自分は良いんだけど、周囲は駄目って時がある
フォーが俺とエイトたちの前に立ちはだかった。
なんかフォーが妙にイキイキしているように見えるのは、きっと気のせいじゃないと思う。
まぁ、こんなところまで来るような人は居ないだろうし、俺たちが漸く来た事で、テンションが上がったのかもしれない。
……今が標準じゃないよね?
でもまぁ、どっちにしろ――。
「姉とはいえ、ご主人様の邪魔をするというのであれば、容赦はしません。フルボッコです」
「姉として、主の妨げになるなんて悲しいな! どうやら、おしおきが必要なようだ!」
「邪魔するなんて悲しいわ。これは、きちんと躾けないといけないわね。徹底的に」
「ボクたちと戦いたいって事かな? うん、いいよ! もちろん、手加減なんてしないから!」
なにやらやる気だ。
一部、殺る気になっているような気がしないでもない。
これに敏感に反応したのが、フォー。
「いや、ちょ、姉妹みんなやる気なの? ……えっと、五対一はさすがにちょっと反則じゃない? ここは一対一で」
「「「「却下します(だ)(です)(だよ)」」」」
エイトたちが即否定して、フォーは何やら慌てだした。
フォーにとって想定外だったのかな?
なんか怯えているように見えなくもないから、可哀想に思えてくる。
ちょっとは手加減した方が良いような気になってきた。
と思ったら、フォーはニヤリと、何やら企みがあるような笑みを浮かべる。
「なーんてね!」
フォーが白いローブの中から筒状の物を取り出し、その上部に付いているボタンをカチッと押す。
すると、フォーの横の地面がバカンと開き、そこから巨大な扇風機……いや、人の倍くらいの高さがあるサーキュレーターが出現した。
「これは我輩が発明した、風魔法の風力を増幅する装置『風丸くん』! さぁ! 我輩の強化された風を受けて、吹き飛ばずに進む事が出来るかな! スイッチ・オン!」
そう叫んで、フォーが再度筒状のスイッチを押し、サーキュレーターの後方に回り込む。
サーキュレーターの羽が回り出す。
強風が俺とエイトたちを襲うが、別に進めない訳ではない。
何がしたいのだろう? と思っていると、サーキュレーターの後ろに回っていたフォーが魔法を唱える。
「『魔力を糧に 我願うは 拒絶する透明な防衛 風壁』」
言葉通り、風の壁は……現れなかった。
その代わりといってはなんだけど、強風が勢いを増して一気に大暴風へと変わり、前に進むのが困難になる……というか、まともに立っていられなくなり、数歩下がる。
数歩で済んだのは、エイトたちが俺を庇うように前に出たから。
男としてやはり前に出た方が、と思わなくもないが、前に出るのが難しいほどの大暴風だ。
なので、代わりに後ろから押す。
そこで、エイトが行動を起こす。
「ご主人様への攻撃は許容出来ません。『魔力を糧に 我願うは 渦巻く障壁 盾風』」
エイトが魔法で風の盾を生成して突風を防ぐ。
風を風で相殺しているようだが、それでも増幅されている分、フォーの風の方が強く、幾分か楽にはなったが、それでも気を抜けば吹き飛んでしまいそうだ。
これは、このまま膠着状態が続くのだろうか?
ワンの火だと危険だし、ツゥの水は吹き飛んでいきそうだし、スリーの土は礫や砂煙になって危険な予感がする。
つまり、全属性を使えるエイトだからこそ、風属性魔法で対抗出来ている訳か。
でも、このままだとジリ貧だろう。
何しろ、エイトは汎用型であるが故に、特化型にはその属性で勝てないのだ。
……あれ? じゃあ、なんで今対抗出来ているんだろう?
⦅特化四型が本気の魔法を使用していないからです。こちらを傷付ける気はないようですが、そう簡単に通すつもりはない、といった感じでしょうか。一種の試練として立ちはだかっているのでしょう⦆
また面倒な。
⦅特化四型のところまで辿り着けば終わります⦆
まぁ、物理的な直接戦闘は苦手っぽいしね。
問題は、この大暴風の中、どうやって前に進めば良いのかだけど………………あれ? 確か、サーキュレーターの風って直線的だったよね?
……左右を確認。
木々は全く揺れていない。
……これ、横にずれたらいけるんじゃない?
「エイト、ワン、ツゥ、スリー」
名を呼び、頭を横に振る。
それだけで意図が伝わったのか、吹き飛ばされないように気を付けつつ、一緒に横にずれていき……大暴風圏を脱した。
『………………』
俺とエイトたち、フォー共々、なんとも言えない空気になる。
いや、空気自体は、直ぐそこでゴーゴーと唸り声を上げているけど。
「……よ、よくぞ見切った! この装置の弱点を!」
「いや、明らかに動揺しているよね!」
「そ、そんな事ない! たとえ横に避けようとも、動かしてしまえば……動かして……」
フォーが動かそうと引っ張るが、サーキュレーターはビクともしない。
まぁ……大きいしね。その分、重いだろうしね。
とてもではないけど、フォーにそんな筋力があるように見えないし、実際動かせていないから、見た目通りの筋力なのだろう。
それじゃあ、無理だ。
これで俺たちの勝ちだな、と思って歩を進めると、フォーが不敵に笑い出す。
「ふっ……ふふ……ふはははははっ! これで勝ったと思ったか! だが! 動かせない可能性は既に想定済み! 故に、改善されている! さぁ、首を振れ! 風丸くん!」
フォーがサーキュレーターに付いていたボタンをポチッと押す。
すると、羽部分がこちらに向けられるように動き出した。
再び大暴風に晒される俺とエイトたち。
なるほど。抜かりはないという事か、と思っていると、大暴風がなくなる。
……ん? あれ?
確認すると、大暴風は俺たちを通り越して更に向こうへ……と思ったら、戻ってきた。
再び大暴風に晒されるが、それも僅かな時間。
俺とエイトたちを通り越して、反対側に向かってサーキュレーターの羽部分は動いていく。
………………まんま首振り機能かよ!
『………………』
場に沈黙が流れるが、構わず歩を進める。
大暴風に晒されている間は足をとめて耐え、なくなれば前へ。
「くっ。丁度良いところでとめないと!」
一気に近付いて来る俺とエイトたちに焦るフォー。
そして、俺とエイトたちが大暴風に晒されている時、フォーがサーキュレーターの首振りスイッチを押す。
………………。
………………。
サーキュレーターは、特にとまる事なく首振りを続けた。
「とまらない! ……ちょっ、壊れた?」
フォーが何度もスイッチをカチカチと押すが、サーキュレーターの首振りがとまる事はなかった。
そんなフォーと目が合う。
「………………」
「………………てへ」
一気に前へ進み、そう時間がかからない内に、俺とエイトたちはフォーの目の前まで辿り着いた。
「………………」
「………………えへへ。降参します」
フォーが誤魔化すように笑みを浮かべる。
いや、俺は別に構わないんだけど……。
「いいえ、折檻します」
「覚悟しろよ」
「フフフフフ……」
「手加減なしだもんね!」
エイトたちは許す気がないようだ。
「……お、お手柔らかに」
フォーの叫び声が周囲に響いた。




