逃れられない宿命のようだ
「大変! 申し訳ございませんでした~!」
ボコられたあと、フォーがエイトたちに謝っている。
そのエイトたちの反応は――。
「エイトたちではなく、ご主人様に迷惑をかけたのですから、ご主人様に謝ってください」
エイトの言葉に、ワン、ツゥ、スリーは同意するようにうんうんと頷く。
一応スッキリしているように見える。
いや、迷惑は迷惑だったけど、別に俺は気にしていないんだけど、と思うのだが、フォーは俺にも謝ってきた。
「本当に申し訳ございません。今の我輩は造形の神を始め、研究所を利用していた神々からの命令が至上であるため、逆らえないのです。もし、なんらかの文句、苦情等々、そう言った事はそちらの神々の方にお願いして、我輩は見逃していただけないでしょうか?」
……あれ? もしかしてだけど、自分を造った神々を売った?
「えっと、つまり、その神々の命令があるから、俺やエイトたちの邪魔をするしかなかったって事?」
「はい。全く以ってその通りでございます」
「……悪いのは、命令を出した神々で、フォーは悪くないって事?」
「はい。その答えに直ぐに辿り着くとは、大変素晴らしい慧眼をお持ちで」
今度はヨイショしだしたな。
まぁ、実際そうなんだろうな、とは思う。
何しろ、結界は隠蔽のみで、侵入自体は誰だって出来るのだ。
ここまで来れる者がそうそう居るとは思えないけど、可能性を表示されれば、決してゼロではなく、絶対とは言い切れないだろう。
なら、研究所を守る者は必要だ。
……手段はアレだったけど。
「……うん。そうだね。フォーは研究所を守らないといけないんだし、今回の事は仕方ない部分もあるから悪くないよ。まぁ、元々そこまで気にしていなかったってのもあるんだけど」
「寛大な処置、ありがとうございます!」
俺はそれで良いんだけど、問題はエイトたちの方だ。
出来れば姉妹なので仲良くして欲しいので、確認する。
「エイトたちも、それで良いよね?」
「ご主人様がそれで良いのなら、エイトたちに問題はありません」
「……本当に?」
「はい。もう既に刑は執行したあとですので、わだかまりもございません」
その通り、とワンたちも頷き、ねー? とフォーと一緒にニッコリと笑みを浮かべ合う。
……いや、別に良いんだけどね。
そもそも、エイトたち姉妹間がギスギスするとは思えないし。
「じゃ。俺たち、先に進むんで」
エイトたちを伴って、そのまま研究所に向かう。
「いや、いやいやいやいや! 待って待って!」
フォーが再度俺たちの前に立ち塞がった。
「先に進むのは、我輩を仲間にしてからでは?」
「え?」
「え?」
首を傾げると、フォーも首を傾げる。
とりあえず、思い付いた事を言ってみる。
「……何か特定の音楽が流れるとか?」
「意味がわからん……ではなく、姉妹たちは既にマスター登録されているよね?」
「まぁ、してます、ね」
そこに俺の意思はないけど。
「なら、我輩にもマスター登録をしないと、神々からの命令が優先されるから、ね?」
「いや、でも、エイトたちを起こした時に自動的に登録されていたから、やり方とか知らないんですけど?」
「そんな事はないと思うけど? というか、話は通っていると思っていたけど?」
……話? 何の?
俺の態度で疑問に思ったのか、フォーが恐る恐る尋ねてくる。
「あれ? 我輩の記憶のだと、ワン、ツゥ、スリー、それとエイトを引き連れた人物が、我輩たち姉妹全員のマスターとなって養ってくれるのだと教えられたんだが?」
「……教えられた? 誰に?」
「もちろん。我輩たちを造った神々に」
「え? 何も聞いてないけど?」
「あれ? ん?」
フォーと共に困惑する。
未だにそこら辺の神々とは会っていないし……どういう事?
⦅可能性の話ですが、これから向かう過去で話を聞く事になるかと思われます⦆
……つまり、過去で造形の神を筆頭とした、エイトたちを造った神々に出会うって事?
⦅はい。元々会う予定……いえ、会う必要がありましたので⦆
いやだなぁ……でも、セミナスさんが会う必要があるって言う事は、これはもう確定しているも同然。
……文句の一つや二つは考えておくか。
「うん。わかった。多分、これから聞く話なんだと思う」
それに、フォーはエイトたちの姉妹だ。
離れ離れにする意味はない。
俺の了承に、フォーが嬉しそうにキラキラと輝く笑みを浮かべる。
「それで、そのマスター登録は……ちょっと待って」
「詠唱するだけでOK!」
「待ってって言ったよね!」
どうして直ぐ答えを言うかな。
というか、やっぱり詠唱なのか。
意地でも詠唱文を言わせたいという、エイトたちを造った神々の意思の強さを感じる。
……他の方法はないの?
⦅残念ですが、ございません⦆
本当に残念に思っている?
⦅………………⦆
その沈黙は肯定とみなすから。
でもまぁ、話はわかった。
「……詠唱、か」
「あれ? 詠唱文はわかる……よね?」
フォーが不安そうに尋ねてくる。
……セミナスさん。
⦅もちろん、把握しております。では早速お教えします⦆
拒否というか、躊躇いがないなぁ。
俺の心は若干拒絶しているというのに。
いや、希望を捨てるのは早い。
もしかしたら、という可能性でまともな文面かもしれないのだから。
⦅まず、始まりはこれまでと同様で、『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』です⦆
もう既に慣れた。
ある意味、一番まともな文と思えるようになってる。
⦅次は、『クールな理系女子に上から物言われるのも好きだけど、ポンコツ理系女子も捨てがたい』⦆
つまり、フォーはポンコツ系って事?
……否定は出来ない、かな。
⦅次いで、『見ていてハラハラするというか、放っておけなくて』⦆
放っておけないとかは個人というか、相手をどう思っているかによると思うんだけど。
⦅その次は、『なんか可愛いんだよな~。慰めたくなるというか』⦆
まぁ、慰めたくはなる……か?
⦅最後は、『というか、慰めながら……ね?』です⦆
ね? じゃねぇよ!
最後の最後で欲望全開じゃねぇか!
……これ、このあとも続くのかな?
元気がなくなるけど、さっさと終わらせよう。
「……じゃあ、今から詠唱します」
「よろしく!」
あと、念のため、エイトたちに言っておく。
「詠唱だからな。俺の思いとかじゃないから」
「当然、理解しております。ご主人様」
うんうんと頷くエイトたち。
ここはいつも物分かりが良いんだけどな。
そう思いつつ、詠唱する。
………………。
………………。
「『というか、慰めながら……ね?』」
「なるほど。見えました。エイトは、ドジっ子メイドになれば良いのですね」
「慰めたくなる感じ……あたいにそんなのあるか? う~……わからん」
「つまり、庇護欲を駆り立てるような行動を取れば………………くっ。私の誇りが」
「よくわかんないけど、ボクに構えば良いと思うよ!」
だから、何故そのまま俺の意思として受けとめるのか。
詠唱文だって、言ってんのに。
一方、フォーは――。
「詠唱を確認しました。声紋によるマスター登録をしました。同時にマスターの魔力波形も登録しました。条件オールクリア。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』……『フォー』。現状の最優先命令を全て破棄し、マスターからの命令のみを受け付けます」
俺を真っ直ぐ見ながら親指を立ててくる。
「養って……お世話になります!」
養われる気満々って事はわかった。




