これまで要らなかったけど、急に必要になる時ってあるよね
……とりあえずわかった事がある。
ミノタウロス倒したとか、セミナスさんが有能過ぎるとか、シャインさんのしごきに耐えたとか、どこかで調子に乗っていたのかもしれない。
未だ俺は、まとも以上の装備がなければ、普通の魔物すら倒す事が出来ないのだ。
バッタすら倒せない。
脚力には自信が付いたけど。
やっぱり、この大魔王軍と戦争中の異世界で生き抜くためには、スキル「回避防御術」の熟練度を上げていくしかない。
まぁ、熟練度とかあるかわからないけど、そこにあるだけでは使いこなす事は出来ないような気がする。
何より、今のままで神様解放が続けられるとは思えない。
なので。
「これからも鍛錬をお願いします、インジャオさん」
「良い心掛けだと思うよ。アキミチの生存確率を少しでも上げられるように、自分も出来るだけの事をするよ」
「ありがとうございます」
インジャオさんと笑みを浮かべ合う。
まぁ、インジャオさんは骸骨だから、雰囲気でそうかな? と思っただけだけど。
あっ、歯の隙間に青のり……いや、鉄くずが。
さっきまで噛んでいたのかな?
「頑張ってね、アキミチ」
「はい! 頑張ります!」
ウルルさんからの声援に応える。
その手にはキラキラと輝く鉄の棒があった。
まだ噛ませるつもりなのかもしれない。
……おやつ感覚?
すると、アドルさんが介入してきた。
「待て待て。そういう事なら、私も協力しようではないか」
「「いえ、結構です」」
インジャオさんと揃った。
師弟として、心は一つ。
というか、そもそもアドルさんの師事はご遠慮して欲しい。
何故なら――。
「アドルさんの指示はこう……適当というか的外れっぽい感じがするし、そもそも師匠はインジャオさんと決めているので。朝弱いし」
「指導が混在するという事は、そのまま要らぬ混乱を招きやすいですからね。今回は自分に譲って下さいよ。アドル様は朝弱いですし」
「執拗に朝弱いと! そんなに重要!」
「「………………」」
………………まぁ、ほら……ね……。
あっ! そうそう。
朝から指導して欲しい時に出来ないのは困るから……とか?
「………………ジョギングでもすれば良いではないか」
健康かっ!
そんな感じで拗ねるアドルさんを慰めた。
インジャオさんも、ほら……と、アドルさんから見えない位置で手を小さく振る。
「え? ……あぁ。アドル様。アキミチを鍛えるのは、自分に任せて下さい」
そうじゃない。
「それに、アドル様には決めて頂きたい事がございます」
「「………………」」
アドルさんと揃って首を傾げる。
「セミナスさんの指示では、これから南の国に向かうとの事。下大陸での南の国となると、それが示す国はただ一つ。『ラメゼリア王国』。そこで間違いはないでしょうか?」
インジャオさんが尋ねて来たので、セミナスさんに聞く。
そうなの?
⦅はい。そうです⦆
「そうみたい」
「それがどうかしたのか?」
「それでしたら、さすがに距離がありますので、この状況ではどこかで馬でも用意しませんと、時間が相当かかると思うのですが?」
「なるほど。確かに、次の目的地がラメゼリア王国となると、インジャオの言う通りだな」
う~ん……と、アドルさんとインジャオさんが悩み出す。
ウルルさんは、さすが私の恋人! 良い着眼点です! と、うっとりとした視線をインジャオさんに向けている。
そんな中、俺は挙手した。
「……どうした? アキミチ」
「歩いて、もしくは走っていけないんですか?」
「いや、いけなくはないが、アキミチのペースに合わせるとなると、インジャオが言ったように相当な時間がかかるぞ。それで起こるであろう何かに間に合うのか?」
⦅間に合いません。ですので、どこかでペースアップを図る予定です⦆
間に合わないようだ。
ただ、まるで俺ではなく、アドルさんたちのペースで行けば、そんなにかからずに着くみたいな言い方だったのが気になる。
……いや、その通りなんだろうな。
どう考えても、アドルさんたちやシャインさんクラスの身体能力となると、高過ぎるというか異常だ。
そんなアドルさんたちのペースに合わせるなんて……今の俺には無理。
今後はわからないけど……。
希望を持つのは自由だよね?
親友たちなら……う~ん、いや無理か……でも、シャインさんが向かった訳だし、それぐらいは軽く出来るくらい鍛えられるかもしれない。
シャインさんだし。
DDも協力してそうだし。
……頑張れ。俺も頑張る。
という訳で、どうペースアップするつもりなの?
⦅秘密です⦆
そう言われると、余計に気になるんですけど?
⦅正確にはいくつか候補がありますので、現在どれにするか絞っています⦆
へぇ~、いくつかあるんだ。
たとえば?
⦅そこの吸血鬼たちにおんぶして貰います。ただ、この方法ですと、マスターが風圧に耐えられず落ちます。ロープで繋ぎ合わせた場合、落ちた事に気付かれずにそのまま引き摺られます⦆
却下で。
というか死ぬよね? それ。
気付いて! アドルさん、気付いて!
……あっ、それだったら抱えて貰うのは?
⦅……噂が立ちます⦆
うぅ~ん。事実と違う噂が立つのは困るな。
俺が無事に辿り着く方法はないの?
⦅現在検索中です⦆
見つかると良いな。
このままじゃ埒が明かないので、アドルさんたちに別の事を聞く。
「間に合わないみたいです。というか、魔法があるんですから、それで移動とか?」
「どういったものを期待しているのかはわからんが、そういった魔法はこの世界にはない」
「空に浮くくらいは出来ると思うけど、長距離移動となると……聞いた事はないかな」
「そもそも、浮き続けるだけでも魔力を消費し続けますからねぇ……移動するなんて無理だと思うけど?」
アドルさん、インジャオさん、ウルルさんから否定が入る。
………………。
………………。
いやいや、待て待て。
これはアレだ……チャンスではないだろうか?
ここでバーン! と移動に関する魔法を開発して、異世界魔法界隈に革命を巻き起こす、という展開を………………親友たちがしそうな気がする。
俺には無理。
だって、どうしたら良いとか、全然思い付かないし。
……待てよ。ここでセミナスさんに――。
⦅無用な混乱が起こります。また、空は竜の領域と言っても過言ではありませんので、無闇に飛べば撃ち落とされます⦆
怖っ!
でも、出来ないと言わないのがセミナスさんっぽいし……実際やろうと思えば出来るんだろうけど、無用な混乱が起こるのは嫌だな。
となると、馬を手に入れるという事に落ち着くのはわかる……わかるが。
再度、俺は高々と挙手する。
「どうした? アキミチ」
「乗馬経験ありません。馬、乗れません」
アドルさんたちから呆れたような視線……は向けられなかった。
寧ろ、優しい笑みを浮かべている。
アドルさんが、俺の両肩にぽんと手を置く。
「わかってた」
ですよね~!
だって仕方ないじゃないか。
普通、乗馬の経験なんてない、と思うし。
ただ、練習しようにもここでは馬が居ないので、まずは森を抜ける事にする。
そこから近隣の村か町を捜し、馬を手に入れる事が出来れば、そこで練習をしてみる事になった。
まぁ、もし駄目だったら、アドルさんの後ろにでも乗せて貰おうと思う。
……というか。
「野生の馬じゃ駄目なんですか? 居ないとか?」
「捜せば見つかるかもしれんが……そもそも、馬具類は一切持っておらん。必要ではなかったからな」
うん。だろうなって思った。




