何をしても結果は変わらない
章、変えときます。
大陸中央にそびえ立ち、二つの巨大湖に挟まれるような位置にある巨大な山。
そこが竜の住処。
自然豊かな環境なのが見てわかり、山の頂上付近は雲の上なので、標高がいくつか正確な部分はわからない。
まぁ、そもそも登る訳ではないので、気にしなくても良いだろう。
と思っていたら、山の麓に降りた。
「あれ? このまま一気に行かないの?」
「自分たちだけなら問題ないけど、今回はアキミチたちが一緒だからね。先触れを出さないといけないし、人専用の道があるから、そこから入らないといけないしきたりだから」
つまり、その道を進まないと、竜の住処に入れないって事か。
「ジースくんが案内してくれるの?」
「その予定なんだけど……ちょっと待ってて」
DDがジースくんを呼ぶ。他の竜たちもだ。
それで何やら話し合いが始まった。
えっと、俺たちはほったらかしですか?
ただ、DDから醸し出される雰囲気は至って真面目で、ジースくんたちは何やら困惑している。
邪魔しちゃ悪いとは思うけど。
………………。
………………なんか終わりそうにない。
エイトたちを見る。
我関せずを貫いている。
アドルさんたちを見る。
俺に任せると逆に見られていた。
詩夕たちを見る。
自分たちではどうしようも出来ない、と困り顔だ。
シャインさんを見る。
興味なさそう。
……俺が行くしかないようだ。
何より、道案内は必要だ。
「あのぉ……そろそろ出発したいんですけど、どうなっているんでしょうか?」
恐る恐る近付く。
「私は絶対行かんからな!」
「でもDDの兄貴が行くのが、一番丸く収まると思うんですけど?」
「いいや、そんな事はない! というか、お前たちが先触れに行って、あいつを宥めておいてくれ」
「嫌ですよ! だって、姉貴絶対キレてますよ! そんな怖いところに行きたくないですよ!」
ジースくんの言葉に、他の竜たちがその通りだと頷く。
う~ん……DDはここから一切動かんぞ! と抵抗していて、ジースくんたちが説得している感じかな?
ただ、その理由が、怒れる女王竜が怖いから、か。
理由はわかったが、近付いたのは悪手だった。
「アキミチはどう思う? いや、私と一緒の方が心強いよな!」
DDが俺を抱き込もうとしてきた。
一方、ジースくんたちからは、どうにか説得してください、と視線だけで懇願してくる。
……巻き込まないでください、と答えたい。
「いや、確かに心強いですけど、どちらかといえば戦力は揃っているから、心休まるジースくんたちの方がありがたいような」
楽器が弾けるからね。
寝る時とか、穏やかなBGMを流してくれると嬉しい。
その思いが通じたのか、ジースくんたちが、俺たちに任せな! と頷く。
……が、DDは諦めない。
「いいや、そんな事はない! 私とアキミチの間には確かな絆があるではないか! そう、ダンスという名の絆が!」
縁者と観客って絆がね。
そういうのは、共に苦労を分かち合った者同士で言うべきじゃないかな?
俺、DDと苦労を分かち合った覚えがないんだけど。
しかし、ここまで頑なだと、もうどうしようもないような気がしないでもない。
DDも外聞を捨ててきているし。
よっぽど女王竜の事が怖いんだろうなぁ……。
そう思っていると、何か思い付いたのか、DDがポンと手を打つ。
「妙案が浮かんだぞ!」
……嫌な予感がする。
「アキミチも先触れに連れて行くのだ! それで、こちらが着くまでに、例のスキルであいつの怒りをどうにか鎮めてくれ」
そう言って、俺の両肩をガッシリホールド。
どうやら本気で言っているようで、逃がすつもりはないようだ。
………………。
………………。
⦅マスター以外のために動く気は一切ありません⦆
DDの血走った目が怖いので、結構危機感を覚えていますけど?
⦅自業自得だ、とハッキリ言ってやってください。私は、女王竜の方を味方します⦆
もしかしたら、セミナスさんは同じ女性として、女王竜に共感しているのかもしれない。
⦅何しろ、夫婦間で大きなウェイトを占めているのは女王竜の方ですので。味方にするならそちらの方を選択します⦆
……強い方に付いた訳か。
「DD。残念だけど……セミナスさんは女王竜さんの方に付いた」
絶望の表情とは、正にコレだろうという表情をDDが浮かべる。
しかし、DDは諦めない。
俺……というか、セミナスさんの協力を得られないとわかると、再びジースくんたちの説得に回る。
あの諦めない精神は凄い。
見習うべきだろうか?
でもここまでくると、ちょっと興味本位で知りたい。
どうにかならないの?
⦅なりません。そもそも、何をしようが結果は変わりませんので⦆
う~ん……DDに伝えるべきか悩む。
⦅いえ、変わる出来事がありました⦆
え? あるの?
⦅あのその他の竜たちが巻き込まれるかどうかです⦆
……ん? つまり、DDが怒られるのは確定だけど、そこにジースくんたちが加わる可能性があるって事?
⦅はい。その通りです。ちなみに今は……その流れです⦆
ちょっ! そういう事は早く言ってよ!
急いで向かおうとしたが遅かった。
説得されたジースくんたちが先触れとして出発して、DDが見送っている。
「頼んだぞ~!」
「あぁ……」
ジースくんたちを助けられなかった俺は、膝から崩れ落ちる。
そんな俺の様子から、大きく手を振るDDと興味ないシャインさん以外の皆は、ジースくんたちの行く末を察したのだろう。
悲しそうな目で飛び立ったジースくんたちを見る。
「よし! これで大丈夫だ!」
DDが自信満々にそう言う。
いや、大丈夫では決してないんだけど……その事を言う必要はない。
竜の住処に辿り着いた時、存分に怒られれば良いと思う。
セミナスさん同様、俺も女王竜の味方に回ろうと思った。
―――
DDの案内で向かった先は、麓にある巨大な洞窟だった。
「ここを進むの?」
「そうだ」
ここを通って上に登っていくのか。
……かなり深いだろうな、これ。
DDを先頭にして、注意深く進んでいく。
DDの隣は、自然と俺になった。
出来れば詩夕たちと一緒に行きたいのだが、DDのダンス談義がとまらない。
ほどほどに聞きつつ、気になった事を尋ねる。
「そういえば、ジースくんが言っていたけど、ここが人専用の道ってどういう事? 確かに人工物っぽいけど、竜たちがわざわざ造ったの?」
いや、この場合は、竜工物か?
「いや、元々ここはダンジョンでな、サイズ的にも丁度よかったから、それを利用しているだけに過ぎん。まぁ、ダンジョンの主の許可は得ていないが問題ないだろう。文句言ってきても滅すだけだ」
竜が怖くて引きこもっているのかな?
「それにしても、元々ダンジョンなのか」
……ん? 軽く流して良い内容じゃないような気がする。
「そういえば、ここを通るのも久し振りだが、人が来るのも久し振りだな。前は確か……神共が……」
なんとなく……そう、なんとなくだけど。
このあとの展開が読めた。
考え込むDDは周囲の警戒を怠る。
そして俺は、カチッと音の鳴る床を踏んだ。
床がバカンッ! と開き、重力に従って俺は落下する。
「悪いのはDD~!」
責任の所在を高らかに叫びながら――。




