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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十一章 竜の住み処と世界樹
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歴史 魔王戦 3

 吸血鬼の男女、虎獣人の冒険者が謁見の間に入り、アイオリとエアリーが魔王とやり合っている姿を見て最初に思った事は、優勢なのか? だった。


 何しろ、端から見た光景だけなら、アイオリとエアリーが攻め、魔王が守っているのである。

 勢いがあり、押しているように見えるのだ。


 だが、その考えは直ぐに消え去る。

 気付いたのだ。

 アイオリとエアリーの攻撃が時折通っているようだが、魔王の傷は直ぐに癒えている事に。


 また、魔王の表情は無表情なのでわからないが、アイオリとエアリーの表情には若干焦りが見えていたのだ。

 故に、状況は見た目と逆。


 つまり、追い込まれているはアイオリとエアリーの方、それも恐らくは精神的に、と、吸血鬼の男女と虎獣人の冒険者は判断する。


 と、そこで三人は、瓦礫の物陰に隠れて戦いを見ている予言の女神に気付く。


「……えっと」


 どう声をかけたモノかと、吸血鬼の男性は迷う。

 予言の女神の方も、当然三人が現れた事に気付いている。


 けれど、予言の女神は三人に視線を向けても声はかけない。

 声を出さない、物音を立てない事で、少しでも注意が自分に向かないようにしているように見えた。


 そんな予言の女神が、三人に向けてアクションを起こす。

 両手を握り、上下に動かしながら、その動きに合わせて口がパクパクと開く。


「……が、ん、ば、っ、て?」


 吸血鬼の男性の回答が聞こえたのか、予言の女神はそれが正解だと、親指をビシッと立てる。

 もちろん、予言の女神に戦闘能力は期待出来ないため、応援に回っているのは、三人も理解していた。


 なので、応援しているのはわかるのだが、そこはせめて声を出してではないだろうか? と思わなくもない。

 若干何かが抜けつつも、気持ちを切り替え、自分たちが魔王に対してどう切り込んでいくべきかを考え始めた時、魔王とやり合っていたアイオリとエアリーが、三人のところまで下がってきた。


 アイオリはサッと三人を見て、尋ねる。


「三人だけ?」

「……あぁ。エルフの男性の方が、な。それで女性の方もまともに戦える状態ではない」

「……そうか」


 苦虫を噛み潰したような表情の吸血鬼の男性の答えに、アイオリはそれだけ答える。

 悲しくない訳ではない。

 現に、アイオリは一瞬だけ表情が曇る。

 それはエアリーも同様であった。


 ただ、今は悲しむ時ではない、というだけだ。


「……全く。人というのは、次から次へと湧くように出てくるな」


 魔王の言葉に、アイオリたちは揃って身構える。

 今は、魔王を倒す時なのだ。


「まぁ、それも仕方ない事か。単独で対抗出来ない以上、数であたるしか手段がないのだから」


 魔王のその言葉を、アイオリたちは否定出来なかった。

 それも仕方ない。

 現に、二人から五人で戦おうとしているのだから。


「三人共、いけるな?」

「もちろんだ。そのためにここまで来たのだからな」


 吸血鬼の男性がそう答え、吸血鬼の女性と虎獣人の冒険者も同意するように頷く。

 その表情は、既に覚悟は出来ていると言っているようなモノだった。


「……わかった。気を付けろよ。相手は魔王だ。相当強いぞ」

「何を今更わかりきっている事を。寧ろ、あれだけの邪悪な圧力を発していて、魔王でなかったら驚きだ」


 最初はそうでもなかったかな? と思いつつ、アイオリは吸血鬼の男性と笑みを浮かべる。

 その笑みにつられてか、エアリー、吸血鬼の女性、虎獣人の冒険者も笑みを浮かべた。

 良い感じに力が抜けたようにも見える。


「……それじゃ、魔王退治といきますか!」


 アイオリ、吸血鬼の男性、虎獣人の冒険者が前に飛び出し、エアリーと吸血鬼の女性は魔法の詠唱を始める。


 特にこれといって相談をしていた訳ではないのだが、五人の位置は自然と、アイオリと虎獣人の冒険者が前衛、吸血鬼の男性が中衛、エアリーと吸血鬼の女性が後衛、という形になった。

 そこから、第二ラウンドが始まる。


 剣と拳、近距離攻撃を得意とするアイオリと虎獣人の冒険者の二人をメインに、吸血鬼の男性が魔王の周囲を駆けながら魔法で注意を引くなどで隙を作り、エアリーが大魔法と呼ばれてもおかしくない高威力の魔法を放ち、時折後衛に向けて放たれる魔王の黒い光線をエアリーの分まで吸血鬼の女性が防ぎつつ、自身も魔王に向けて牽制の攻撃を放つ。


 といったパーティ行動が行われる。

 付け焼き刃なのは、本人たちも理解していた。

 それでも、単独で行動するよりは遥かにマシだと、連携を取っているのだ。


 阿吽の呼吸とまではいかないが、それでも一流たちが呼吸を合わせているため、時間が経てば経つほど呼吸は合っていき、当然のように単独で戦うより、アイオリとエアリーの二人で魔王と対するより、その結果は大きく違っていった。


 魔王に与えるダメージ量は明らかに増え、魔王もアイオリたちの対処に間に合わなくなっていき、回復よりもダメージ量の方が多くなっていく。

 目に見えて魔王は傷を負っていくが、それでもなお、アイオリは心の中にある不安を消し去る事は出来なかった。


 事実、それは正しい。


「なんと言えば良いのかな、これを……そう。体が温まってきた、だったか?」


 相変わらず無表情なままだが、魔王の声質はどこか高揚しているような感じである。

 そして言葉通り、魔王から発せられる圧力が一気に増す。


「一旦下が」


 近い距離だからこそ魔王の強くなった圧力を受け、アイオリは仕切り直そうとしたが遅かった。

 魔王に向けて殴りかかろうとしていた虎獣人の冒険者の拳を受けとめ、そのままその拳を握り潰す。


「ぐっ!」

「脆いな」


 魔王はそのまま虎獣人の冒険者を引き寄せ、もう一方の手で腹部を殴り飛ばす。

 その威力は凄まじく、一瞬にして入口の壁まで殴り飛ばされ、受け身を取る事も出来ずに叩きつけられたようなモノなので、その体に大きなダメージを負う。


「次はお前だ」

「くっ」


 魔王の狙いが下がろうとしていたアイオリに向けられる。

 瞬時にアイオリまでの距離を詰め、蹴りを放つ。

 ただ、アイオリは反応だけはしていて、神盾で上手く防ぎはしたのだが、衝撃は殺せずに吹き飛ばされる。


 このままでは壁にぶつかってもおかしくなかったが、そこは吸血鬼の男性が吹き飛ぶアイオリを抱きとめて難を逃れた。


 エアリー、吸血鬼の女性の下、再び一か所に集まるアイオリたち。

 そこに、魔王の言葉が向けられる。


「久方ぶりの戦闘なのだ。もう少し持って欲しいな。人よ」


 その言葉に、アイオリたちは苦渋の表情を浮かべる。

 それでも行動を起こす前に、アイオリは虎獣人の冒険者に尋ねた。


「いけそうか?」

「……どうだろうな。少なくとも、無視出来ないダメージを負ったのと、こちらの手は完全に潰れてしまった」


 虎獣人の冒険者の片手は完全に潰されて拳が握れなくなっている。

 それだけではなく、殴られた腹部の影響で、動きもかなり鈍っているのが見てわかる。


 だが、何よりも問題なのは、魔王はまだまだ本気ではないという事。

 それがわかっているからこそ、吸血鬼の男性はアイオリに尋ねる。


「現実を事実として認め、このままだと不味い。何か策はないのか?」

「……ない事も、ない……けど……」


 アイオリの歯切れの悪さの理由は聞かなくてもわかった。

 現状、その手段を取る事は出来ない、または、取っても通用しないかもしれない、という事なのだろうと。


 それでもどうにか、何かないかと思考し始めた時、アイオリたちの後方から新たな声が届く。


「暇だから来てみたけど、どうやらまだやり合ってるっぽいね」


 アイオリたちが後方に振り返れば、そこに居たのは、新緑のような髪色を持つ男性だった。


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