歴史 当人たちにしかわからない世界がある
えっと……アイオリさんとドラロスさんがいきなり友達になったとか、DDとミレナさんの関係性が子供の頃からとか、そこら辺は納得出来る。
俺もドラロスさんとは初対面で仲良くなれそうな気がしたし。
⦅見た目は似ていませんが、精神が似通っているのでしょう⦆
そうかな?
いや、全然似てないよ。
⦅当人たちはわからないモノです⦆
まぁ、それは良いよ。
なんか最後の方で、エアリーさんがミアさんから関節技を教わった、と書いてあったけど?
⦅ええ。このあとも会う度に新たな技を教わり、正式に弟子となります⦆
……エアリーさんも、勇者なんだよね?
⦅はい。アイオリは近距離武器系、エアリーは遠距離魔法系の勇者です⦆
なのに、関節技?
⦅全てにおいて有効な攻撃手段、と知識にありますが?⦆
まぁ、間違ってはいない、と思うけど、勇者としてそれは良いのだろうか?
⦅使用した際は喜々として使用していた、と知識にあります⦆
本人が納得しているのなら……まぁ、良いか。
ところで、もう一つ良いかな?
⦅はい。なんでしょうか?⦆
なんかここまで、予言の女神様があんまり活躍していないように思えるんだけど?
⦅事実です。それが予言の女神の基本スペックなので⦆
いや、でも、これはアイオリの手記だけじゃなく、セミナスさんからの補足もあって、その補足によって誘導されているような気が……。
⦅気のせいです⦆
………………。
⦅気のせいです⦆
………………はい。
手記の続きを読む。
―――
アイオリとエアリー、予言の女神の次なる目的地は、ドワーフの国だった。
その目的はもちろん、アイオリとエアリー、二人の勇者の専用装備を製作するためだ。
何しろ、専用装備となると、そこらの量産品で済むような話ではなく、一から製作する以上、それ相応の時間が必要である。
魔王軍との戦いがいつ終わるか、それこそ時間がどれだけかかるかわからない以上、早い内から依頼しておいて損はないのだ。
専用装備ともなれば、それは尚更だろう。
早く入手すればするだけ、魔王軍に対する取れる行動も増え、安全性も増すのだから。
そうしてドワーフの国に辿り着いたアイオリ一行は、早々に武骨な謁見の間でドワーフの王と会う事になった。
ドワーフの特徴的な低身長だが、ボサボサ頭にひげもじゃの顔と筋肉質な体付きで、作業着姿が非常に似合っている。
「お主たちが勇者、だと?」
「ああ。これから魔王軍と戦うのにドワーフたちの力が必要だ! 協力してくれ!」
そう言って、アイオリはお願いしますと頭を下げる。
その姿をドワーフの王は、不機嫌そうな表情で見る。
といっても、実際に不機嫌という訳ではない。
元々そういう風に見える顔立ちなのだ。
「と言ってもな、既にある程度は協力しているぞ。何しろ、大陸中の鍛冶を請け負っていると言っても過言ではないからな」
ドワーフの王の言葉は過言でもなんでもない。
実際に、そう言えるだけの依頼が各国から届けられ、正しく国を挙げてフル稼働中なのだ。
そこにいきなり自分たち専用の装備を製作して欲しい、と言ってくる者が現れた。
はい、製作します、と簡単に承諾する訳にはいかないのである。
それに――。
「そもそも、勇者と名乗っているが、それが本当だという証明はどうする? それこそ、そのように名乗る者は、そこいらにいくらでも居るぞ。……そっちの、神性を感じさせる女が証明でもするつもりか?」
「そうですね。そうしても構いませんよ」
答えた予言の女神が、一歩前に出て優雅に一礼する。
「初めまして、ドワーフの王よ。私は予言の女神。彼らは予言によって見出された、この世界を救う勇者です」
「………………それだと、予言の女神であるという証明はどうする? 確かに神性は感じるが、言ってしまえばその程度の事でしかない」
「神に対して不敬です……と言いたいですが、ここは予言の女神らしく、予言で証明しましょう。……直ぐにでも、あなたは私たちを認める事になるでしょう」
「ほう。面白い事を言うではないか。ホラでない事を願う」
ドワーフの王は笑みを浮かべ、待ちの構えを取る。
………………。
………………。
「………………何も起きんが?」
「あれぇ? ちょ、ちょっと待って! ………………繋がった。ちょっとどういう事!」
ドワーフの王に断りを入れて、何やら空中に向かって話し始める予言の女神。
ドワーフの王は呆気に取られているが、アイオリとエアリーはいつもの事かと特に気にしていない。
「……はぁ? 酒場巡りって何? ちゃんと時間通りに来いって言ったでしょ! ………………酒が美味いのが悪い? そんなもん、吐いて捨てろ! ……もったいない? 知るか!」
「今回はかなり憤っているな」
「そりゃそうでしょ。見せ場を潰されたようなモノだし」
冷静に分析するエアリーに、アイオリはなるほどと頷きを返す。
「いいからさっさと来い! 話が進まないから! わかった?」
そう怒鳴って一方的に何かを切り、予言の女神はドワーフの王に視線を向ける。
「ほほほ。ごめんなさいね。直ぐ来ますので、少々お待ちを」
「う、うむ」
そうして少しだけ待ったあと、この謁見の間に新たな者が現れる。
現れたのは、髭もじゃの小さなおっさん。
見た目は完全にドワーフだが、その身からは神性が感じられる。
「遅い!」
「すまんすまん。酒の誘惑には抗いがたいのだ」
「言い訳になるか! ……はぁ。神相手には予言が効きづらくて困る。ここから辺もどうにかした方が良いかしら」
これでここでの自分の役目は終わりと判断したのか、予言の女神は何やらぶつぶつと考え始める。
実際、そうだった。
新たに現れたドワーフに対して、ドワーフの王が大きく目を見開く。
「その姿で、神性を感じさせる……まさか、鍛冶の神、様……」
「ワシが鍛冶の神だとわかるのか?」
「神性もそうですが、隠し切れずに溢れている鍛冶力。間違えようもありません」
「良い審美眼を持っているようだの」
鍛冶力とは、鍛冶の腕が優れていればいるほど、その身から溢れ出るオーラである。
注意:このオーラはドワーフにしか見えません。
なので、アイオリ、エアリー、予言の女神は、相変わらずわからない世界だと思っていた。
それでも、やるべき事はやっておかないと、と予言の女神は鍛冶の神に事情を説明する。
「……なるほどの。こやつらが勇者なのはワシが保証しよう。なので、これからこやつらの武具を製作するのだが、さすがにワシ一人では時間がかかり過ぎる。この世界のため、協力してくれるな?」
「もちろんです! 鍛冶の神に協力出来るなど、正しく誉れ! 喜んで!」
話早いな、とアイオリたちは思った。
「あぁ、必要な素材はもう集めておるから安心しろ。それと、名を聞いておらんかったな、ドワーフの王よ」
「『スラス』と申します」
「うむ。では、早速鍛冶にといきたいが、まずはワシらの力の源である美味い酒を確保しに行くぞ! ついでに、まだ数人足りんから、そこら辺も確保だ!」
「ははっ!」
こうして、アイオリとエアリーの専用装備製作が始まる。
「……これで良いんだよな?」
「……きちんと出来るのか心配」
「大丈夫よ。なんだかんだと、鍛冶はきっちりとする神だから。……まぁ、酒に関してもだけど。ほら、次に行くわよ」
アイオリとエアリーは、予言の女神に背中を押されながら次へと向かう。




