歴史 誰だって不安を抱く
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ところどころセミナスさんの解説が入るんだけど……これ、本当なの?
予言の神様、不審者扱いを受けて勇者たちに逃げられていたけど?
⦅事実です⦆
いや、疑っている訳じゃないけど、手記には驚きに満ちたって書いてあるけど?
⦅気を遣われたのでしょう⦆
さすがは勇者という事か。
あと、最後の思ったとか思わなかったとかって……あれ、セミナスさんを生み出すきっかけになったって事?
⦅これが全てとは言いませんが、一因にはなったようです⦆
でしょうね。
会話の主導権とか、確実に影響を与えていると思う。
出来れば、もう少し温和――。
⦅何か?⦆
セミナスさん、最高!
⦅そんな当然の事を言われては、反応に困ります⦆
あっ、最高が当然なのね。
⦅最高を越えた存在ですので⦆
あっ、はい。そうですね。
否定出来ないだけの能力が実際にあるんだよね、本当に。
うんうんと頷き、手記の続きを読む。
―――
アイオリ、十歳。エアリー、九歳。
予言の女神から啓示を受け、勇者としての道を歩む事になった。
「では、まずは私たちが住む神界へと参りましょう。そこで己を鍛え、勇者としての力を覚醒させるのです」
「それって、ここではないところに行くって事ですよね?」
「はい。その通りです」
「孤児院はどうするの?」
「残念ですが、出て行く事になりますね」
アイオリとエアリーの質問に、二人を不安にさせないように微笑みを浮かべて答える予言の神。
そんな予言の女神に向けて、二人は答える。
「「じゃあ、結構です」」
「そう。つらいのはわかりますが、これも勇者にな……え? 結構です? それってつまり、断るって事かしら?」
「はい。孤児院には僕たちよりも幼い子がたくさん居ますので、その子たちを置いていけません」
「それに、私たちが抜けると孤児院の収入が減るから駄目」
「うん。それはわかるけど、勇者が居ないと世界が、ね」
「「他をあたってください」」
「うん。勇者って、そうそう居ないから。他とか無理だから」
「「じゃあ、諦めてください」」
「勇者だからか、意思が固い!」
どうやら、二人の問題を解決しないといけないようだと判断した予言の女神は、空に向かってぶつぶつと話し始める。
「……そう、そうなのよ。だから……商売の神にも連絡して……あと、孤児院関連で強そうな神にも……身体の神? いや、あれは駄目でしょ」
孤児院のために他の神に連絡を取っている予言の女神の姿を見て、二人は――。
「空に向かってぶつぶつと……やはり怪しい」
「あの人大丈夫かな? アイオリ兄ちゃん」
予言の女神に対して、より不信感を増していた。
そうこうしている内に予言の女神は連絡を取り終えて、二人に声をかける。
「孤児院の方はどうにかしました。それでは、行きましょうか」
予言の女神が手を差し伸べるが、二人はその手を取らない。
「……いや、今ので信用しろと?」
「アイオリ兄ちゃん。兵士さん呼ぼう?」
「くっ。疑り深い子たちね」
「「院長先生が立派な方なので」」
「事実こうなっているのだから……でしょうね!」
半ばヤケクソ気味に言う予言の女神。
しかし、アイオリとエアリーは既に精神的に成熟している部分もあるのだ。
そのため、アイオリとエアリーは言葉では拒否しつつも、自分たちではどうしようもない事はわかっている。
なので――。
「わかりました。では、僕たちがあなたについて行くための妥協案を提示します」
「だ、妥協案?」
「ええ。所詮、僕たちは子供。大人が本気を出したら、抵抗するのは難しいので」
「その物言いが、全然子供っぽくない!」
「多少なりとも上手く立ち回らないと、生きていけませんので」
「行動も子供っぽくない!」
何やら圧倒されつつも、予言の女神はその提案を受け入れる。
といっても、そう難しい事ではない。
孤児院の様子を定期的に確認したいのと、もし孤児院に何かあれば、自分たちはたとえ死んでも本気の抵抗をする、というモノだった。
予言の女神の方も、事を荒げたくないというのもあるが、既に手は打っているのだから、それで問題はなかった。
そうして、互いに納得? してから、アイオリとエアリーは予言の女神と共に、神々が住まう神界へと向かう。
―――
神界は、降りそそぐ陽の光は心まで温かくさせ、建物は雲の上に建造されているような、そんな書物の中に出てくるような風景だった。
また、先は果てしなく、終わりは見えない。
およそこの世のモノとは思えない光景に、アイオリとエアリーは息を呑む。
二人は一通り周囲に視線を向けたあと、予言の女神を見る。
「「……本物だったんですね」」
「……え? 疑ってたの?」
そんなに神っぽくないかしら? と予言の女神は自身の姿を確認する。
「それで、僕たちはここで何をするんですか?」
「働けば良いの?」
「え? あれ? 言わなかったかしら? あなたたちをここに連れてきた理由は一つ。強くなりなさい。勇者として覚醒し、世界を救えるように」
「……大雑把過ぎます」
「……もう少し、ここまでって具体的に示して欲しい」
「………………ぐ、具体的?」
「「はい」」
「う、う~ん……そう言われても……予言ってほら、あやふやなモノじゃない?」
「「………………」」
「その、無表情で見続けるのはやめてくれないかしら?」
今後、似たような事が起きた場合に備えて、もっと詳しく先を見通せるようなスキルを開発しようかしら? と思う予言の女神であった。
そう思いはしたが、それは直ぐ霧散する。
今は、二人に対してどう答えるか、なのだ。
そこに、文字通り、救いの神が現れる。
「漸く来たようだな! 添え物が! 良いか! たとえ勇者であっても、お前たちは添え物でしかない! 何故なら、俺こそが主人公なのだ!」
いや、救いではない神だった。
予言の女神は、金髪イケメン――剣の神に言う。
「帰れ!」
「何を言う、予言の女神よ! 勇者=剣! 剣=勇者! そして、剣=俺! 俺がそやつらを鍛えなくてどうする!」
いや、まだ剣を手にするかどうか決まっていないから、と予言の女神は思う。
同時に、出来れば剣の神の相手は盾の神にお願いしたいと思い、周囲を窺うが盾の神の姿はどこにもなかった。
というよりは、剣の神以外の神の姿はどこにもない。
元々予言の女神は、アイオリとエアリーの勇者としての適性を見定めるために、剣の神だけではなく、各種武具を担当する神に魔法の神と、様々な神に話を通していた。
なのに、剣の神以外の姿はない。
つまり……抜け駆けしたのか、と剣の神に半眼を向ける予言の女神。
その予言の女神に、アイオリとエアリーは声をかける。
「これまでの事を判断して、結論を出しました」
「なんか面倒そうなので帰らせてください」
「待って! この剣の神だけで判断しないで!」
こうして、不安を覚えるアイオリとエアリーであったが、勇者となるべく、神界で鍛錬を始める事になった。




