クッションは偉大だと思う
出発……出来なかった。
いざ出発って時に、予期せぬ問題が起こったのだ。
まず、出発という事で、竜の住処から出る。
行くメンバーは、俺、詩夕たち、エイトたち、アドルさんたち、シャインさん、ドラーグさんに、竜の方からはDD、ジースくんたち、ミレナさん。
といっても、こちらとしてはスリーとドラーグさんが増えただけなので、竜の背に乗るのはスリーが増えただけなので問題は特になかった。
適度にバラけて乗っていく。
DD、ジースくん、ドラーグさん、ミレナさん以外の竜たちが、天乃たち女性陣とエイトたちの前で、俺の背中に乗ってけよアピールするのはいつもの事。
ただ、今回はミレナさんの見ている前だったという事もあって、あとで物理的説教を食らわないか心配だ。
あとはまぁ、シャインさんは謎理論によって、ミレナさんに乗っていくようだ。
ミレナさんも特に気にしていない。
てっきり謎理論でいくと、ドラーグさんだと思っていたけど。
「骨だけだと乗り心地がな」
という理由。
謎理論に快適性も加わったようだ。
そういうのも必要だよね、とうんうん頷いていると、シャインさんに叩かれた。
「なんかイラッとする感じだった」
あとはその手癖の悪さが……。
「まだ何かありそうだな?」
「いいえ、何も」
即否定したのに、何故かまた叩かれた。
まさか、心が読まれているのだろうか?
とまぁ、そんな事もありつつも、皆思い思いに竜の背に乗り、いざ出発という時に……待ったが入ったのだ。
待ったとかけたのは、ドラーグさん。
ちなみにこのドラーグさんは、この出発までの数日間で、この世界を何周かするくらい飛びまくって、外に出れた事を満喫していた。
よほど嬉しかったんだろう。
それで、そのドラーグさんが何故待ったをかけたかというと――。
「いやいや、ちょっと待ってくれんかの。あれ? おかしくないかの。ワシの背……誰も乗っておらんよ? 誰も乗っておらんから、スースーする。いや、骨なんで元からスースーしているけども」
その言葉に、竜の背に乗る俺たちは顔を見合わせて……苦笑い。
「いや、おかしくないって言われても……」
理由は既にシャインさんが言ってくれている。
骨だけだと乗り心地が……ほら、長時間となる場合、柔らかくないと……その、お尻が……ね。
やんわりとそう伝えるが、ドラーグさんは納得してくれない。
「そこは、元竜王でもありますし、祖父の背に人を乗せるのは……」
ミレナさんが説得。
「いや、現王が乗せておるのに、元の方が駄目って」
失敗。ドラーグさんの意思は固い。
これはどうしたものかと思っていると、ドラーグさんから提案。
「というか、そもそも……なんで主がワシの背に乗らずに、他の竜の背に乗っておるのだ?」
ドラーグさんがビシッと指差すのは、ジースくんの背に乗る俺。
「それはまぁ、なんつうか……ジースくんとはダチだから」
イエーイ、とピースすると、ジースくんも同じようにピースをする。
まぁ、俺の中でまず間違いなく、この世界の一番仲良くなったと思うのは、ジースくんだ。
アドルさんたちは、どちらかと言えば恩人の方なので、友達だとジースくんである。
「ずるい! ずるいぞ! ワシだって主を乗せたいのに!」
ドラーグさんが駄々っ子のように抗議をしてくる。
「主よ。老い先短いワシの願いを叶えてくれんかの?」
いや、ダンジョンがある限り、多分不滅の存在だよね?
そう思うのだが、ドラーグさんは乗らないと動かない、とでもいうように、てこでも動かない構え。
⦅面倒ですね。送還しますか? 世界樹のところで再び召喚すれば良いだけですし⦆
辛辣!
外に出れた興奮がまだ続いているだけだろうし、もう少し優しくしてあげようよ。
⦅調子に乗せるだけです。それに、マスターに迷惑をかける存在を、私は許しません⦆
まぁまぁ。
セミナスさんを宥めつつ、ジースくんに断りを入れる。
「悪いけど、今回はドラーグさんの方に乗るよ」
「是非、そうしてくれ」
ジースくんも申し訳なさそうに……ちょっと待って。
どうぞどうぞ、とジースくんに背中を押される。
「なんでそんな率先するような言葉と行動なの?」
「相手は史上最強と言われた先々代竜王様。目を付けられたくない」
「いや、もうその頃の力はないみたいだよ? 案外、ジースくんでも勝てるんじゃない?」
「無茶言う……ひっ! なんかめっちゃ睨まれている気がするんだけど」
ジースくんが俺を盾にするように更に前へ。
ドラーグさんに視線を向ければ、どれ? やってみるか? とポキポキ体を鳴らしている。
……やる気満々ですね。
「戦闘の勘も取り戻しておきたいし……どれ、やってみるかの。最近の竜の力も知っておきたいしの」
きっと、骨じゃなかったら、凶悪な顔付きを浮かべていたんじゃないかと思う。
今の骨だけでも、なんか迫力があるし。
ただ、これ以上出発を遅らせるのもなんなので。
「はいはい。そういうのは良いから。ほら、出発するよ」
ドラーグさんの背に乗る。
「でないと……送還する」
「よぉし! では行こうかの!」
漸く出発となった。
―――
空の旅を満喫する。
それは特に問題ない。
でも、気になる事がない訳でもない。
心の内でドラーグさんに問いかける。
(ドラーグさん)
(ん? どうしたのだ? 主よ)
(骨だけなのに、なんで飛ぶ事が出来ているの?)
(ほっほっほっ。そんなモノ、魔力を上手く使えば簡単な事での……)
そこからドラーグさんの魔力講義が始まる。
でも、なんというか難し過ぎてついていけない。
それに、俺の魔力……乏しいから。
ゼロに近い乏しさなので、大抵の事は……というか、魔力関連に対して何も出来ないんだけど。
ただ、ドラーグさんの魔力講義が聞こえているのか、セミナスさんが時折ふんふんと頷いている。
何やら勉強しているっぽいけど……変な事にならないよね?
それとも、セミナスさんが勉強になるくらい、ドラーグさんの知識が凄いと言うべきなのか。
でも、一つだけ確かな事がある。
……お尻、痛い。
骨が硬くてゴツゴツしているから、痛い。
クッションとか欲しい。
(……ドラーグさん。あとどれくらいで着きそう?)
(そうじゃの……もう少し、か?)
ドラーグさんの言葉を信じるのなら、もうあってもなくても同じかもしれない。
本当にもう少しかはわからないけど。
ただ、念のため、立ち上がっておく。
そこで気付いた。
そこまでの具体的な距離はわからない。
けれど、雲よりも高い巨大な木を、視界に捉えた。




