些細な事でも終わらない戦いはある
とりあえず、フォーに言っておく事がある。
「そのまま『フォー』って呼べば良いのかな?」
「もちろん! 好きなように呼んで構わない。それじゃあ、こっちは、そのままマスター……なんだろう、生まれて初めて背筋がブルッとした」
フォーが自分の体を抱き締めるように腕を回して震える。
⦅ふふふ……登録時は仕方ありませんが、マスターをマスターと呼んで良いのは私だけです。それでも呼ぶと言うのなら……ふふ……ふふふ……ふふふふふ……⦆
おおぅ! 俺もなんかブルッときた。
お互いに震えながら、フォーが尋ねてくる。
「マス……お名前は?」
「この世界風に言えば、アキミチ・イクドウ、かな」
「なるほど」
一つ頷き、フォーが何やら考えながらブツブツと呟く。
「じゃあ、ダーリンで」
「名前はどこにいった」
「それだと……パパさん?」
「なんでダーリンと呼ばれる方がマシなのをもってくるんだよ」
どう取り繕っても犯罪臭がするのは間違いない呼び方だ。
どっちも駄目だと首を振る。
うーん、とフォーは考え、答えを出す。
「……ボス?」
「だから名前は……いや、もうそれで良いよ」
「じゃあ、ボスって呼びます!」
ビシッと敬礼するフォー。
「それで、フォーはもう俺とエイトたちの進行の邪魔はしないって事だよね?」
「もちろん。神々の命令は破棄しましたから。我輩に命令を出せるのはボスだけです」
「それじゃあ、一つ聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「さっきみたいなああいうの、他に作ってないよね?」
サーキュレーターを指差しながら問う。
こういうタイプは、まず間違いなく自分の趣味を優先する可能性が高い。
他にも色々と作っていそうな気がする。
ロクでもないような物というか、扱いに困るような物もありそうだ。
俺の直感がそう警鐘している。
「作っていません」
俺の目を見て、ハッキリとそう言うフォー。
俺もジッと見返す。
………………。
………………。
スッ……と目線が上に逸れた。
「嘘だな」
⦅虚偽報告です⦆
「嘘ですね」
「嘘は駄目だぞ」
「間違いなく嘘かと」
「嘘は吐いちゃ駄目なんだよ」
全員に見破られていた。
さすがに誤魔化せないと悟ったのか、フォーは諦めるように項垂れる。
「それで、他にどんな物を作ったんだ?」
「それが、その……研究所内に素材はたくさんあったし、時間もたんまりあったから……つい調子に乗っちゃって………………憶えてない、みたいな? ……ね?」
「………………」
よりにもよって、憶えていないほどとは。
これは……ここでの出来事が終わったら、フォーにはここに残ってもらって、危険な物は全て解体してもらった方が良いかもしれない。
因果応報って訳じゃないけど、自分でやった事の責任は果たしてもらわないと。
そう思っているのがわかったのか、俺が何かを言う前に、フォーが口を開く。
「拒否する! 意地でもボスに付いていくからな!」
さすがはエイトたちの姉妹。
こういう勘は敏感に反応するようだ。
でもまぁ、確かに残す判断をするのは早計か?
目を離した隙に、何を作るかわかったものじゃない。
それに、俺がそう思っているだけで、実際は違う可能性もある。
作った物を見てから判断しても遅くはない。
作品は、研究所に行けばある訳だし。
そう結論を出すと、再び勘が働いたのか、フォーが安堵するように胸を撫で下ろす。
「第一関門突破って感じかな。しかし、これでボスから研究資金を出してもらえるし、新しい素材なんかも手に入る!」
こらこら、口が滑っているぞ。
そんなに自分の作品に自信があるのだろうか?
行ってみればわかる事かと、研究所へ向かう。
ちょっとワクワクしているのは、研究所と呼ばれている場所に向かうからであって、フォーが作った物に対してじゃないと思いたい。
―――
研究所に辿り着く。
鉄製の両開きの格子門と、少しだけ高い壁に囲まれた広大な敷地には、二階建てながらも立派なお城があった。
……うん。そうお城。
なんでこんなところに城が。
そう思って、門の横に看板がかけられている事に気付く。
――「わたしとぼくの秘密研究所」。
叩き割りたくなった。
⦅構わないかと。どうぞ、ご遠慮なく⦆
誘惑しないで。
⦅いえ、研究所の倉庫に、『Secret laboratory』と書かれている予備がありますので⦆
どっちにしてもイラッとする……いや、予備の方がイラッとするから、このままにしておこう。
……待てよ。どっちも処分してしまえば。
⦅新たに製作する未来が見えます⦆
終わりのない戦いになるのは確実……か。
現状維持しか出来ない自分が情けない。
⦅でしたら、看板を製作する神共をリストアップしますので、上から順に滅していけば問題解決です。そうしますか?⦆
しません。
物騒な手段しか残されていなかった。
とりあえず、看板に関しては現状維持という結論を出した時、思う。
そういえば、ここはエイトたちが造られた場所でもある訳か。
何かしら思う事があるかな? と、エイトたちを見る。
「ここがエイトたちの生家……いえ、生城? ですか。普通の城でつまらないですね」
「そうだよな。やっぱそうだよな。なんか面白みがないんだよな」
「そもそも秘密という割には、隠す気がないとしか思えないお城ですし」
「ボクは走り回る事が出来て面白いよ!」
とりあえず、特になんとも思っていないって事はわかった。
スリーに至っては、それは城じゃなくても良い事だよね。
それとも、かくれんぼ的要素も加わっているからだろうか?
「……そういえば、ここは無事なんだな。それなりに大きい島だし、世界樹の島が直ぐそこにある以上、魔物が現れてもおかしくないのに」
疑問に思ってフォーに尋ねる。
フォーの答えは簡単だった。
「気付いていると思うけど、偽装の結界を広範囲に張っているし、研究所の方は周囲の壁と門に強固な侵入防止の結界を張っているから、許可のない者が容易に侵入出来るようにはなっていない」
「……なるほど」
偽装の方は教えてもらったけど、侵入防止の方は聞いていなかった。
とりあえず、話に合わせて頷いておいたけど。
「でもそれ、俺とエイトたちは入れるの?」
「問題ないけど?」
「え? 問題ないの?」
「ああ。エイトたちは元からだけど、ボスも問題ないはず」
そうなの?
⦅はい。特化四型が言ったように問題ありません⦆
そうみたいだ。
セミナスさんが何も言わなかったのは、妨げになるような事ではなかったからだろう。
実際、特に何も起こらず、門を通過して研究所の敷地内へと足を踏み入れた。




