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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十二章 過去へ
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時には厳しい判断も必要

 視界が歪み、体が浮遊感に包まれたかと思うと、そんな感覚は直ぐに消えて、視界も元に戻る。

 周囲の様子を窺えば、目の前にあるのは城。

 城壁に門。

 門の横には看板があって、「わたしとぼくの秘密研究所」と書かれている。


 どうやら、本当に戻って来たようだ。

 ちょっと半信半疑……いや、小信大疑くらいだったけど。

 セミナスさん保証がなければ、渡されても使わなかった可能性が大きい。


⦅私の事をそこまで信じていただけるとは。これはもう結ばれていると言っても過言ではありません⦆


 いえ、過言というか、表現がおかしい気がします。

 とりあえず、無事に戻って来れたけど、ここから先はどうするの?

 具体的には、いつ戻るの?


⦅前にも言いましたが、色々と融通はつけられますので、そう急ぐ必要はありません⦆


 じゃあ、この研究所の様子を見てから戻るか。

 ちなみに、戻る時はどうすれば良いの?

 セブンは居ないし、居ても魔力が溜まっていないだろうし。


⦅時の神にお願いして戻してもらいます。この時代だとまだ封印されていませんので⦆


 なるほど。

 時属性を司る神様か。


 ……となるとちょっと疑問なんだけど、時属性で時間を行き来出来るのなら、どうして封印されたの?


⦅時属性は使用する際に大きな魔力が必要ですが、その中でも時移動にはより膨大な魔力を使用します。それは神も同様で、そう簡単に、それこそ短時間で溜まるようなものではありません⦆


 ふんふん。

 という事は、その魔力を溜めている間に、封印されてしまったって事?


⦅はい。ここでマスターを未来に帰すために溜めていた魔力を全使用し、再び魔力を溜めるために眠っていたところで大魔王軍の侵攻が始まり、他の神に叩き起こされ、寝惚けた状態で戦場に行き、特に活躍する事なく封印されました⦆


 ………………。

 ………………。

 えっと、俺が原因?


⦅いえ、寝惚けていた時の神が悪いのです。マスターに否は一切ありません⦆


 いや、そうはいっても、知ってしまった以上、ちょっと責任を感じてしまうよ。


⦅わかりました。では、マスターが責任を感じないように、マスターを未来へ帰したあと、時の神には眠りについてもらいましょう⦆


 えっと……それは睡眠って事だよね?

 魔力を溜めるための。

 永遠の眠りとか、そういう類のじゃないよね?


⦅眠りについていただきます⦆


 ……ごめんなさい、時の神様。

 多分大丈夫だと思うけど、もしかしたら、もしかするかもしれない。

 まだ会っていないけど、心の中で謝って、無事を祈った。


 一応、セミナスさんにも念押ししておく。


 そして、まずは戻ってきた事を伝えるために、研究所内へと入っていった。


     ―――


 どこに居るのかと少しだけ捜すと、食堂の方から声が聞こえてきた。

 ……怒鳴り声? というよりは……。

 入口からこそっと確認。


 仲良くなったゴーレム――ゴーイチ、ゴーニ、ゴーサンの姿が見える。

 どうやら、自身の前に居るモノに対して声を上げているようだ。


 首の角度を変えて確認。


 ゴーイチたちの前に居たのは、正座させられている造形の女神様と製作の神様だった。

 生命の女神様は……近くに普通に座って食事を取っている。


 これは……遂に下克上が起こった?


⦅そうならよかったのですが、残念ですが違います⦆


 いや、それを残念だと思うのは、ちょっと。


⦅ですが、まずこの状況を見て、最初に思い浮かんだのが『下剋上』であるマスターも、あまり私の事は言えないと思いますが?⦆


 まぁ、確かにそうだよね。

 でも、造形の女神様たちのこれまでの行動と、ゴーイチたちのこれまでの待遇を考えると……無理もないかなって。


⦅私はマスターの考えを支持したいですが、残念ですが違います。ただの説教です⦆


 ……説教?

 どういう事? と食堂内に響く声に注意を向ける。


「造形ノ女神様」

「……はい」

「前ニ言イマシタヨネ? キチント栄養モ考エタ献立デスノデ、肉ダケデハナク、野菜モシッカリ食ベテクダサイト」

「……はい。言われました」

「デハ、コノ野菜ダケ残シテイルオ皿ハナンデスカ?」

「……だって、苦いんだもん」

「……ハッ。ダモン、テ」

「あ、あれ? なんか辛辣になってない?」


 どうやら、造形の女神様は野菜を残した事を叱られているらしい。

 ……そこはかとなくどうでもよくなってきたが、前に言われているのなら、俺はゴーイチたちの方に付く。


 いや、元からそうだけど。


「製作ノ神様」

「……はい」

「食事ノ時ハ、食事ニ集中シテクダサイト前々カラ言ッテイマスヨネ?」

「……はい」

「ナノニ、マタ本ヲ持ッテキテ、読ミナガラ食ベルトハ……」

「それに関しては、少しずつ改善をしている最中でして」

「ソノ割ニハ、片手デ食ベヤスイ献立ニシテクレ、ト言ワレマシタガ?」

「返す言葉もありません。というか、なんか厳しくなってない?」


 製作の神様は、食事中のマナーの方が引っかかっている訳か。

 こっちも、造形の女神様と同様で、俺はゴーイチたちの方に付く。


 で、唯一、生命の女神様だけ、普通に食事を取っている、と。


「生命の女神様ヲ見習ッテクダサイ」

「肉モ野菜モキチント食ベ」

「食事ノ時ハ、食事ニ集中シテイル」

「「「完璧パーフェクトです」」」


 ゴーイチたちに褒められた生命の女神様が、嬉しそうに食事を続ける。


 しかし、俺はその裏を知っていた。

 確かに、生命の女神様が文句も言わずに出された食事を食べている。

 それに間違いはない。


 ただし、それはあれが……セミナスさんが指定したダイエットメニューだからだ。

 多分、生命の女神様がゴーイチたちにこういう食事を出して欲しいとお願いしたんだろう。


 だからこそ、文句は出ず、肉も野菜も関係なく、真剣に食べているのだ。

 ……まぁ、ゴーイチたちが納得しているのなら、俺としても文句はないけど。


 と、そこで、造形の女神様と製作の神様が、覗いている俺を見つける。

 視線で訴えてきた。


 ――助けてください、と。


 俺は造形の女神様と製作の神様が見えるように、両腕を大きく動かし……クロス。

 無理です、と返した。


 絶望的な表情を浮かべる造形の女神様と製作の神様。

 多分、そろそろ足の痺れが限界なのかもしれない。


 自業自得な部分もあるし、ゴーイチたちも造形の女神様と製作の神様の事を思って叱っているのだ。

 それを邪魔するのは野暮というモノ。


⦅正しい判断です⦆


 神様たち全般に厳しいセミナスさんから了承をもらったようなモノなので、ゴーイチたちのお叱りが終わるまで研究所内を散歩した。

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