要は仲良し家族って事ですね
詩夕たちの話を聞いたので、もちろん俺の話もしておいた。
俺としては、アドルさんやDDとの模擬戦がかなりきつかったのだが、詩夕たちの感想は違う。
『……あそこから何度も落ちていたの?』
と、世界樹を見ている目が語っていた。
いや、世界樹登りはそんな苦労する事なかったんだよ?
そもそも、セミナスさんによってルートは確定していたし、ドラーグさんが居るから落ちる前に回収されて安全だったし。
100%安全なら、別に怖い事はないと思うんだけど?
あと、何度も繰り返す内に慣れたという事もあるかも。
『それはない』
そう言われた訳ではないが、詩夕たちの表情はそう物語っていた。
「別に……臆するような事じゃないだろ? 普通に着地すればいいだけだし」
シャインさん談。
どうやら、俺の意見に共感してくれているっぽい。
わかってくれる人が居ると嬉しいね。
「魔法でどうとでも出来ます」
「衝突する瞬間に世界樹蹴って横に跳べばいいだろ」
「水を生み出せば問題ありません」
「ボクなら地面を液状化させたり、高くしたりするかな」
エイトたちも同じように共感してくれている。
まぁ、確かに、エイトたちやシャインさんなら、俺と同じ状況になってもどうにか出来そうだ。
でも――。
「その……俺もそっち側になったんだねって目で見るのはやめよう」
詩夕たちにそう注意しておいた。
純粋な戦力でいけば、この中で一番弱いのは俺なんだから。
だから、模擬戦の方が大変なんだよ。
俺はそう訴えた。
『……いや、模擬戦が大変なのはいつもの事だし』
詩夕たちの返答は、大体そんな感じ。
なるほど。
普段からシャインさんと模擬戦しているので、そういう感覚が麻痺しているのかもしれない。
模擬戦に関しては、味方はジースくんたちだけだった。
―――
一通り話を終えて……あれ? なんか詩夕たちに頼む事があったような気がする。
話の内容のインパクトが強過ぎて忘れてしまった。
なんだっけ? と思い出そうとしていると、俺の中に声が送られる。
(もしもし、主?)
(………………)
ん? あれ? 声でドラーグさんだというのはわかるけど、ドラーグさんからも声を送る事が出来るの?
双方向なの?
⦅はい。一方的に繋がっている訳ではありませんので、骨竜からも声を送る事は出来ます⦆
セミナスさんがサラッと説明してくれる。
そういう事は早く言っておいて欲しい。
いきなりだと驚くので。
でも、今はドラーグさんの方だ。
(ん? 届いておらんのかの? もしもーし? 主~?)
(はいはい。こちら主、じゃなくて、どうかしたの? ドラーグさん)
(お、届いておるようだの)
(はいはい。届いていますよ~)
(うむ。それは何より。それで用件だが、ワシの息子、ドラロスが目覚めたのでの。主たちもこちらに来てくれんか?)
(はいはい。了解~!)
皆に伝えて、ドラロスさんに会いに行く。
世界樹の下に行くと、ドラーグさん、DD、ミレナさん、ミアさんに囲まれて、確かにドラロスさんは身を起こしていた。
目もパッチリ開いているし、完全に起きているようだ。
ジースくんたちは……少し離れた位置で、空気のような存在感である。
実際に「自分は空気」と言ってそうだ。
「全く、いつまでも寝過ぎよ」
「いや~、ごめんごめん。そう怒らないでよ、ミア」
ミアさんに向けて、ぺこぺこと頭を下げるドラロスさん。
そのドラロスさんの視線が、ドラーグさんに向けられる。
「それにしても、改めて見ても面白……信じられないなぁ」
「なんだ? ワシだと、父親だと説明してもわからんのか? まだ寝惚けておるのかの?」
「いや、それは魔力波形とかを見ればわかるし。何しろ、自分の魔力波形と似ているしね。ミレナにもそうだと教えておいたけど、それが役に立ったのかな?」
ね? とドラロスさんがミレナさんに視線で問うと、ミレナさんは少しだけ考えたあと……頷く。
いや、普通に質問して判断していましたよね?
アレかな? 答えが答えだけだっただけに、気を遣ったのかな?
「なら、ワシの何が信じられんのだ?」
「それはもちろん、骨になっても生きているところだよ。さすがお父さん。たくましいね」
うんうんと頷くドラロスさん。
なんというか、さっきから一家団欒な雰囲気がすごい。
この中に入れないというか、なんか声をかけるのを躊躇してしまう。
あと、会話の中心だからだろうか、ドラロスさんの大黒柱感が溢れている。
「ミレナも、大きくなったね」
「父様が世界樹の守護に就いてから特に変わっていないと思いますが?」
「そう?」
「はい」
「……じゃあ、アレだ。女王としての貫禄が出てきたって事じゃない?」
「父様が世界樹の守護に就いてから特に変わっていないと思いますが?」
「そう?」
「はい」
気まずい雰囲気が流れる。
お父さん、失敗しちゃった感じ。
寝てばっかりだから、だろうか。
このままでは本格的にまずいと思ったのだろう。
ドラロスさんはDDに声をかける。
「デーくんも元気そうで何より」
「ど、どうも。ですが、その、デーくんと呼ばれるのは」
「何? 嫌なの?」
「いや、そういう訳ではなくてですね……今は、その、DDと名乗っていますので」
「ディーディー? ……でも、デーくんだよね?」
「いえ、ですから」
「………………」
「………………はい。そうです」
これまでの事を思い返しても……DDの立場が弱い。
やはり、婿という立場がそうしているのだろうか?
寧ろ、竜の住処の外の方が、立場が強い気がする。
……会社だと偉い立場だけど、家の中だとそうでもない的な?
でも……なんだろう。
DDに優しく出来そうな気がする。
その時脳裏に浮かんだのは、つい先ほどまで模擬戦でDDにボッコボコにやられた俺。
……いや、やっぱり優しくしなくても良いかな。
間を取って、これまで通りでいこう。
そう結論を出していると、ドラロスさんがこちらを見ている事に気付く。
「……で、そっちが客人たちか」
ドラロスさんが順々に俺たちを見ていく。
その時、ドラロスさんから圧倒されるような雰囲気が醸し出される。
これが……元竜王。
しかも、大魔王に匹敵すると言われている。
自然と、ごくりと喉が鳴った。
「我の前に人が居るのは、いつ以来だろうか。よくぞ来たと言っておこう。我は前の竜王、ドラロスである」
口調まで変わり、雰囲気がグッと増す。
その雰囲気に、俺たちは何も――。
「……ふひゅ~。久し振りに気を張ると疲れる。やっぱこういうの向いてないな」
うんうんと頷くドラロスさん。
いや、一家団欒風景からいきなりだったせいかもしれないけど、自分から雰囲気を壊すのが早過ぎる。




