露骨なアピールは逆効果になる場合が多い?
遠くからでもわかるほどに巨大な木。
いや、樹? ……どっちでも一緒かな?
遠近感が狂った訳じゃないと思いたい。
あれが、世界樹。
太い幹の直径は人何人分……いや、何十人分だろうか。
青々とした葉が生い茂り、上部は雲の上で見えないので全容はわからない。
……雲の上だと空気の濃度とかの問題で枯れないのだろうか?
いや、世界樹はそれでもモノともしないだけの生命力を宿している……かもしれない。
だって世界樹だし。
その世界樹がある島も同じく巨大だ。
いやもう、大陸と言ってもおかしくない。
砂浜と森、山が見える。
……まぁ、世界樹が巨大過ぎて、山が小さく見えるけど。
ただ、この世界樹がある島には、容易にたどり着けない。
その理由は、下を見れば直ぐにわかった。
ドラーグさんの背骨の上に立ち、今は既に海の上を飛んでいる。
その海が問題だった。
世界樹のある島を取り囲むように大きな渦潮がいくつも発生している。
渦潮だけなら合間を縫って進むとか、かなり運がよければ辿り着く事が出来るかもしれない。
でも、そんな渦潮なんて関係ないとばかりに、船を丸呑み出来そうなくらいの巨大な魚や、船を容易に破壊出来そうな大きさの触手を持つ巨大なイカ――クラーケンの姿がちらほら見える。
無事に、というか、世界樹のある島には、海路で辿り着くのは不可能だと思う光景が広がっていた。
というか、実際にクラーケンが触手をこちらに向けて伸ばしてくるという出来事が起こる。
餌だと思ったのだろう。
狙いは、先頭で飛んでいたミレナさん。
危ない! と言おうとする前に、既に動いていたのが居た。
DDである。
ミレナさんに向かう触手を掴み、そのままクラーケン本体に向けてドラゴンブレス。
その一発でクラーケンは燃え尽きた。
普段戦う場面は一切見ないが、さすがは竜。
それも女王竜の番なだけはあるという事か。
ただ、そこで終われば締まっていたのだが、DDは最後にミレナさんに向けてウィンク。
……お前の事は絶対に守る的な露骨なアピールだろう。
……点数稼ぎで守った訳じゃないよね?
そのアピールのせいで、そう思ってしまった。
最後のウィンクはやらない方がよかったと思う。
ミレナさんの表情は見えないが……呆れていそうな雰囲気が醸し出されている。
あと、シャインさんが、余計な事を! と叫んでいた。
戦いたかったのだろうけど、どうやって戦うつもりだったんだろうか。
シャインさんなら、どんな戦い方をしても違和感ないだろうけど。
あとはこれといった事は起こらず、世界樹のある島に着く。
―――
ゆっくりと下降していき、世界樹の根本近くに下りた。
近付くと、世界樹の大きさに更に圧倒される。
改めて、ここは異世界なんだと実感させられてしまう。
DD,ミレナさん。ドラーグさんは特になんとも思っていないようだけど、俺を含めた他の皆は目を大きく見開いたり、口があんぐりとしている。
詩夕たちはわかる。
俺と同じ感想だろう。
でも――。
「アドルさんたちも?」
「……いや、普通は来れないからな。大陸から天候の良い日に僅かながら見れる程度の存在だ」
「……世界樹を見る事が出来た日は幸運な一日になる、なんて言われているくらいですよ」
「世界樹は無理でも、この近くにある物ならなんかご利益がありそう」
アドルさんとインジャオさんは圧倒されているけど、ウルルさんだけなんか欲が垣間見える。
大丈夫だよね? 世界樹の枝、折ったりしないよね?
そんな事はないと信じているからね。
「エイトたちもか……」
「とても大きな樹ですね。……ふむ。エイトも将来はこれくらい大きくなりたいモノです」
「自然と拝みたくなってくるな。いっちょ拝んどこ」
「世界樹関連道具を売れば……ボロ儲けかもしれませんね」
「うわ~! おっきいね! この樹!」
なんか感じ方が違うかもしれない。
まず、エイト。
ここまで大きくなるのは無理……と言えないのが怖い。
次に、ワン。
気持ちはわかる。俺もあとで拝んどこ。
で、ツゥ。
ボロ儲けかもしれないけど、その考えは捨てよう。
なんかソレに手を出しちゃいけない気がするから。
最後に、スリー。
……そのままでいて。
けれど、皆まだマシ。
一番危険なのは、シャインさんだった。
「……これだけでかいと、拳での折り甲斐がありそうだな」
危険! 危険! 誰かシャインさんをとめて! 物理的に!
俺には無理だから、誰か!
……だからって、俺を前に出そうとしないでください!
特にアドルさん。まぁまぁって言っているけど、本気ですよね?
全く力を弱めないし!
隙を見てアドルさんを前に出そうと思った時、世界樹の根本の方からこちらに来る竜が居た。
ミレナさんと同じく純白の竜。
ただし、その大きさはミレナさんよりも大きい。
説明されなくても、その純白の竜がどういう存在かわかる。
ミレナさんが、その純白の竜に向けて一礼した。
「お久し振りです。お母様」
「あら? ミレちゃんじゃない。こんなところまでどうしたの? お母さんに会いたくなっちゃった?」
そう言って、ミレナさんを抱き締める純白の竜。
「ちょっ、皆が見ているので」
「あら? 親子なんだもの。恥ずかしがる事ないじゃない。あら? デーくんも一緒なのね」
「ちょっ!」
DDが慌て始める。
……なるほど。
デーくんと呼ばれているのか。
何人か口を押えているので、笑い出さないように我慢しているんだろう。
俺もその一人である。
「それに、他にもこんなにたくさん連れて。どうしたの? 何かあった?」
「ええと……ですね」
ミレナさんが、純白の竜にこれまでの事を説明していく。
DDもそれを手伝っているようだ。
………………。
………………。
なんというか、新鮮。
これまで、こういう時は俺が矢面に立たされて説明する事が多かった。
でも今は、こうしてその光景を見る側である。
話が終わるまで、こちらも休憩だ。
「ご主人様。紅茶です」
「うん。ありがとう………………うん。美味い」
今日もエイトの淹れた紅茶は美味い。
いや、この状況と相まって、更に美味しい。
「ところで、エイト」
「なんですか?」
「どうして皆、俺の後方を陣取るように移動しているのかな?」
「それはもちろん、このあと諸々の使い説明をするのがご主人様だからです」
なるほど。
俺の前を開ける事で、スムーズに移動出来るようにしているのか。
……よし。DDやミレナさんから距離を取ろう。
「………………どうして進行方向を塞ぐのかな?」
エイトが俺を下がらせないと鉄壁の構え。
「総意です」
さも全員がそう思っているかのよう……皆後方に下がっているんだった。
だが、それでも抜いてみせる。
エイトを抜こうとするが、エイトはバスケット選手のような動きで防いでくる。
くっ……抜けない。
そうこうしている内に、DDとミレナさんの声が聞こえてくる。
「詳しい事はアキミチが知っています」
「祖父を解放したのもアキミチなのです」
「それは是非ともお礼をしなければ。ここに来ているの? どなたですか?」
呼ばれています、とエイトが俺の向こう側を指し示した。




