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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十二章 過去へ
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まぁ、普通は信じないよね

 黒髪の女性が俺の対面に座る。

 もちろん、机の上には牙と体毛が置かれていた。

 それに反応はしない。


 しかし、この女性が造形の女神様か。

 で、緑髪の女性が生命の女神様で、青髪の男性が製作の神様、ね。


 ………………。

 ………………。


 つまり、ある意味、諸悪の根源という事だ。

 様付けしなくても……いや、相手が神様なのは間違いない。

 ……様付けのままでいくか。


 でも、色々と言いたい事はあるが……ちょっと困った。

 あり過ぎて選べない。


 ……どうしよう。

 とりあえず、そこに並んで正座して欲しい。


 あと、時間が一日欲しい。

 24時間ずっと説教したい。

 もちろん、諸悪の根源はずっと正座で。


⦅今後の予定に余裕はありますが、何がどうなるかわからないのでやめてください⦆


 駄目なようだ。

 心の底から残念である。


「その表情……どうやら諦めたようね? ジョーカーである私の迫力に観念したのかしら? それとも、この芸術品のような肢体に見惚れて? いえ、小悪魔系プリティフェイスに、かな?」

「………………」


 何も言わずに、生命の女神様を見る。


「てめぇ! それはどういう意味だ! こら!」


 間髪入れずに、造形の女神様が俺の胸倉を掴んできた。

 いや、別に体型どうこう、顔付きどうこう、という訳ではなく、造形の女神様よりも生命の女神様の方が、まだまともに見えただけだ。


「あらあら、まぁまぁ。正直な方ですね」


 生命の女神様が嬉しそうに反応する。


「それもどういう意味だ! こら!」


 造形の女神様が、今度は生命の女神様に噛み付く。

 そんなに即過剰反応するって事は、普段からそういう風に比べられているのかな?


 ちなみにだが、製作の神様は関わらないように空気になっている。

 触らぬ神に祟りなし、とか思っていそう。


 それにしても、これから本当にどうしようか。

 とりあえず、正直に言うべきかな。


「……わかりました。俺は未来から来たんです」


 そう言った途端、造形の女神様たちの動きがとまり、ゆっくりと俺を見る。


「………………未来から、来た?」

「はい」


 正直にそう答えると、造形の女神様たちは顔を突き合わせて話し合いを始める。


「未来から来たって、どう思う?」

「俺、似たような状況に陥ったら、同じ返しするわ」

「あっ、ズルい。私もそうしようと思っていたのに」

「私も良いと思ったのよ。こんな刷毛とか葉っぱとか牙とか体毛なんかより、もっと話が膨らみそうな返しだし」

「それにしても……未来から来た、か。どうすればそんな返しが出来るのか」

「本人の資質、かしら?」

「いや、もしかしたらだけど……催眠ガスで混乱した結果、とか?」

「「それだ(です)!」」


 違うわっ!

 隠す気がないのか、全部聞こえている。

 まぁ、狭い部屋っぽいし、声量をかなり落とさないと聞こえてしまうだろう。


 それにしても、見当違い過ぎる。

 確実に言えるのは、俺の未来から来た発言を、全く信用していないって事だ。

 なので、もう一度言ってみる。


「いや、だから、未来から来たのは本当ですって」

「はいはい。あなたの発言は面白かったけど、さすがにそれに固執するのはどうかと思うよ?」


 ……どうして信じないのか。

 まぁ、気持ちはわかる。

 捕まえたヤツがいきなり未来から来たって言われたって、普通は信じない。


 どうしたら良いの? セミナスさん。


⦅そうですね。では、まずは黙らせて支配下に置きましょう。私の言う通りに話してください⦆


 相手は神様なのに、セミナスさんは支配下に置くと言う。

 それは不可能だと言えない辺りが、セミナスさんだからこそだと思う。

 それに、このままだと話が進まないので、任せてみようと思う。


 ………………。

 ………………。

 ふんふん。なるほど。了解。


「わかりました。正直に吐きます」

「そう。漸くね」

「本当に観念したようだ」

「お聞きしましょう」


 造形の女神様、製作の神様、生命の女神様が、俺の話を聞く体勢になる。

 ……さて、では。


「まずは、そこの生命の女神様」

「あっ、はい。……え? 自己紹介しましたか?」

「聞くところによると、最近、ある事にお悩みではありませんか? そう、体じゅ」

「わー! わー! わー! わー!」


 生命の女神様が慌て出す。

 造形の女神様は勝ち誇った笑みを浮かべ、製作の神様はそうか? と問うような視線を向ける。


「提案ですが、もし自分の側に付いてくれるのであれば、絶対確実に痩せる方法を教えると約束します」


 何しろ、どうすれば痩せるというか、その結果が既にセミナスさんにはわかっているのだから。

 この提案の効果は劇的だった。


「我が忠誠をあなた様に捧げます。My Majesty」


 跪く生命の女神様。

 どうやら落ちたようだ。


「……これで、花の女神や大地母神、海の女神に、皮肉を言われる事はなくなる」


 色々苦労しているのかもしれない。

 ちょっと優しく……いや、エイトたちの事があるから、プラマイ……まだマイナスかな。

 でも、教える事はきちんと教えようと思う。


「では、次はそこの製作の神様」

「お、俺か? 俺に説得は通じ」

「聞くところによると、未だアナログ作業だそうですね。描いたり消したり、修正が大変だそうで」

「ギクギクッ!」


 反応が声に出ていますよ。

 図星なようだ。

 ただ、これに関してはセミナスさんも自重しないっぽい。

 効率優先、だそうだ。


「こちら側に付いてくれるのであれば……直ぐ描けるし、直ぐ消せるし、直ぐ修正出来る、デジタル作業について教え」

「直ぐ修正! デジタル! なんて心に響く甘美な言葉! ……わかった。あなた様の軍門に下ろう」


 生命の女神様の隣で跪く製作の神様。

 言っちゃなんだけど、簡単に落ち過ぎじゃない?

 いや、本人にとっては切実な問題なのかもしれないけどさ。


 しかし、これで――。


「三対一。完全に戦況はこちらに覆りましたね、造形の女神様」

「私の事まで!」


 驚愕の表情を浮かべる造形の女神様。


「縄、解いてくれる?」

「「ははっ!」」


 製作の神様と生命の女神様が、俺の縄を解いてくれる。

 その間に、造形の女神様の表情は、どこか喜びを抑えるような笑みに変わる。


「そ、それで、私をどのような手段で懐柔するつもりかしら?」


 ははーん。さては、自分にも何か利益になる事が提示されると思っているようだ。

 で、それを早く提示しろ、と。


「……いや、特にないけど」

「特にない! え? いや、でも、この流れだと私にも何か」


 焦る造形の女神様に、製作の神様と生命の女神様が、俺の縄を解きながら口を開く。


「わからないか? 既に大勢は決したのだ」

「日頃の行いの差、かしら?」


 見事な手のひら返しである。

 造形の女神様は崩れ落ち、床を力強く何度も叩く。


「私だって! 私だってぇ! なんか色々優遇されたいのに!」


 本気で悔しがっているのがよくわかる。

 さすがに見ていられなかった。


⦅……仕方ありませんね⦆


 セミナスさんの慈悲っぽい感じで、身の回りの使用道具のグレードアップが行われる事になった。

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