こういうのって案外直ぐ
辿り着いた場所は、森の中だった。
いや、森から出ていないんだから、当然である。
緑豊かな森の中に、目的の物が生い茂っていた。
――五色葉。
五色の葉を持つ薬草。
それが豊富に生い茂っている。
……白、黒、赤、緑、紫。
……赤、青、緑、黄、橙。
……桃、赤、青、黒、緑。
………………。
………………。
思っていたよりも、たくさんあるみたい。
これは予想外だけど………………えっと、コレで良いのかな?
手近にあるのを摘まむ。
⦅違います⦆
違うみたいだ。
良かったね。これからも大地と一緒だよ。
大地と引き離す前で良かった。
やっぱり、これだけ相思相愛の関係を崩すのは心苦しいからね。
「それで、どの色並びの五色葉が必要なんだ?」
「え? アドルさん。この薬草の事、知っているんですか?」
「知っているも何も、当たり前の事……あぁ、アキミチは異世界から来たんだったな。薬草として五色葉は、この世界では有名で当たり前のモノだ。色の並びで効能が違い、中には強い毒や酷い怪我にも通用するのがあると言われている」
「……言われている? 随分と曖昧なんですね」
「仕方ないだろう。種類が豊富過ぎて、全てを把握するのが難しいのだ。世界中至るところに群生しているが、地域性が存在しているようだし、未だに新しい色並びが誕生している、とまで言われている」
やれやれと肩をすくめるアドルさん。
五色葉が群生している方に視線を向ける。
……確かに、と思った。
ザッと見ただけでも、同じ色並びはないように見える。
………………。
………………いや、ある……いや、ない……。
わからん!
なんか見ているだけで目がチカチカしてくる。
同じ漢字を見過ぎて、これが本当に正しいのかわからなくなった……ような感覚が……。
とりあえず、眉間を揉んでおく。
……で、セミナスさん。
何色の並びが必要なの?
⦅最初に言ったはずですが?⦆
………………。
………………。
心の中で頭を下げる。
⦅仕方ありませんね。ここで無駄な時間をかけても仕方ありませんし。上から順に、白、赤、青、黄、緑の五色葉を捜して下さい⦆
……えっと、セミナスさんなら、どこにあるのかわかるんじゃ?
⦅申し訳ございません。本来なら『未来予測』の結果で場所を割り出す事も出来るのですが、この場は何かしらの時の乱れが発生しているのか、上手く働かないのです。原因となる要因として考えられるのは……いえ、不確定のままで言うべき事でありません。今は五色葉捜索を優先します。この場にあるのは間違いありませんので、宜しくお願いします⦆
わ、わかった。
セミナスさんでも確定出来ない事がある、というのが驚きだ。
驚きと共に怖さもある。
攻撃の才能が一切なく、「回避防御術」しか通用しない俺にとって、セミナスさんは正に生命線と言っても良い。
そう考えると、セミナスさんの力が及ばない状況って……危険が一杯?
なら、慎重に動いた方が良いかも。
………………。
………………。
いや、駄目だ。こんな考え方は駄目だ。
セミナスさんに頼った行動だと、自分が駄目になってしまう。
確かにセミナスさんの指示は的確だけど、実際に動くのは俺なんだ。
俺がしっかりしないと、セミナスさんの破格の力も意味はない。
頑張れ、俺!
よし! とやる気を漲らせ、アドルさんたちに必要な五色葉の色並びを教え、早速捜しに行こうと第一歩目を踏み出、あっと危ない。
こんな足元にも五色葉が。
危うく踏み潰すところだった。
いくら白、赤、青、黄、緑並びで必要ないとはいえ、自然は大事にしないと。
自分が必要なくても、誰かは必要なのかもしれないしね。
………………。
………………ん?
白……赤……青……黄……緑……。
………………。
………………こ、これだぁ~!
いや、え? いやいや、え? ええ? えええ?
待て待て待て待て。
ここは冷静になるべき時だ。
大丈夫。まだ時間がある。
これで間違えていたら恥ずかしいから、きちんと確認しないと。
だって、こんないきなりある訳ない! 見つかる訳ない!
きっと罠だ……よく見れば色並びが違うとか……そう、アレだ。
白は白でも、スノーホワイトとか。
赤は赤でも、ワインレッドとか。
青は青でも、コバルトブルーとか。
黄は黄でも、レモンイエローとか。
緑は緑でも、モスグリーンとか。
なんかパッと見はそうだけど、よく見ると微妙に違うとか、そういう可能性だってある。
………………。
………………うん。合ってる……ように見える。
⦅それです⦆
セミナスさんのお墨付き。間違いない。
「こ、これだぁ~!」
摘み取って高々と掲げ、高らかに宣言!
「「「えええええ……」」」
アドルさんたちから驚きの声が上がる。
それもそうだろう。
捜して欲しいと頼んだ途端に見つけたのだから。
⦅っ! 直ぐに引っ込めて下さい!⦆
「えっ?」
咄嗟に反応出来なかった。
高々と掲げていたのがいけなかったのだろう。
五色葉がかっさらわれた。
「ギチィッ」
突然現れたトノサマバッタのような魔物に。
「「「「えええええっ!」」」」
アドルさんたちと共に驚きの声を上げる。
トノサマバッタのような魔物……いや、もうトノサマバッタだった。
正し巨大。俺と対峙出来るくらいに巨大。
昆虫が人サイズになると……普通に怖い。
口? と思われる部分に五色葉を咥えたまま、逃げ出した。
「お、追えぇ~!」
「「「おおおおおっ!」」」
アドルさんのかけ声と共に、全員で一気に駆け出す。
くっ! 木々が邪魔で上手く捕まえられない!
走りながら思う。
俺は馬鹿だ! 本当に大馬鹿だ!
しっかりしなきゃと思った矢先に、セミナスさんの言葉に咄嗟の反応が遅れるなんて!
だけど、反省はあとだ!
まだ挽回出来る!
さすがに倒せるとは思えないけど、奪い返す事は可能なはずだ。
倒すのはアドルさんたちに任せよう。
トノサマバッタが逃げながら五色葉を食べようと、口? を動かす。
「やめろ、こらっ!」
咄嗟に掴んだ石を投げる。
当たるとは思えないけど、牽制にはなるはずだ。
「ギチ!」
当たった。
もしかして、異世界転移でコントロールが身に付いたのかもしれない。
それはそれで微妙だけど。
「………………」
「………………」
石が当たった衝撃で五色葉を落としたトノサマバッタと目が合う。
ロックオン! て感じ。
「ギチィ!」
本能が訴えるままに回れ右してダッシュ!
「うおおおぉぉぉっ!」
⦅右、左、左、右、右……⦆
バッタンバッタンと地響きを響かせながら、トノサマバッタが追いかけて来る。
セミナスさんの指示通りに木々をかわしながら逃走を図るが、怖い怖い! 超怖い!
無理無理! ほんと無理!
ちょっ! アドルさん! インジャオさん! ウルルさん!
「よし! 五色葉を取り返したぞ!」
「やりましたね、アドル様」
「でも、この五色葉をどう使うのでしょうか?」
「「……さぁ?」」
それは俺も気になる……じゃない!
今、気にする事はそっちじゃない!
俺! 俺を! トノサマバッタに追われている俺を気にして下さい!
アドルさん達が状況に気付くまで逃走は続き、どうにかそっちの方に誘導する事で、インジャオさんが難なくとどめを差した。
「「「ごめんごめん」」」
地団駄を踏みながら抗議しておいた。




