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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十一章 竜の住み処と世界樹
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歴史 魔王戦 封印

 アイオリとエアリーは、魔王と戦うにあたって全力を出してはいない。

 いや、この表現だと語弊があるだろう。

 出せる全力は出していたが、己の全て賭して、という訳ではないというだけだ。


 それは、魔王との戦闘中において、武技を使用していない事からも明らかだろう。

 別に使えないという訳ではない。


 アイオリは勇者として、エアリーは賢者として、それぞれ武技だけではなく、特殊武技も使用出来るだけの強さは得ている。


 それでも魔王に使用しなかったのには、もちろん理由があった。


 武技、特殊武技が通用しない、という訳ではない。

 もしという過程の話ではあるが、アイオリとエアリーが武技、特殊武技を使用していた場合、魔王にも当然通用していた。


 それこそ、まともに当たれば大きなダメージを与えていたのは間違いない。

 そう、まともに当たれば、だが。


 普通に回避される場合もあるし、そもそも魔王の方が強いという事がわかっている以上、まともに当たる方が稀なのだ。


 それがわかっているからこそ、アイオリとエアリーは武技、特殊武技を使用しなかった。

 使用する隙を模索していたというのもあるが、それだけが理由ではない。


 とある事情で、なるべく使用しない事にしていたのだ。

 もし使用するのなら、それで魔王を倒せる時でなければというような。


 そうする理由はただ一つ。

 ある場合における、ある事をするために。


 あの場合というのは、魔王の強さが想定よりも大きかった場合。

 ある事とは、魔王を封印する事。


 そのために、色々と温存というよりは、力を残しておかないといけなかったのである。

 だからこそ、アイオリとエアリーは武技、特殊武技を控えていたのだ。


 このような行動を取る事は、前から決まっていた。

 それこそ、アイオリとエアリーが神界で鍛錬を積んでいた頃から決めていたのだ。

 もしもの場合は、魔王に対して封印を行う事を。


 何しろ、アイオリとエアリーの鍛錬中から魔王に相対するまで、魔王の力は未知数だったのだ。

 アイオリとエアリーが勇者と賢者であり、いくら才能に溢れているとしても、魔王がそれを上回る力を持っていてもおかしくない。


 世界を平和に導くための予言通りに事を進めたとしても、覆る可能性が大いにあるほどに。

 何しろ、魔王と相対するにあたって、アイオリとエアリーには限界があった。

 才能の、ではなく、時間的な限界が。


 予言の女神が言っていたように、今が限界であった。

 これ以上魔王への対処が遅くなれば、最早対処不可能のところまでいってしまう。

 延ばしに延ばして、今なのだ。


 その魔王を倒すためにギリギリまで鍛錬を積み、それでも倒せなかった場合を考えて、予言の女神はアイオリとエアリーに封印の方法も伝授した。


 それもただの封印ではなく、神すらも封印出来る「神魔封印」を。

 そのために必要なのが、「神剣」、「神盾」、「神杖」である。


 そういう諸々の事を簡潔に伝え、アイオリは封印という方法がある事を他の者たちに告げた。

 元々封印という手段がある事を知っていたエアリーと予言の女神は、アイオリが封印を選択しても否定しない。


 自身もこれまでの状況から、それしかないと考えていたためだ。

 けれど、吸血鬼の男女、虎獣人の冒険者は違う。


 今知ったのだ。

 封印を否定してもおかしくない。


 何しろ、今はドラロスがこのまま魔王を倒すという可能性もあるし、封印だと後々復活する可能性が残るのだ。


 問題の先送りになる可能性が含まれているため、出来るなら今ここで、という思いを抱いてもおかしくない。


 ドラロスと協力すれば、魔王討伐も可能なのではないか? と。

 そう考えてもおかしくないのが現状なのだ。


 そして三者が出した答えは……アイオリの考えに賛成だった。

 つまり、魔王を封印する。


「……本当に良いのか?」

「ああ、構わない。今、私たちが打てる手はそれしかない」


 吸血鬼の男性の言葉に、吸血鬼の女性と虎獣人の冒険者が同意するように頷く。


「……だが、問題なのは、ドラロス様ではないか?」


 その通りなので、誰も何も言えない。

 何しろ、やる気というモノを全く感じさせなかったドラロスが、やる気を出しているのだから。

 そのドラロスが、魔王からの蹴りを防ぐのだが、その衝撃を利用してアイオリたちのところまで下がってくる。


「話は聞いた。それでいこう」


 ドラロスは端的にそう伝える。

 耳ざとい、と何人か思った。


 アイオリが尋ねる。


「えっと、良いのか?」

「我の事なら気にしなくて良いから」

「折角やる気になってくれたのに?」

「確かに、久方振りにやる気を出した……けど、だからといって、それが勝利に繋がる訳じゃない」


 その言葉に、アイオリたちは全員が驚く。


「つまり、魔王はドラロスよりも……」

「まぁ、絶対じゃないが、やり合った感じだと、な。……でもアレだぞ! ちょっとだからな! ちょっとだけ! ちょっと鍛錬頑張ったら直ぐ抜けるくらいのちょっとだから! それに実際に負けた訳じゃないし! だからどちらかといえば……そう、引き分けだから!」


 ドラロスが一気にまくし立てる。

 たとえ本当だったとしても、逆に嘘くさい……と全員が思った。


「それで、その封印のためにはどうすれば良い?」

「ドラロスはそのまま魔王と戦い続けてくれ。それで、合図を出したら、魔王を取り押さえて欲しい」

「……わかった。だが、取り押さえたとしても、そう長い時間は無理だぞ」

「わかっている。数秒で充分だ」


 アイオリとドラロスは頷き合い、ドラロスは魔王に向けて再度襲いかかる。

 今度は明確な目的を持って。


 そうしてドラロスが魔王とやり合っている間に、アイオリとエアリーは準備に入った。

 アイオリは、吸血鬼の男女と虎獣人の冒険者に視線を向ける。


「この神剣と神盾、それとエアリーの神杖に魔力を注いで欲しい。魔力が多ければ多いほど、封印の強度が増すんだ」

「わかった」


 吸血鬼の男性はそう答え、神盾に魔力を注ぐ。

 吸血鬼の女性は神杖に、虎獣人の冒険者は神剣に。

 注げるだけの魔力を全て注ぐと、三者は荒い息を吐きながら膝をつく。


「……あとは任せた」

「あぁ。任された」


 吸血鬼の男性の言葉に答えたアイオリが、神剣と神盾を構え、三者と同じように魔力を流していく。

 それはエアリーも同様である。


 そうして魔力が多く流された神剣、神盾、神杖は、応えるように全体が白く輝いていく。

 アイオリとエアリーは、魔力を流しながら詠唱を始める。


「『神剣をもって刺しとどめ』」

「『神杖をもって押しとどめ』」

「「『神盾によって封ずる』」」


 詠唱に合わせて、神剣、神杖、神盾がなお一層白く輝き、準備が終わる。


「ドラロス!」

「おうよ!」


 ドラロスが魔王を玉座に取り押さえる。


「何を!」


 魔王が瞬間的に力を高めて抜け出そうとするが、ドラロスも全力で押さえつけているため、そう簡単に抜け出す事は出来ない。

 その隙を突き、アイオリとエアリーが飛び出すように前へ。


 玉座がある場所まで一気に進み、アイオリは神剣を、エアリーは神杖を構える。


「ドラロス、どけっ!」


 アイオリの合図でドラロスが魔王の前から離れる。

 自由になった魔王だが、もう遅かった。


 アイオリとエアリーが神剣と神杖を魔王に向けて突き出す。

 そのタイミングは絶妙で、かわせないと判断した魔王は両手で受けとめるが、神剣と神杖はそのまま魔王の両手に突き刺さり、そのまま魔王の両手を縫い付けるように玉座まで突き刺さる。


 魔王は無表情で苦悶の声も上げないため、何を思ったのかはわからない。

 だが、ここまでくれば、もう関係ないのだ。


 神盾をアイオリとエアリーの二人が持ち、そのまま魔王に押し当てる。


「「『特殊封印・神魔封印』」」


 これは使用者が勇者と賢者であり、神剣、神杖、神盾の三つが揃って初めて使用出来る封印という限定的なモノであるため、これも特殊武技の一つに数えても良いだろう。


 神盾を軸に、巨大な魔法陣が出現。

 アイオリとエアリーは巻き込まれないように、後方に跳ぶ。

 巨大な魔法陣はそのまま魔王を包み込むように球体へと形を変化させた。


「……なるほど。封印か」


 そこで漸く魔王が言葉を発し、アイオリとエアリーを見る。


「……面白い。これも一つの経験として、ここは大人しく封印されてやろう。だが、いずれ……必ず戻って来るぞ。その時を……楽しみに待っているのだな。その時お前たちが生きていれば、真っ先に殺しにいってやろう」


 そう言い終わえた瞬間、視界全てを眩い光が埋め尽くし、再び視界を取り戻した時には、玉座ごと、球体魔法陣のあった空間だけがえぐり取られたかのように、魔王の姿はどこにもなかった。


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