やっぱり業が深いと思います
「なるほど。こんな感じで眠っているんだ」
「……で、明道が目覚めさせてきた、と」
「強ければ、そこら辺は割とどうでも良いな」
「神々はこんなモノをここに置いていったのか」
大きな箱の中の女性を確認している間に、初見の天乃、水連、シャインさん、ドラーグさんも同じように見ていた。
「……少し上の姉、という感じでしょうか」
「こいつは……見た事あんな」
「私も覚えがありますね」
エイトたちも同様だった。
ほらほら、下がった下がった。
今から目覚めさせるから、興味あるなら本人に聞きなさい。
皆を下がらせてから、心をビルドアップさせていく。
寧ろ、本番はここからだ。
……どうか、まともな詠唱文でありますように。
期待はしていないけど、奇跡よ起これ。
……大丈夫……大丈夫。
よし。じゃあ、詠唱文を! セミナスさん!
⦅かしこまりました。ではまず、『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』⦆
もうその言葉に関して何も思わなくなってきたよ。
寧ろ、一番まともな文で安心する。
……まともではないか。麻痺してるな。
⦅次いで、『ボクっ娘って可愛いよね。いや、寧ろ尊いよね』⦆
相変わらず、最初からフルスロットルだなぁ。
……うし。心をビルドアップしていなかったら、耐えられなかったかもしれない。
……一気にお願いします。セミナスさん。
⦅続きは、『ちょっと悲しそうというか寂しそうな顔で、「……私って言った方がいい?」て聞いてきたら全力否定する自信がある。いや、寧ろ自信を持てと言いたい』⦆
……長文形式か。
神様って、ヤバいのが多いのかもしれない。
⦅最後に、『お兄ちゃんって呼ばれたい、お姉ちゃんも可』です⦆
最後の最後で特大の爆弾を放り込んできたな。
ちょっと欲望に忠実し過ぎじゃないだろうか?
……そもそも、これを詠唱文に設定している時点でおかしいけど。
一応、最終確認だけど……それで間違いではないんだよね?
いや、良いんだよ。間違いでも。
寧ろそうであって欲しいというか。
⦅マスターは、私が間違えると思っているのですか?⦆
人は偶にどうしようもない間違いを。
⦅私はスキルですが?⦆
スキルにも適応するかな? って。
⦅他はどうか知りませんが、私はしません⦆
ですよね。
はぁ~……仕方ない。どうせ言わなきゃいけないんだ。
さっさと終わらせよう。
小声は?
⦅駄目です。それなりの声量でお願いします⦆
詠唱文もそうだけど、声量も厳しい条件だよね。
⦅マスター。わかっているとは思いますが⦆
大丈夫。途切れたら、また最初からなんでしょ?
⦅その通りです。では、頑張ってください⦆
……よし。一気に言ってしまえば良いんだ。
もう一度、天乃たちにこれから行う事を説明して、くれぐれも邪魔しないように、という文を付け足す。
質疑応答は、このあと受け付けるから。
そして、俺は言う。
「『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』……『ボクっ娘って可愛いよね。いや、寧ろ尊いよね』」
なんか圧が強くなったというか、空気が重くなったような気がする。
「『ちょっと悲しそうというか寂しそうな顔で、「……私って言った方がいい?」て聞いてきたら全力否定する自信がある。いや、寧ろ自信を持てと言いたい』」
シャインさんの笑い声が聞こえる。
いや、寧ろ笑ってくれた方がありがたい気がする。
「『お兄ちゃんって呼ばれたい、お姉ちゃんも可』」
一気に静かになった。
怖くて皆の方を見れない。
早く起きてくれ、と思っていると、大きな箱の中から女性の声が響く。
「起動詠唱を確認しました。声紋によるマスター登録をしました。同時にマスターの魔力波形も登録しました。条件オールクリア。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』……『スリー』。起動します」
大きな箱の中で横たわっていた女性が身を起こす。
両腕を上げて伸びをする。
「あぁ~……よく寝た」
そう言いながら周囲を確認して俺と目が合い、上から下まで見られる。
なんというか、大きな目で更に可愛らしい顔立ちになった。
「ボクの中に感じられる魔力波形と一緒。キミが僕のお兄ちゃんだね!」
いきなりのお兄ちゃん呼び!
これは不味い予感がする。
くるりと反転してダッシュ。
した瞬間に倒され、取り押さえられる。
もちろん、俺の即座の行動に反応出来たのは、シャインさん。
押さえつけるように俺の上に座っている。
「面白い趣味じゃないか、アキミチ」
「違う! 俺の趣味じゃない! 神様たちの趣味だ!」
「本当に?」
「……詳しく聞きたい」
いつの間にか、天乃と水連が俺の前に立ち塞がっていた。
まさか、俺の動きに反応していたのか!
さすがは勇者という事か。
「最初に説明したよね! 詠唱文は詠唱文であって、俺の意思じゃないって!」
「でも、お兄ちゃんって呼ばれたいんじゃないの?」
「……そう呼んで欲しいのなら、そう呼ぶよ?」
「だからそうじゃないって!」
何故皆、説明したのにそのまま俺の意思として受け取るのか。
「お兄ちゃんご主人様と呼んだ方が良いですか?」
「主兄ちゃん? 主兄?」
「寧ろ、私がお姉ちゃん、もしくはお姉様と呼ばれたいような……」
エイトたちもか。
体は身動きがとれず、動けるのは口だけ。
……説得しか出来ない、か。
………………。
………………。
頑張った。頑張って説明、説得した。
解放されたので、誤解は解けた……と思う。
「呼ばれたくなったら、いつでも呼んであげるからね、明道お兄ちゃん」
「……常水に怒られるかもね、明道お兄ちゃん」
天乃と水連が、からかうようにそう言ってくる。
……誤解は解けたんだよね?
そう信じて、新たに目覚めた神造生命体のところへ。
「……えっと、大丈夫? お兄ちゃん」
「ぐっ。……別の呼び方は出来ない?」
「う~ん……出来ないみたい。この設定は誰にも、それこそボクを造った神でもいじれないようにしているみたい」
無駄な設定を。
呼び方は諦めて、まずは俺を含めたこちらの紹介を行う。
ついでに、これまでの事も簡単に。
「ちょっと可愛いかも」
「……妹が出来たみたい」
「強ければ問題ない」
天乃、水連、シャインさんは特に問題ない。
ドラーグさんは、大きな箱の方に興味があるようで、珍しそうに物色している。
「エイトです。よろしくお願いします」
「あたいの事は憶えてるか? ワンだ」
「私の次ですから、憶えていますよね? ツゥです」
エイトたちもそれぞれ挨拶。
ワンとツゥの事は、憶えているようだ。
そうして挨拶を交わしていき、再び俺の前に。
「それじゃ、改めて。ボクは『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・特化型』。対応している属性は『土』。名は『スリー』。よろしくね、お兄ちゃん」
「うん。こちらこそよろしく」
こうして、ドラーグさんに続いて新たな仲間が増えた。




