当人からすれば由々しき事態
詩夕たちは気にしなかったが、他はどうなのだろう? と、これからの行動について聞いて回る。
まず、竜たちだが、ドラロスさんが「ここから移動は出来ないし、まぁ、これくらいなら」と協力してくれるそうで、それに他の竜たちも追随するような形で協力してもらい、EB同盟と大魔王軍との決戦までの数か月、詩夕たちを鍛えて強くしてくれるそうだ。
「ついで、だよ。ついで。……それに、世界が平和な方が、ぐうたらしても怒られないしね」
いや、世界が平和でもぐうたらしていたら怒られると思うんだけど、それは言わないでおいた。
代わりに、ありがとう、と感謝の言葉を言っておく。
特に、ドラロスさんは魔王と直接やり合っているので、その強さを知っているのは確かだ。
それだけで、大きな指針になるだろう。
アドルさんも目的である魔王とやり合う時が近付いているのを感じ取っているのか、更なる強さを求めて、このまま竜たちと模擬戦を行うようだ。
「……世界の命運を決する戦いまで、あと数か月か。その間に、私は必ずあの魔王を倒せるだけの力を手に入れてみせる」
頑張って欲しい。
でも、そういうセリフは、シャインさんとドラロスさんの模擬戦に交ざれるようになって言って欲しいと思う。
「でも……まだ、避けているよね?」
「……覚悟が、ちょっと」
気持ちはわかる。
そのシャインさんも同様に、このまま竜たちを相手に模擬戦を続けるそうだ。
一部とはいえ過去を知ってしまった身としては、シャインさんは強さを求める事に対して何も言えない。
寧ろ、協力しようかな、という気持ちさえ芽生えている。
「なら、私と模擬戦だ! アキミチの回避技術も磨きがかかってきたからな。そろそろ本気を出しても大丈夫だろう」
「あっ、いや、ほら、ね。なんだろう……あっ、お腹痛い」
「わかりやすい嘘を吐くな。ほら、過去に行く前の景気付けだ。いくぞ」
「いや、過去に行く前に余計な体力を使うのは」
「別に今直ぐ行くんじゃないんだろ?」
「……はい」
「なら、問題ないな」
「……ソウデスネ」
シャインさんからは逃げられない。
もちろん、詩夕たちへの鍛錬も忘れず行うそうだ。
……頑張って欲しい。
今の応援は、忘れていなかったんだ、と苦笑いを浮かべる詩夕たちに向けて。
ドラーグさんは、自由に過ごすそうだ。
長い時間ダンジョンの最下層に居た事で溜まった外への欲求は、まだまだ晴れないっぽい。
「困った時は、いつでも呼んで欲しい」
……えっと、過去でも呼べるの?
⦅呼べません⦆
だよね。
まぁ、現在に戻ればいつでも呼べるのだし、今後も困った時に頼ろうと思う。
ただ、ドラーグさんのその自由度の高さに、ドラロスさんが羨ましそうに見ている。
ドラロスさんも大概自由だと思うのは、俺だけだろうか?
隣の芝生は青く見える、みたいな感じかな?
で、残るエイトたちだが……。
「これから向かう研究所なる場所に、神造生命体が四人居るのですか。エイトが八番目である以上、これで全員揃う事になりますね」
まず、なんかエイトが自分の事をカッコいい感じで呼び始めた。
なんだろう。揃う事に浮かれているのかな?
「しかし、研究所、ねぇ。……あんま憶えてねぇな。あたいたちを造った神々がうぜぇ事だけはハッキリと憶えてんだけどな」
ワンは首を傾げている。
それは多分、神々の方が、より印象が強かったって事じゃないかな。
「正直なところ、私もワンお姉さまと同じです。ですが、妹たちに会えるのが嬉しいのは間違いありませんね」
ツゥもワンと同じようだけど……ん? 妹たち?
つまり、他の四人も全員女性型なのかな?
「わーい! 他の妹たちにも会えるんだね! ボクたちを造った神々が居ないなら、尚更嬉しい!」
……ん? あれ? 今、スリーがサラッと毒っぽい事を言わなかった?
様子を見るが、ニパァーッと笑顔。
………………聞き間違いだろう。
スリーはそんな子じゃない。
⦅マスター、しっかりしてください⦆
大丈夫。しっかりしているよ。
⦅とてもそうとは思えませんが……そういう事でしたら、私の事はどう思っているのですか?⦆
腹ぐ……。
⦅………………⦆
………………頭脳明晰。
⦅……マスター?⦆
つい……ごめんなさい。
心の中で謝り、セミナスさんを宥めている間も、エイトたちは会話を続けていた。
「しかし、これでエイトたち神造生命体、合計八人がご主人様の下へ………………これは由々しき事態かもしれません」
「何がだ?」
「わかりませんか? ワン姉。良いですか? エイトたちの数は「8」。対して、一週間は「7」。つまり、今後の展望に対して最悪の可能性を想定した場合、ご主人様の相手を行うのが一日一人になったと仮定すると、エイトたちの中から……一週間の中であぶれる者が存在する事になるのです!」
「「「……あっ!」」」
エイトの宣言が聞こえてきたので、何を言っているんだろうと思った。
でも、何故かワンたちは、驚いたあとに神妙な顔付きを浮かべる。
意味がわからない。
とりあえず、やめさせようと声を……と危ない。
これは罠だ。
檻の中にこんがりまんが肉が置かれているような罠だ。
俺は既に理解している。
ここで迂闊に声をかけようものなら巻き込まれるという事を。
なので、ここの世界は黙って距離を取って、俺は関係ありませんよ、という雰囲気を醸し出しつつ、空気と一体化する事である。
日頃の行いと運がよければ、回避確率が上がって見逃してくれるだろう。
ただ、エイトの話はまだ終わっていなかった。
「なので、ここでエイトは提案します。週六エイトで、残る一日を全員で共有するというのはいかがでしょう?」
「「「異議あり!」」」
バチバチと火花を散らすような雰囲気で睨み合うエイトたち。
なの、仲良くね?
まぁ、俺は心配しなくても、なんだかんだと仲良しなんだけどね、エイトたちって。
「それは駄目よ! 週六が私で、残る一日は仕方ないけどみんなで楽しみましょう。寛大な
私に感謝してね」
「……間違っている。週六は私」
天乃と水連が一瞬参加したかと思ったが、同じく瞬間的に現れた刀璃と咲穂に連れていかれた。
……なんだったんだろう、今の。
とりあえず、巻き込まれない内に、鍛冶の神様を呼んでおこうと思う。




