偶に茶目っ気って出したくならない?
「……なるほど」
俺の説明を聞き終えたエアリーさんが、そう言って口を閉ざす。
セミナスさんの事も言ったけど、信じてくれたのだろうか?
……とりあえず、なんらかのリアクションが欲しいんですけど。
その一言だけで終わってしまうと、俺はどうすれば良いのでしょうか?
とりあえず、まずは魔法剣を全部しまって欲しい。
落ち着かないし、本当に腕がもう限界。
「……まぁ、聞きたい事が私とアイオリ兄さんが調べていた魔王の事についてなら、余計な害は与えない、か。良いでしょう。一応、信用してあげます。ただし、もし私の信用を裏切るのであれば……」
エアリーさんの俺を見る目により力が籠もる。
マジ許さないから、というのが伝わってきた。
そんなつもりは一切ないので、コクコクと何度も頷く。
「では」
エアリーさんが指をスッと横に軽く振る。
すると、俺に狙いを定めていた魔法剣の全てが消えた。
ホッと安堵の息を吐く。
手記を返してもらい、エアリーさんが口を開く。
「それで、魔王……今は大魔王となっている者の事を知るために過去に来た、と」
「そうです」
「一つ確認だけど、その大魔王というのは、本当に私やアイオリ兄さんが調べている魔王なのかしら? 会った事も見た事もないのでしょ?」
「はい。でも、アドルさんはそう思っています」
「アドル……アドミリアルか。それなら実際に魔王と相対しているので、そこからある程度の推測を立てる事は出来るわね」
エアリーさんが納得の雰囲気になった。
アドルさんが信頼されているのがよくわかる。
「それで、アイオリ兄さんにはどう会うつもりなのかしら?」
「えっと、セミナスさんによると、そこを協力して欲しいそうです」
「……なるほど。つまり、王城には侵入出来るけど、アイオリ兄さんの私室までは難しいから、私を利用して中に入りたい、という事で合っているかしら?」
そうなの?
⦅はい。その通りです。ですが、これは限られた時間の中での事であり、きちんとした時間さえいただければ独力でも可能です⦆
負けず嫌いなのかな?
大丈夫。今更、セミナスさんの力を疑うような真似はしないから。
寧ろ、エアリーさんの鋭さの方が驚きだ。
「はい。そうみたいです」
「……出来るだけ人に見られない方が良いという状況を考慮するなら、王城で私が一人になれば、そこから協力をお願いしたい、かしら?」
⦅はい⦆
その通りだと頷く。
えっと、なんかエアリーさんがもの凄い勢いで理解していっているんだけど。
⦅なかなか出来る者として記憶しておきます⦆
「それは、いつ?」
「……三日後の夜、だそうです」
「そう。私もアイオリ兄さんと話のすり合わせが出来るのは、その時かしら?」
「……みたいです。それまでは、どちらかに予定があったり、室内にお二人とは別に誰かしらが居るそうです」
そう伝えると、エアリーさんが満足するように一つ頷く。
「良いでしょう。わかりました。なら、三日後の夜に私の部屋まで来る事が出来たのなら、協力しましょう。……まぁ、ここも王城並みに警戒が厳重なのですが、こうして私の前まで来たという事は、三日後の夜も問題ないのでしょう?」
⦅問題ありません⦆
大丈夫です、と頷く。
でも、王城内に入れるのなら、そのままアイオリさんの部屋まで行けるんじゃないの?
⦅もちろん部屋前までは行けますが、扉前は常に誰かしらが立ち、周囲も警戒されています⦆
窓からとかは?
⦅魔法的措置が数多くあるため、アイオリの死亡までという限られた時間内では不可能です⦆
そういう事なら、確かにエアリーさんの協力がないとアイオリさんと会うのは難しい。
いや、不可能だろう。
エアリーさんが協力してくれて本当によかった。
でも、とりあえず、ここでもうこれ以上の話をするのは無粋だろう。
あとの事は、三日後の夜、アイオリさんと会ってからの方が良いと思う。
そもそもこれ以上の詳しい話は必要ない、
大魔王に関する事以外はセミナスさんが全て把握していて、その道筋は既に出来上がっているのだから。
エアリーさんもそれを理解しているように見える。
それに、エアリーさんは元々お祈りに来ているのだ。
これ以上、その邪魔をするのもなんなので、お暇する事にする。
⦅はい。既に確認し終わっていますので、いつでも脱出可能です⦆
うん。なら、もう脱出しよう。
「それでは、これ以上は邪魔でしょうから、もう行きます。三日後の夜にまた会いましょう」
「ふふ。まるで内緒で逢引する恋人同士のような会話ね」
「……ははは」
そんな急に茶目っ気を出されても困る。
それに、そういうのは危険だ。
過剰に反応する人が居る。
⦅エアリー……なかなか出来る者として記憶しましたが……消去しますか?⦆
それは、セミナスさんの中の記憶だけの話だよね?
それ以上の話ではないよね?
⦅抹殺しますか?⦆
……今、別の意味に変わったように聞こえたんだけど?
とりあえず、危険な感じがする。
⦅茶目っ気です⦆
いえ、声質に本気が交ざっていたような気がします。
なので、駄目です、と念押し。
これ以上ここに居るのは本当に危険な気がしてきたので、脱出する事にする。
「では、そろそろ行きます。お祈りの時間を邪魔してすみませんでした」
「いいえ、元々魔王に関しては私とアイオリ兄さんがやり残した事でもあります。それが巡り巡って未来で解決するのなら、協力は惜しみません。もちろん、アイオリ兄さんも同じ気持ちでしょう。その証拠は、言わなくてもわかりますね」
手記の最後の一文の事だろう。
だから、頷きだけ返し、一礼してここから脱出する。
潜入した時と同様に、タイミングにさえ気を付けておけば良いらしく、それほど難しい事はなかった。
というか、こういうところなら隠し通路とかありそうだけど、そっちで出ればよかったんじゃない?
⦅もちろん、隠し通路も把握していますが、そういう場所は立場の上の者が直ぐ逃げられるように、当人が利用している場所にある事が多く、常時とはいきませんが誰かしらが居るモノです。今も、この教会を仕切っている者が隠し通路のある場所に居ます⦆
そりゃそうか。
そういうのって、普通は脱出路として利用するモノだしね。
納得しつつ、王城に向かうまでの三日間、どうしようかなと思う。




