歴史 バレると面倒だから極秘
……えっと、特にコメントはないかな。
⦅おや? そうなのですか?⦆
毎回求められてもね。
⦅ですが、予言の女神が珍しく見通していたとか、それなりに輝いた場面があったと思いますが?⦆
いや、うん。
そうなんだけど……なんだろ。
普段からセミナスさんと接しているからかな。
セミナスさんならもっと色々詳しく先を読んで、もっと適切な行動を取らせるんじゃないかなって。
⦅その通りです、マスター。ええ、ええ、その通りなのです。ここで漸く、マスターが私の力を正しく認識しました。そういう意味では……そうですね。予言の女神も役に立ったと言っても過言ではありません⦆
……うん。だから、セミナスさん断ち……は言い過ぎだけど、俺もなるべくセミナスさんに頼り過ぎないようにしないと。
⦅いえいえ、少々お待ちください。何故、そのような話に?⦆
え? だって、予言の女神様が曖昧な予言を伝えるって、アレでしょ?
あえてそうする事で、予言を受けたモノが自分で考えて進み、未来を切り開いていけるように、という成長を促しているんじゃないの?
⦅マスター……それは良いように捉え過ぎています。仮にそうだとしても、何故それで私断ちを?⦆
自立出来るように。
⦅くっ。ここにきてマスターを私に依存させる計画が狂うとは……おのれ。予言の女神め。……はっ! まさか、ここまで読んでの行動……いや、そんな訳はありません。私は全てにおいて予言の女神を上回っているはず……ですが……⦆
もしも~し。……駄目だ。俺の声が聞こえていないっぽい。
それと、多分、予言の女神はそんな事を考えてというか、読んでいないと思うから、そう気にする事でもないと思うんだけど。
……セミナスさんからの反応はないが、読んでいれば戻ってくると思うので、手記の続きを読む。
―――
EB同盟 対 魔王軍 の戦いが始まった。
上大陸と下大陸が繋がっている左右から、両軍がぶつかり合う。
EB同盟からは参加全国の将軍や騎士団長も参戦し、魔王軍も知性ある魔物が次々と現れ、これが最終戦である事を認識しているのか、正しく総力戦と呼べる戦いとなる。
だが、その中にアイオリとエアリーの姿はない。
最終戦が始まると同時に、ある作戦が開始となったのだ。
それは、予言の女神だからこそわかる事。
総力戦では、決着がつかないのだ。
いや、正確には、双方共倒れのような形となって、なし崩し的な形の休戦となる。
もちろん、それで終わらない。
その先が問題なのだ。
休戦後の戦いで負けるのである。
EB同盟が。人類が。
そうなる一番の理由は、単純。
休戦後の魔王軍に対抗出来る人材の不足である。
何故なら、人類の強さは積み重ねた強さであり、その強さが開花するのはそれ相応の年月が必要なのだ。
対して、魔物は種族的な強さの違いしかなく、元々ある程度完成された強さを持って生まれてくる。
簡単に言えば、初期値が違い過ぎるが故に、仕切り直しとなると勝ち目がないのだ。
いくら神の協力があるとはいえ、戦える神はそう多い訳ではないため、単純に手が足りない。
つまり、ここで。今この戦いで決着をつけなければ、先がないのである。
その決着をつけるために、アイオリとエアリーはある作戦を選択した。
それは、少数精鋭による一点突破で、魔王軍の中心である魔王を倒す事。
魔王軍はその名の通り魔王の軍団であり、魔王が居なくなれば空中分解する。
魔物が纏まっているからこそ人類全体の脅威となっているのだから、その原因となる魔王を取り除けば良いのだ。
そのための作戦である。立案は予言の女神。
魔王の居場所に関しては、既に予言の女神がその力で把握している。
居場所が判明しているからこそ、この作戦は可能なのだ。
ただ、この作戦は予言の女神によって極秘とされている。
この作戦が魔王を倒すためという目的を知っているのは、EB同盟内でもアイオリとエアリーに次いで強い影響力を持つ大国の王たちは知っている。
ただ、この作戦で向かうのは大陸中心部。竜の領域。
竜の領域を抜けて、魔王が居る上大陸北部の魔王城に向けて一気に突き進むのがこの極秘作戦の概要であり、それを知っているのは、アイオリとエアリー、予言の女神に、共に魔王の下に向かう精鋭のみ。
竜との関わりがあると悟らせないために、他の者たちには一切告げていない。
何故なら、竜との関わりがあると知れば、良からぬ事を企む者が必ず現れるからだ。
自分だけは大丈夫だとなんの根拠もない自信と思い込みで、余計な事をしでかす存在はいつだって居る。
また、アイオリとエアリーに対して、竜の素材を寄越せと言ってくる者も現れるだろう。
下手をすれば、そのための協力をしろと脅すように言ってくる者が居てもおかしくない話だ。
そういう余計な争いをなくすために、極秘なのである。
同行する精鋭にも、作戦の概要は他言しないように強く言われ、またそのような事をしない人柄である事が前提で選ばれている。
そして、魔王の下へ向かうのは、アイオリとエアリー、予言の女神に、攻と守それぞれに優れたエルフの夫婦、特殊な強さを持つ吸血鬼の男女、当代最強と言われている虎獣人の冒険者の計七人と一柱。
一柱を除き、全員が一騎当千を超えた力を持つ猛者だった。
また、この五人は、アイオリとエアリー、予言の女神が各国を回っていた頃に知り合い、積極的に協力してくれた者たちの一部でもある。
といっても、各人がそれぞれその時に、という感じなので、揃っての顔合わせは初だが。
「えっと……」
全員の顔合わせが終わったところで、予言の女神は困惑の表情を浮かべ、アイオリとエアリーにこそっと声をかける。
「これから行うのは戦闘ですよね? これだけの人たちが一緒なら、私は必要ないと思うのですが? いえ、正直に言えば、私に戦闘能力を期待されても困ります。そんな力ありませんよ」
「「前にそう言っていたので知ってます」」
「なら、私はお留守番って事で」
「でも、予言の女神様が同行しないと、ドラロス……竜の方が困るんですよ。忘れたんですか?」
アイオリからの問いに、予言の女神はそう言えばと思い出す。
「あぁ。そういえば、あの話し合いのあと、アイオリちゃんとエアリーちゃんに余計な迷惑はかけられないと、竜が協力するのは神からの要望によって、という表向きの理由を作りましたね」
「そうですよ。その話の信憑性を高めるために、予言の女神様も同行しないと」
「わかりました。でも……私、戦いませんよ?」
「「元から期待していません」」
「それはそれで悲しいような気がするのですが……」
そして、この精鋭部隊は、魔王軍だけでなく、EB同盟にも悟られないように、竜の住処へと向かう。




