていたけど、あれは妄想の類だったよね?
「あっ、ゴーイチたちから聞いていたら、そっちは大丈夫だから」
「わかりました!」
馬鹿な! とエイトたちがゴーイチたちを見て、ゴーイチたちはハイタッチしていた。
ゴーイチたちなら、きちんと伝えていると確信している。
「それでは、やはり本物からも色々と聞きたいのですが……構わないですか?」
ニセミチくんが恐る恐る尋ねてくる。
⦅お答えしましょう⦆
いや、セミナスさんが答えるんじゃないから。
食堂という事もあって、ニセミチくんと対面に座って、尋ねられる質問を丁寧に答えていく。
その間、エイトたちとゴーイチたちは自由にさせておいた。
―――
食堂でニセミチくんからの質問に答えていると、エイトたちの姿がない事に気付く。
自由にさせていたので、多分研究所内を見物しているんだろうなと思う。
特に、エイト、ワン、ツゥ、スリーは研究所の外に居たから、ここでの記憶がないか、薄いだろうし。
ちなみにゴーイチたちは、そろそろ食事の準備をしないと、とキッチンに行っている。
そうして質問に答えつつ、偶にセミナスさんが変な回答を挟んでそれを華麗にスルーしていると、ドタドタと走る音がいくつも聞こえてきた。
どんどん大きくなっていくので、こちらに近付いて来ているのがわかる。
「大変大変! ボス! 大変! なんか我輩の知らない部屋があるんだけど!」
「知らなーい! 知らなーい!」
「記憶になーい! 記憶になーい!」
フォー、ファイブ、シックスが駆け込んできた。
次いで、エイトたちも。
……というか、知らない部屋?
それを俺に聞かれても困るんだけど。
⦅あっ⦆
あっ?
……どうやら、心当たりがあるようですね? セミナスさん。
⦅はい。念のため確認したところ、強力な認識阻害の魔法がかけられていて、その効果が切れたようです⦆
……そんな魔法がかけられている部屋とか、危険な予感しかしない。
⦅そのような事はありません。私の体が安置されている部屋なのですから⦆
危険な予感は、あながち間違っていないような気がする。




