順序よくやるのも協力の一つの形
ダンジョン内を進んでいく。
この進行に対して、当初は不安を抱いていた。
何しろ、まともな前衛がシャインさんしか居ないのだから。
でも、そんなの全く問題なかった。
シャインさんしか居ない?
いやいや、シャインさんだけで充分なのだ。
蹂躙……はなんかちょっと違う。
う~ん………………そう! 何もなかった。そんなもの最初から存在していなかった。という感じだろうか。
まず、シャインさんの感知範囲がおかしい。
⦅そこの角を曲⦆
「魔物が居るな!」
セミナスさんが言い切る前に反応し、そう言って飛び出して角を曲がっていくシャインさん。
あとを追う俺たちが角を曲がると、既に魔物は死亡。
魔物の数も関係ない。
見つけたと思ったら、シャインさんのワンパンで倒されるのだ。
行動が速過ぎる。
「このまま放置するのもなんだし、売れば金になるかもしれんな。よし、回収頼む」
「はいはい」
俺は回収係。
アイテム袋に収納していく。
まだまだ入ります。
しかし、そんなシャインさんでもワンパンで倒せない敵が現れた。
「「「フィ~……フィ~……」」」
幽霊? 霊体? ……レイス?
確かそんな名で呼ばれている幽体の魔物が数体。
物理攻撃が一切効かない、というか、素通りしてしまうのだ。
ここは自分たちの出番だと、天乃、水連、エイトたちが前に。
シャインさんも、偶には出番をやるか、と譲る。
しかし、ここでレイスたちはやってはならない事をした。
「「「フィ~……クスクス……フィ~……クスクス」」」
シャインさんの攻撃が効かないとわかると、笑い出したのだ。
その様子に……シャインさんがブチキレた。
「………………」
無言で拳に魔力を纏わせ、レイスを殴る。
「ヘブッ!」
シャインさんの拳がレイスに当たった。
なるほど。ああして戦えば、実体のない魔物でも問題ないのか。
まぁ、魔力がかなり乏しい俺には無理だろうけど。
しかも恐ろしいのは、一撃で倒せていないところだろう。
何度も殴らなければ倒せない。
多分、わざとだな、あれ。
纏わせる魔力量を上げれば、一撃で倒せるはずだ。
それをしない辺りに、シャインさんの怒りを感じる。
しかしこれで、シャインさんは出番を譲る事はなくなった。
だからといって、天乃、水連、エイトたちの出番がなくなった訳ではない。
何しろ、魔物は前からじゃなく、後ろから現れる事だってあるのだ。
ただ、その場合は、シャインさんに倒されるより酷いかもしれない。
⦅背後から魔物が数体迫っています。接敵予測、十秒後⦆
魔物数体が来ている事を教えると、天乃、水連、エイトたちから、タイミングよく魔法が放たれる。
その規模は、通路を一杯に満たすほど。ギチギチに。
魔物が数体居ようが関係なかった。
何しろ、通路にギチギチの魔法の雨。
逃げ場なんてない。
「今のは、エイトの魔法がとどめとなりました」
「いいや、あたいのだね!」
「もう少し観察眼を養ってください。私のです」
エイトたちは、自分の放った魔法こそが最後の一撃になったと言う。
まぁ、それだけなら、ある意味いつも通りなのだが……。
「待って待って。威力は確かに凄かったけど、とどめとなったのは私の魔法よ!」
「……全員間違っている。私はしっかりと見た。私の魔法がクリティカル」
今はそこに天乃と水連も参加している。
確かなのは、誰も譲る気が一切ない事。
そして、その矛先は俺にくる。
「誰がとどめの一撃だったの?」
代表してか、天乃がそう尋ねてくるが、俺にはわからない。
いや、あんな通路一杯のギチギチ状態で、誰の魔法がどう当たったとか、判別出来る訳がない。
出来るとしたら……。
⦅私が一番です⦆
いや、セミナスさんはそもそも魔法を放っていないでしょ。
回答を求めて、シャインさんを見る。
……こちらを指差しながら、ゲラゲラ笑っていた。
この状況を楽しんでいるようで何より。
しかし、これでは答えが出ない。
なので、俺が取るべき手段は一つ。
「ワンモア」
もう一回。次の機会に持ち越した。
心の中で、そのもう一回の機会が来ない事を切に願う。
⦅そこまで強く願われると申し訳ないのですが……⦆
……あるようだ。
願った直後に砕かれるので、心の傷は浅いと思いたい。
今度はしっかりと見ようと思った。
そして、次の機会。
「………………さらにギッチギチになるくらいに魔法を放たれても困るんだけど。更に判別出来なくなっているから」
話し合いもしていないのに、全員が揃って他を出し抜こうとした結果である。
「あと、姿形というか、魔物が消失するくらいの威力と密度はやめようか。何も残らないから」
焦げ跡くらいは残っているけど。
お金になるかもしれないんだから、素材分は残そうよ。
そう言うと、しゅん……と落ち込む面々。
ここがチャンスだと、俺は全員一斉じゃなく、順番を提案。
その提案は受け入れられたのだが……今度はそのローテーションで揉めた。
……ダンジョン内を進むのって難しい。
―――
それでも魔物に対する安全は保たれたので、ダンジョン内を進んでいく。
まぁ、過剰戦力なのは認めよう。
よほどの敵でも現れない限り、大丈夫そうだ。
それこそ魔王レベルでも来ない限りは。
あとはまぁ、飲食物もアイテム袋の中にたんまり入っているので、この人数でも数日くらいは大丈夫だと思う。
さすがに長期間にはならないと思いたい。
⦅なりません⦆
ならないようでホッと安心。
でも、かなり下まで落ちたと思うんだけど、そんな簡単に戻れるのだろうか?
⦅問題ありません。目的を果たせば直ぐ脱出は出来ますので⦆
まぁ、元々迷うなんて事はないだろうしね。
ダンジョン内の通路はかなり複雑なのだが、セミナスさんにかかればどれだけ複雑だろうとも、正解ルートに導いてくれる。
罠があっても、必要のない罠には引っかからないし。
……あれ? そうなると、宝箱とかは?
⦅マスター。現実に宝箱が存在すると思っているのですか? 仮に存在していたとしても、中身が残っているとでも? 勝手に補充されるとでも?⦆
そうですよね。そんな訳ないですよね。ごめんなさい。
⦅このダンジョンの主の宝物庫で我慢してください⦆
はい。わかりました。
………………。
………………。
ん? あれ? あれれ?
セミナスさん。もしかしてだけど……このダンジョンの……主、とやり合うの?
⦅やり合うかは今のところまだ確定していませんが、相対はします⦆
正直に言ってくれるのは嬉しいけど……もし敵対した場合、大丈夫だろうか?
⦅そこのエルフなら勝てます⦆
じゃあ、大丈夫だな。
という訳で、皆にもこれから向かう先を教える。
二つ返事で納得してくれた。
簡単に受け入れ過ぎじゃない?
「……なるほど。脱出より攻略を選ぶ、か。実に私好みの選択だ」
シャインさんが楽しそうに笑みを浮かべる。
……よし。あとは成り行きに任せよう。




