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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十一章 竜の住み処と世界樹
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別章 第四班

 採掘を終えたエイトたちは、次の目的地に向けて進む。

 その歩みは速い。


「きっとご主人様はエイトが傍に居なくて、『エイトはどこ?』と寂しがっている事は間違いありません」

「主の隣にはあたいが居ないと、な。主もそれを望んでいる」

「急いで集めて戻らなければ。私はアキミチ様に頼りにされているのですから」

「もっともっとお兄ちゃんと一緒に居たいし、お兄ちゃんもそう思っているから、ボク頑張るよ!」


 ある意味、欲望が絡んでいるのでその歩みは更に加速する。

 また、この島は魔力に満ち溢れているため、魔法を使う者には恩恵が大きい。


 そのため、全員が主に魔法を使うタイプである以上、魔物が行く手を遮ろうが――。


「邪魔です」

「どけぇ!」

「回収します」

「ボクにも何かやらせてよ!」


 先頭を行くエイトとワンが魔物を出会い頭に倒してそのまま通過し、ツゥが流れるような動きで回収、スリーが物足りなさそうにするという連携コンボが早々に確立され、移動速度を緩めるような事にはならなかった。


 全ては、明道の下へ早く戻るため。

 もちろん、狙うは一番早く。


 それでなくても、エイトたちは他の班と違って、集めるべき素材は一人分である。

 別に急がなくても、早々に終わる……はずだった。


     ―――


 順調に指定された素材を集めていくエイトたち。

 早々にほぼ終了し、残るは一つ。


 対象の魔物は、「幻導師」と呼ばれる、怪しく光る両目とずんぐりむっくりした体形で、杖を持つ魔物。

 その特徴は、杖に嵌められている宝石を触媒にして相手に幻を見せる事と、戦闘能力が皆無なため、相手に幻を見せている隙に逃走するというようなモノだった。


 狙う素材は、その杖の宝石。

 どこに行けば幻導師と出会えるかは、既にセミナスの情報で明らか。


 エイトたちは残り一つで戻れると意気揚々に向かい、即座に幻導師を発見。

 さっさと終わらせようと魔法を放とうとした瞬間、幻導師の杖と両目がキラリと光り――。


     ―――


「ふぅ……」


 屋敷勤めのメイドの一人、エイトが額に浮かぶ汗を拭い、息を吐く。


「エイトの仕事は完璧です」


 そう言うエイトの前にあるのは、綺麗に拭かれた窓。

 陽の光を浴びて宝石のようにキラキラと輝き、満足気に微笑むエイトの表情が映し出されていた。


「いつもお疲れ様」


 そこで労いの言葉をかけるのは、この屋敷の主である明道。


「これは、おはようございます。ご主人様」


 エイトは明道に向けて一礼する。


「うん。おはよう。それにしても、窓がここまで綺麗になるなんて、エイトの仕事はいつも凄いね」

「ありがとうございます」

「でも、エイトにはここよりも先に綺麗にして欲しいところがあるかな?」


 明道の言葉に、エイトは首を傾げる。


「それはどこでしょうか?」


 エイトは思い当たらず、不思議そうに尋ねる。


「どこって……俺の心だよ。エイトへの想いで満ちているから、他の事が手に付かないんだ」

「それは困りましたね。ご主人様のお仕事に支障が出てしまいます」

「うん。だから……」

「かしこまりました。では、ここではご主人様の痴態が晒されてしまいますので、寝室の方へ向かいましょう」


 頬を染め、どこか艶っぽい笑みを浮かべるエイト。

 明道はそんなエイトの肩を掴んで抱き寄せ、自身の寝室へ――。


     ―――


 冒険者稼業は危険が付き物。

 それがダンジョンに挑むとなれば、その危険度は上がる事間違いなし。

 特に、ダンジョン内に存在している、モンスターハウスともなれば、危険度は更に格段に上がるだろう。


「モンスターハウス、か」

「へっ。まさか、本当に引き当てちまうとはな」


 多くの魔物に囲まれた男女が、周囲の様子を見てそう口にする。


「結構な数だな」

「まっ、数だけだろ。あたい達なら、問題ねぇさ!」


 言い終わると同時に、女性の方――ワンが近くに居る魔物に襲いかかる。


「無茶しないように! この数だ! きちんとペース配分を考えないと直ぐバテるぞ!」


 男性――明道がワンに向けて注意を飛ばすが、その動きはワンを補佐するようなモノ。

 非常に息の合ったコンビであった。


 魔物も次々と倒していく。

 けれど、このモンスターハウスは特に数が多かった。


 倒しても倒しても次が出てきて、明道とワンの呼吸は乱れていく。


「はぁ……はぁ……数、多いな」

「はぁ……はぁ……全くだ」


 減ったように見えない数に、ワンが少しだけ弱気になる。


「主……こういう時だからこそ言っておきたいんだけど……あたい、主の事が」

「ワン。こういう時に、そういうのは言わない方が良いって聞くぞ。それに、そういうのは……俺の方から言わせてくれよ」

「はっ! それはそうだ! なら、それを聞くためにも」

「必ず生き残ってみせる!」


 明道とワン。

 二人の戦いは――。


     ―――


 とある大貴族の屋敷。その一室。

 そこに一組の男女が居た。


 男性は大貴族の子息で、女性はその男性の家庭教師である。


「……アキミチ様」

「何? ツゥ先生」

「今アキミチ様が見なければいけないのは私の方ではなく、教科書の方です」

「でも、俺が見ていたいのは教科書じゃなくて、ツゥ先生の方なんだけど」


 馬鹿な事を、とツゥは誤魔化すように眼鏡の位置を直す。


「それに、ツゥ先生は優秀だからね。俺の学力は相当なモノだと思うけど?」

「確かに、ここ最近は満点を取る事もありましたが、油断すると直ぐ落ちてしまいますよ」

「それは確かに」

「ですが、私がお役御免になる日は近いかもしれませんね。アキミチ様は優秀ですから」

「それはないよ、ツゥ先生」


 明道が相手を誘うような笑みを浮かべる。

 そんな笑みを向けられて、ツゥは少したじろぐ。


「な、何故ですか?」

「それは勉強もそうだけど、男と女についても、ツゥ先生から学びたいからさ」


 明道の誘惑に、ツゥは逆ら――。


     ―――


 眠っていた明道は、ふと目覚める。

 呼ばれたような気がしたのだ。


 だが、体を起こして室内の様子を窺うが、誰も居ない。

 と思っていたら、控えめなノックが起こる。


「……どうぞ」


 そう声をかけると、入ってきた大きな枕を抱え、パジャマ姿のスリーだった。


「どうした? スリー」

「ごめんね、お兄ちゃん。起こしちゃったかな?」

「いや、その前に起きていたから気にしないで」

「うん。それでね……ボクね……」


 言いにくい事を言うような表情を浮かべるスリーを見て、明道はピンとくる。


「もしかして、怖い夢でも見たか?」

「うん。お兄ちゃんがどこかに行っちゃう夢」

「はは。なんだそれ」

「だからね……あのね……」


 スリーが何を言いたいのか、どうしたいのかを明道は察する。

 布団をめくり、招き寄せる。


「なら、お兄ちゃんとして、ボクの前からどこにも行かないって事を証明しないとな」

「……うん!」


 スリーが輝く笑みを浮かべる。

 一緒に寝るため、スリーはめくられた布団の中へ――。


     ―――


 そこでエイトたちは目覚めた。

 全員、最後までいかない中途半端な形で。


 その上、狙っていた幻導師の姿はどこにもない。


『………………』


 誰も何も言わない。

 先ほどまでの光景は幻覚であり、その幻覚を見せていたのは幻導師だという事をわかっているからだ。

 わかった上で、エイトたちの意思は一つ。


「倒すのは簡単です。ですが……」


 言わなくてもわかりますよね? とエイトは視線だけで問い、ワン、ツゥ、スリーは同時に頷く。

 全員が、続きを見たいのだ。体験したいのだ。


 そして、エイトたちによる、本気の幻導師捜索が開始される。


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