歴史 私の扱い、軽くない?
アイオリとエアリーの二人が動き出したのは良いだけど……いきなり強過ぎない?
竜に近いとか、現代でも最強クラスだし。
神様たちから鍛錬されると、こんなに強くなるもんなの?
⦅それは、どちらかと言えば二人の才能による部分が大きいです⦆
そうなんだ。
いや、でも、神様たちの鍛錬があるからこそじゃない?
⦅正確に言うのであれば、神共の鍛錬も多少なりとも貢献はしていますが、二人にそれだけの才能があり、それだけの時間をかけている、というのがあります⦆
……確かに、十年……いや、二人が神界に行ってから十一年経っているんだっけ。
それならまぁ……納得しようと思えば出来る。
………………。
………………。
試しに鍛錬部分もチラッと読んでみたけど……確かに、剣の神様の事がところどころ書かれていた。
内容は……察し。
なんかアイオリよりもエアリーの方が色々言っているっぽい。
とまぁ、二人の事は別に構わないのだが……ある一つの疑問がある。
なんで予言の女神様が一緒に居たの?
⦅気が付けば行動を共にしていたようです。それで、その内保護者……保護神のようになっていった、と知識の中にあります⦆
そうなの?
その割には……二人から保護神のように扱われていない感があるというか……逆のような気がするけど。
⦅そういう思いは本人しか抱いていない、なんて事もありますので⦆
何その報われない感じ。
というか、魔王軍の侵攻というか出現前に準備を整えておく事は出来なかったの?
⦅二人の鍛錬に重きを置いていたというのもありますが、魔王軍襲来前に結束を固めても、結果として早期分解し、同じ結末を辿っていたようです⦆
纏める人が居なかったんだっけ。
だったら、アイオリとエアリーの二人をもっと早くに帰しておけばよかったんじゃ?
⦅その場合は、二人が魔王に対抗出来るだけの強さを持つ事が出来ずにやられていたようです⦆
何事もそうなる理由があるという事か。
うんうんと頷きつつ、手記の続きを読む。
―――
魔王軍の一部隊を早々に殲滅したアイオリとエアリー、予言の女神の姿は、大陸中央――竜の住処前にあった。
「まずは、竜を味方にしないといけないんだよね? 予言の女神様」
「そう! なんといっても地上における最強種族! 私たち神々ともまともにやり合う事が出来るくらいなので、味方に引き入れて損はありません!」
「確かに、それだけの力があるのなら、是非とも味方に欲しい! あと、空飛べるし」
アイオリの言葉にそう答える予言の女神であったが、エアリーは少し疑問があった。
「竜を味方にするのは良いけど、どうやって味方にするつもり? 話し合いでどうにかなるの?」
エアリーのその言葉に、アイオリは予言の女神を見て、予言の女神は首を傾げる。
「……さぁ? そこまでの予言は出ていません。………………頑張ってください!」
「「こっち任せなの!」」
「申し訳ありません。確かに、あなたたちが世界を救う勇者となる予言はありますが、細かいところまでは……」
「まぁ、予言の女神様は最初からそうだったよね」
「……仕方ないか。こっちでなんとかしよう」
「あ、あれ? 私の扱い、軽くない?」
困惑する予言の女神。
それでも私、負けない……と、予言の女神は心の中で自分を鼓舞する。
「というか、一緒に居ますけど、予言の女神様は戦えるんですか?」
「そういえば戦っているところを見た事ないけど、強いの?」
「直接的な戦闘能力は期待しないでください。そもそも私、文系なので。ですが、関節技ならそこらの人たちに負けない自信はあります」
ふっふ~ん、と胸を張る予言の女神。
あっ、これはそう言いつつも、いざそういう時が来たら負けるんだろうな、とアイオリとエアリーは思った。
が、口には出さない。
予言の女神とのこれまでの付き合いで、その辺りの事は理解しているアイオリとエアリーであった。
「……とりあえず、行くか」
「……そうね」
アイオリとエアリー、予言の女神が竜の住処へ足を踏み入れた瞬間、空から竜たちが舞い下り、取り囲む。
「ここに何用だ、人よ」
「ここから先は我ら竜の領域。命が惜しければ引き返すが良い」
「ひぅ!」
予言の女神は、アイオリとエアリーを盾にするような位置に、こそっと移動。
竜に囲まれながら、予言の女神の行動を半眼で見るアイオリとエアリーに、動揺した様子は見られない。
「話があってここに来た。余計な事をするつもりはないから、お前たち竜の王……竜王に会わせてくれないか?」
アイオリの言葉に、取り囲む竜たちは顔を見合わせる。
「ど、どうする?」
竜たちは困惑した。
何しろ、普通はあれで引いたのだ。
なのに、目の前に居る者たちは堂々としていた。
若干一名、ガクブルしているが。
「わ、私は女神で、か、彼らは勇者よ! りゅ、竜王の下に連れていきなさい!」
予言の女神が震える声でそう言う。
アイオリとエアリーを盾にしたままでなければ、まだ格好がついたかもしれない。
あと、体の震えも。
ただ、その効果は劇的だった。
「め、女神?」
「ゆ、勇者?」
どうやらその存在自体は知っていたようで、竜たちは狼狽える。
どうしたものかと竜たちが少しあたふたしていると、再び頭上から声がかけられた。
「なるほど。妙な気配がしたかと思えば、神……それと、勇者ですか」
それは、聖性を感じさせるほどの純白の竜。
純白の竜の登場に、アイオリとエアリーは息を呑む。
感覚的に理解したのだ。
今の自分たちでは勝てない、と。
竜たちは、純白の竜の姿を見て言う。
『姉御っ!』
「誰が姉御だ! 誰が!」
竜たちは、純白の竜に一瞬でボコられた。
この時、アイオリとエアリーは、自分たちよりも強いという判断は間違っていなかったと思う。
制裁を行ったあと、純白の竜はアイオリとエアリーをジッと見つめ、アイオリとエアリーも純白の竜から目を逸らさない。
少しの間視線を合わせたあと、純白の竜が口を開く。
「……なるほど。良いでしょう。竜王に会わせてあげます」
「あなたは?」
「私の名は『ミア』。竜王『ドラロス』の番です」
「「……つがいって、何?」」
アイオリとエアリーが揃って首を傾げる。
「しまった! そういう知識は教えていなかった! えっと、つまりですね、人で言うところの夫婦って事です!」
「「あぁ、なるほど!」」
予言の女神が即座に教え、アイオリとエアリーはそういう事かと納得した。
その様子を見ていた純白の竜――ミアが、声をかける。
「あなたが女神ですか?」
「ひぅ! ……は、はい」
「確かに神性は感じますが……私でも簡単に殺れそうですね」
「あ、いや、そ、その、わ、私は、がっつり文系なんで、戦いとか、その苦手と言いますか」
「ふふ。そう怯えないでください。別にそういうつもりはありませんから。そちらが望むならお相手しますが?」
「無理無理無理無理」
「ふふ。可愛い神ですね。では、行きますよ。ついて来なさい」
こうして、これからアイオリとエアリーは竜王ドラロスと出会う。
それが、魔王軍に対する反抗への大きな一歩となる。




