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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十一章 竜の住み処と世界樹
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別章 第一班

 詩夕たち男性陣の採掘が終わったのは、エイトたち、天乃たち女性陣よりもあと……ウルルとインジャオはこのまま洞窟内で採掘を行うので、ある意味最後だった。


 最後になったのには、主に二つの理由。


 一つは、詩夕、常水、樹の三人で、自分たちの分とシャインの分を合わせて四人分の鉱石を手に入れなければいけなかった事。


 一つは、シャインの様子を見に行くために、一度抜け出した事による時間ロス。


 この二つの理由によって、詩夕たちは最後となったのだ。

 また、最後になったという事を別の見方で見れば、他より出遅れた、とも言える。

 この事実に対して、シャインに怒られるかもしれない、と三人は思った。


 が、実際は違う。


「まぁ、仕方ないな。途中、様子見で出てきてしまったし。ここから巻き返せば問題ない」


 三人が洞窟の外に出て、無言でシャインの前に並ぶと、そういう返答だった。

 しかも、上機嫌にうんうんと頷きながら、である。


 三人は怒られる事を覚悟していたのだが、それが空振ったのだ。

 どういう事だろう? と思うが、樹はこう推察する。


「恐らく、オリハルコンゴーレムとの戦いの満足感がまだ続いているんだろう。だから今、シャインさんの心の器はいつもより大きくなっている」


 なるほど、と詩夕と常水は納得した。

 そして、今の内に移動した方が良いだろうと判断して、惨たらしくねじ切られたオリハルコンゴーレムを回収し、三人とシャインは移動を開始する――前に、シャインが一言。


「この際、過程は気にしない事にした。だが、一度言った通り、最終的に一番じゃなかったら……少し厳しくなるだろうが、楽しい模擬戦をしようじゃないか」


 それ、少しじゃなくて、楽しいのはシャインさんだけですよね? と三人の心が一つになった。


     ―――


 世界樹があるこの島は、島と呼んで良いのかどうか悩むほどに大きい。

 それでも島と呼んでしまうのは、それだけ世界樹が巨大であり、世界樹の大きさと比較すれば、やはりここは島なのだ。


 ただ、大きいという事は広大であり、普通は迷ってもおかしくはない。

 ましてや、ここは未開の島。

 地図など存在しないのだから、迷うのが当たり前だ。


 だが、それでも詩夕たちは迷わない。

 この世界にも方位磁石はあり、方位を確認出来れば問題ないのだ。

 何しろ、どこをどのように、どの方角に進めば良いのかは、既にセミナスが伝え終わっている事。


 また、詩夕たちはその事を知らないが、セミナスはあえて伝えない事もあるが、それはより確実な方向に誘導……導いているのである。


 そうして、セミナスの指示によって、詩夕たちは島中を巡りながら、自分たち専用の装備品を作るために必要な素材を集めていく。


 その内の一つが、「虹宝石」。

 七色に輝く宝石で、全属性の力を宿している。

 これは全属性を扱える詩夕の力を強化するために必要な物。


 それを持つのは、鳥。体内にその「虹宝石」を持つ猛禽類。

 本来ならこの島にある山の頂上付近に生息しているのだが、時折、森の中にある湖まで下りてくる。


 詩夕たちは、そこを狙っていた。

 湖に辿り着くと同時に身を潜め、その時を待つ。


 その時は、割と直ぐ訪れた。

 湖近くの木に、空から舞い降りる鳥がとまる。


「……タカだね」

「……タカだな」

「……大きさが桁違いだが」


 それは、人の倍は大きなタカだった。

 その大きさに圧倒されつつも、詩夕たちは観察を続ける。


「あれで良いのかな? 確か、羽が虹色に輝いているはずだけど……」

「……見えた。羽の裏が虹色に輝いている」

「なら、あれで間違いないな」


 確認は取れたが、詩夕たちはどうしたものかと考える。

 何しろ、相手はタカ。鳥。

 空を自由に舞う事が出来るのだ。


 対して、自分たちのメインの攻撃方法は、剣、槍、拳。

 近、中距離であり、遠距離ではない。

 多少なりとも攻撃魔法は使えるが、メインの威力に比べれば本当にサブでしかなく、あのタカに通用するか怪しいのだ。


 だからこそ、どう戦えば良いのか、詩夕たちは相談を始めるが……その様子にシャインは少し呆れ気味な表情で言う。


「ぐだぐだと悩んでないで、さっさといってこい。逃げられるぞ」

「ですが、攻撃を当てられない事には倒せませんし、その方法を模索するのは当然では?」

「そんなもん、戦いながら答えを見つけろ」


 詩夕たちはシャインに蹴り出され、タカの前にその姿を現す。


『………………』


 詩夕たちとタカの目ががっちり合う。


「………………ピィーーーッ!」


 威嚇するように大きく鳴いたタカが、羽を大きく広げ、羽ばたかせて空に舞い上がる。


「こうなったら、襲いかかってくる時にカウンターを食らわせるしかないか」

「それが確実か」

「まずは様子見だ。カウンターは相手の速度に慣れてから」


 そこは慣れたもの。

 詩夕たちは即座に戦闘態勢を取る。


 だが、そんな詩夕たちの考えは、あっさり裏切られる。


「ピィーッ!」


 タカが空中で羽を大きく広げたかと思うと、虹色に輝く部分から十数の水弾が射出された。

 その水弾が、魔力が圧縮された高威力のモノだと詩夕は直ぐに察知する。


「散開っ!」


 水弾を回避する詩夕たちだが、タカの攻撃はまだ終わっていない。


「ピィーーーッ!」


 次いで虹色に輝く部分から出現したのは、十数の土弾であり、同じように回避に徹する詩夕たちだったが、風弾、光弾、闇弾と次々射出される。


「キリがない!」

「考えてみれば、全属性対応の素材を得るのだから、当然その相手は全属性という事か」

「しかも、この島は魔力が満ち溢れている。あれの魔力が豊富だとしても、気を付けるべきはその回復量かもしれん」


 つまり、このまま全属性魔法がまだ続くという事である。

 現状は芳しくない。


 詩夕たちの体力が尽きるのが先か、タカの魔力が尽きるのが先か。

 タカの魔力回復量が少なければ、直ぐにでも全属性攻撃はとまるだろうが、所詮は可能性の話でしかない。


 そこに勝機を見出すのは危険だと、詩夕たちは体力が尽きる前に早期決着を目指す。

 そのための最大の障害は、タカが空を飛んでいる事だ。

 そこさえ攻略すれば、早期決着は見込める。


「こらー! さっさとしろー!」


 その方法を模索する前に、シャインの檄が飛ぶ。

 ちなみに、シャインは一切手出しするつもりはない。


 今の詩夕たちを更に鍛えるという意味でも、この島の魔物の強さは丁度良い相手であったからだ。

 ……まぁ、オリハルコンゴーレム戦である程度満足している状態だからこそとも言える。

 また、タカの方も危険を察知してか、シャインに対して何かをするような素振りはなかった。


 空中のタカからの全属性魔法を回避しながら、攻撃方法を模索する詩夕たち。

 その中で、樹は一つの案を導き出す。


「詩夕! 常水! 牽制して注意を引きつけてくれ!」

「わかりました!」

「わかった!」


 そこはもうこれまで行動を共にしてきたのだ。

 聞くまでもなく、この状況を打開するための行動だと信じて、詩夕と常水は即座に行動する。


 そちらが全属性魔法なら、こちらも全属性魔法だと、詩夕が対抗するように足をとめて魔法を放ち始める。

 ただし、威力はタカの方が上だったので、牽制になっているかは怪しい。

 また、数もタカの方が多く、いくつかは相殺しきれずに詩夕に迫る。


 そこで詩夕を守るのが常水だ。

 撃ち漏れ迫るタカの魔法弾に対して、槍を器用に当てて払い除けて詩夕を守る。

 常水が守ってくれると信じているからこそ、詩夕はなんの気兼ねもなく魔法を放つ事が出来ていた。


 しかし、このままではいつか押し切られるのも明白。

 そうなる前に、樹が行動を起こす。


「行くぞっ!」


 樹が唯一使える土属性魔法を発動。

 自身の足元の土を勢いよく一気に盛り上げ、その勢いを利用して自身を砲弾のように射出。

 空中に居るタカが反応する前に一気に近付き、樹は別の土属性魔法を発動。


 タカの羽を土属性魔法で固め、羽ばたけなくする。

 重みと羽ばたけない事で、タカは地上に落下。

 落下によるダメージを受けはしたが、タカはまだ死んではいない。


 しかし、落ちたタカに勝機はなかった。

 再び飛び立たせまいと、詩夕、常水、樹が猛攻撃を加え、一気に倒したからだ。


 そして、解体し、詩夕たちは「虹宝石」を手にする。


「よしっ!」

「やったな!」

「上手い具合に連携がはまったな!」


 喜びに沸く詩夕たち。

 そこにシャインが声をかける。


「遅い! 三人がかりであんな鳥程度に時間をかけすぎだ! どうやら、まだまだ鍛えないといけないようだな」


 えっと、それなりに及第点だと思うんですけど? と詩夕たちは思うが、シャインが満足していない以上、及第点ではなかったという事である。


 僕たちは百点満点形式だけど、シャインさんは千点満点形式なのかな? と詩夕は思った。


「ほら、さっさと次に行くぞ! 次からは一人ずつだからな!」


 詩夕たちの鍛錬は……まだ終わっていない。


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