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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十二章 過去へ
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応援されているのかわからない時がある

 エアリーさんと合流してからは、王城内をすいすいと進んでいった。

 時折、エアリーさんに話しかける人は現れるのだが、少し話せばエアリーさんが話を切り上げて終わる。


 誰もがエアリーさんに注意を向けていて、見た目小間使いとなっている俺には誰も目もくれない。

 これがエアリーさんの狙いかな。


 そうして辿り着いた先は、エアリーさんが居た部屋と同じく、豪華な扉の前に騎士二人が居て、守りを固めていた。

 あの奥にアイオリさんが……。


 自然と喉が鳴る。


「一言も喋らないように」


 エアリーさんが小声で注意を促してくる。

 ボロが出ないように、だな。


 小さく頷くとエアリーさんが進み始めたので、置いていかれないようにあとを追う。

 扉を守っている騎士に向けて、エアリーさんが口を開く。


「アイオリ兄さんに話があるの。事前に話は通しているから、入れてもらうわね」

「エアリー様。はい。それは伺っていますが……その、そちらの……」


 何やら見られている予感。


「気にしなくて良いわ。一緒に中に入るけど、ただの小間使いだから。身元は私が保証するから問題ないわね?」

「いえ、そういう訳にはいきません。もちろん、エアリー様のお言葉を疑う訳ではありませんが、規則は規則です。最低でも、武器所持の有無と身体検査はさせてもらいます」


 え? 俺、調べられんの?


「ちっ。頭が固いわね」


 今、エアリーさん舌打ちした?

 面倒な、とか思っていそう。


 でもまぁ、別に調べられても問題ないかな?

 武器だってもっていないし、ASは基本腕輪だしね。


 あっ、でも、アイテム袋がここで預かりになったら困る。

 手記が必要だし。

 なら、手記を出して……中身を検分されたら困るな。


 どうしよう……と思っていると、扉が開かれ、執事っぽい人が出てくる。


「エアリー様は当然ですが、その小間使いも問題ありません。我が主がお呼びした者ですので、お通しください。もちろん、お調べする必要もありません」

「はっ! かしこまりました! どうぞ、お通りください」


 騎士二人が道を空け、執事が室内へ入るように促す。

 エアリーさんのあとに続いて室内に入ると、リビングのような造りの部屋を経由して、執事が隣室に案内する。


「お連れ致しました。では、私は隣室で控えていますので、いつでもお呼びください」


 エアリーさんと俺が隣室に入ると、執事さんは退出した。

 室内を確認。


 目に付くのは、大きなベッドにクローゼット。

 寝室なのは間違いない。

 その大きなベッドの上に、上半身だけ起こして、こちらを見ている男性が一人居た。


 七十代ほどの男性。

 白髪を後ろに流し、年老いてなお精悍な顔付き。

 寝巻なのか薄いローブを羽織っていて、細い体格をしているのがわかる。


 ただ、それでも内から溢れ出る圧力というか、オーラのようなモノが感じられた。

 この人が……アイオリさん。

 魔王を封印した先代勇者。


「連れて来たわよ」

「ありがとう。本来なら、こちらから出向いた方が良いんだろうけど」

「無理しなくて良いわよ」


 エアリーさんがベッド横にある椅子に腰かけ、こちらに来るようにと俺を手招く。


「あなたから聞いた事の憶えている部分は、アイオリ兄さんに説明し終わっているわ」


 という事らしいので、俺はエアリーさんの横に立ち、アイオリさんに向けて一礼する。


「はじめまして。アキミチです。アイオリさ……まに会うため、未来から来ました」

「こちらこそ、はじめまして。アイオリです。話の内容はエアリーから少し聞いているけど、とりあえず、私の事は『さん』付けでも構わないよ。これは非公式で、誰に何かを言うようなモノじゃない。友に話しかけるように気楽に話してくれて構わないよ」


 気兼ねなく、とアイオリさんが微笑む。

 好々爺、という雰囲気が強い。


「私にもそういう態度で接して欲しいね」


 エアリーさんがそう付け加えてくる。


「おや? エアリーがそんな事を言うなんて珍しい。よほど、彼の事を気に入ったようだね」

「どことなく、からかいがいがあるからね」

「はっはっ。本当に珍しい。違う時代の人だというのが残念だ」


 どうやら、アイオリさんにも茶目っ気があるようだ。


⦅マスターには私が居るというのに……たとえ世界統一国であろうとも、私なら壊滅させられますが、どうしますか?⦆


 どうもしません。

 それに、そもそもここは過去でしょ。


⦅はっ! 現代に世界統一国は存在していませんでした。失礼しました。私とした事が、とんだ茶目っ気を⦆


 ……茶目っ気という領分を超える提案だったと思うのは俺だけだろうか。

 それに、そもそもセミナスさんに茶目っ気はなく、全て計算の上だと思うんだけど。


⦅マスターは、私がそんな計算高い女だと思っているのですか?⦆


 ……なんだろう。

 セミナスさんが、うるうるとした目で俺を見ているような光景が頭の中に浮かぶ。


⦅正しくその通り。阿吽の呼吸。私たち、通じ合っていますね、マスター⦆


 ははは。

 とりあえず、エアリーさんに対抗しなくても大丈夫だから。


「それじゃ、詳しい話を聞かせてもらえるかな? それと、出来れば私が書いたという手記を見せて欲しいのだが」

「あっ、はい」


 アイテム袋の中から手記を取り出しつつ、最初から話し始める。

 エアリーさんには端的だったけど、今はきちんと話した方が良いと思ったので、出来るだけ詳しく丁寧に。


 また、アイオリさんとエアリーさんに関しては、話す内容に特に制限はなかった。

 完全に味方だと判別しているのか、セミナスさんから隠す事なく話した方が良いと言われたからだ。


 なので、これまでの事を詳しく、ここに来た目的をきちんと伝えた。


 その中で、アドルさんやシャインさんの事も教える。

 アドルさんに起きた事、これから起こる事を知って悲しそうにしていたが、シャインさんが強く生きていく事を知れてよかったと喜んでもいた。


 それと、セミナスさんの事を知ると、何故か応援される。


「予言の女神様が元になっているスキル、か。……頑張れ」

「……私たちと似たような道を歩んでいるのかしら。……お幸せに」


 ……あれ? 応援されている?


 手記に関しては、アイオリさんは既に書き上げていて、最後の一文がない以外は一言一句同じである事を確認して、苦笑いを浮かべていた。

 あとで最後の一文を付け足すそうだ。


 最後まで聞き終え、手記も確認し終わったアイオリさんは、大きく息を吐く。


「ありがとう。話してくれて。未来の状況がよくわかったよ。そして、魔王の情報が必要だという事も」

「それじゃあ」

「ああ。私とエアリーが調べた魔王の事を教えよう。その上で魔王を、未来では大魔王となった者をどうするかの判断は……アキミチ。君に託す」

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