食~べ~ら~れ~……
「SrD、kItdmtGiNIk?」
「Hi。StisrtBSNimstkR」
「SRZ、kRgKNSEKIw……」
森の中。
目の前で何やら話し合っている三人を、体育座りをしながら眺める。
直ぐには食べられないようだから、ホッと安堵しつつちょっと反省。
ファーストコンタクトの失敗は、きっと英語で尋ねたからだろう。
どう聞いても、三人の言葉は英語っぽくない。
理解出来ない、という部分は一緒だけど。
日本語とも違うし……どこか別の国の……でも、なんとなくだけど、どことも該当しないような気がするんだよなぁ。
となると、もう俺の取れる対応は一つしかない。
アーハン、とか、オゥ、とか気分でそれっぽく答えるだけだ。
喉の調子を整えておかないと。
ただ、これは諸刃の剣だ。
良くない時でも同意するように答えてしまう可能性がある。
そこだけは気を付けておかないといけない。
……ところで、全身鎧の人? を迎えた男女の内、男性の方は何か病気なのか、肌が白い。
文字通り、白い。
………………。
………………。
異世界だし、なんでもありだな。うん。
でも、その人より気になるのは女性の方で、頭に犬のような獣耳、腰の辺りには尻尾がある。
……獣人というヤツだろうか?
しかし、こうして初めてそういうのを見た訳だが………………うん。特に気にならないな。
というか、普通に女性。コスプレしている女性にしか見えない。
……取れないよね?
ただ、言っている言葉は変わらず何一つ理解出来ないので、確認のしようがないけど。
それに、今三人で話し合っているのも、多分俺の扱いをどうするか決めているのかもしれない。
………………どう食べるか? とか。
生、茹で、焼き……どれも悲惨である。
美味しくないと言ったところで、コミュニケーションが取れない今の状況では、もうどうしようもない。
熊? をいとも簡単に殺るような人? が居るんだから、抵抗も無駄だろうな。
ただ食べられるのを待つのみ。
………………塩胡椒くらいはかけて欲しいなぁ。
いや待てよ。
俺は今の状況を、異世界に来たと判断している。
言葉が通じないし、あんな見た事も聞いた事もない動物と遭遇したんだから、間違いはないと思う。
そうなると……ここが異世界となると……これまでラノベとかで読んできた世界と同じような世界なら……。
塩胡椒があるかも怪しい!
いや、探せばあるかもしれないけど、目の前の三人は持っていなさそうに見える。
えぇ~、マジかぁ~……。
どうせ食べられるなら美味しく処理して欲しかったけど、それも叶わぬ夢になるのか。
まさか、何の下味も付けずに……。
そう悲嘆していると、気付く。
あれ? 三人は話し合いに夢中だから、俺が居なくなっても気付かないんじゃ?
そぉ~っと動いてみて、様子を窺う。
………………。
………………。
うん! いけるな!
そのまま地を這うようにして近くにある茂みに向かう。
このまま茂みの後ろへと回って一目散に逃げるつもりだったのだが、不意に影が差したので上を見上げてみれば………………俺を丸呑み出来そうな大きな蛇と目が合う。
「………………」
「………………」
くっ、ここでもコミュニケーション能力が必要なのか!
今、蛇語を喋れないのが悔やまれる。
いや、たとえ喋れていても関係ないだろう。
何しろ、蛇の目と舌が訴えかけていた。
お前は獲物だから、まずは味見としてチロチロ舐めさせんかい! と。
……ビーチフラッグのように、即座に立ち上がって反転ダッシュ!
呑まれる前に、全身鎧の人? へ背中から熱烈抱擁した。
「助けて! 蛇が! 蛇がにゅって! ちろちろ舐めたいって!」
上手く伝えられたかはわからないけど、何とか震えながらも指先だけは向ける事が出来た。
三人の視線が指し示す方向へと向けられ、大きな蛇を捉える。
「Oo、kYunMsndksuDN」
「OiSSUDsn」
「TnpkstDSN」
……多分だけど、めっちゃ喜んでいる。
何となくだけど、ほくほく顔っぽいし、今日のご飯はお前だっ! みたいな感じ。
しかし、そう思ったのは間違いじゃなかった。
獣耳の女性の姿が消えたかと思ったら、うしろでドコンッ! と何か大きなモノが落ちる音が聞こえる。
恐る恐る確認してみると………………大きな蛇の頭部が地面から生えていた。
頭部の無くなった大きな蛇の胴体が、大きな音を立てながら倒れる。
その傍には、消えたと思った獣耳の女性が居て、指先に付いている血を嫌そうに振り払っていた。
臭いがキツイのかな?
………………いや、そうじゃなくて!
まさか手刀とか?
……いやいやいやいやう~ん……。
必死に思考して意識を残そうとするが、草原で吐けるモノも吐ききったし、大きな蛇の断面のグロさに耐え切れず、気絶した。
◇
「食わった!」
勢いで目が覚める。
それにしても酷い夢だった。
食べられそうになる自分を見る夢で………………あれ? 俺、生きている?
それとも天国かなぁ~って感じで周囲を確認すれば、まだ森の中で、陽も落ちているようだけど、近くにある焚き火のおかげで何も見えないという焚き火ぃ~!
まさかアレで俺を焼くつもりなのか?
棒に吊るして、ぐるぐると回しながら俺を焼くつもりなのか?
美味しく出来ないよ! 美味しく出来ないよ!
これから起こる出来事を考えていると、その焚き火の近くに居た、蛇を手刀で一刀両断した獣耳の女性と目が合う。
「………………」
「………………」
思わず自分の頭と体が繋がっているか確認してしまうのは、仕方ないだろう。
……うん。繋がってる。
ホッと安堵すると、獣耳の女性がにんまりと笑みを浮かべた。
「Oktmtidn。HR、tBn」
焚き火の近くにある何かを手に取って、俺に差し出してくる。
それは、串に刺された蒲焼……多分、さっきの蛇の。
「………………」
めっちゃ美味そうな匂いと、滴り落ちる脂に、ゴクッと喉が鳴る。
良いんですか? と視線で窺うと、獣耳の女性はどうぞと頷く。
差し出された串を手に取り、パクッと一口。
………………美味っ!
そのままバクバクと食べ続け、あっという間に食べきってしまう。
すると、再び差し出される蒲焼の串。
……あざ~す!
食べきると次が差し出され、それもガツガツと頂いていく。
最初は俺を肥えらせて美味しく頂くつもりなんじゃ? と思ったのだが、獣耳の女性が浮かべる表情は優しさに溢れていた。
となると、これは俺を生かすためにしているんだと思う。
そう思うと、食べながら自然と涙が溢れてきた。
多分、ここで漸く安堵したという事が一番大きい。
安心出来る場所とでも言えば良いのか……。
「E? tYtt、NnDNItrn?」
「ははっ、何言ってんのか、さっぱりわかんねぇ」
泣いた事で慌てる獣耳の女性に向けて、俺は大丈夫ですと、笑みを浮かべる。
その笑みに安堵したのか、獣耳の女性も笑みを浮かべた。
……生きよう。
何としても、この世界で生き抜こう。
そして、きっとこの世界に居る親友たちを捜して、会いに行こうと思った。
それまでは死ねない。
蒲焼を食べる力が強くなる。
すると、暗い森の中から、色白の男性と全身鎧の人? が姿を現す。
その手には薪に使うと思われる木片がたくさん抱えられていた。
「OiOi、Nndnitirnd?」
「Nkst? NkstN?」
俺が泣いているのを見て、何故か引いているような気がする。
そして、獣耳の女性を非難しているような気がした。
「StRinktIUN!」
獣耳の女性が必死に弁明しているような気がする。
色白の男性と全身鎧の人? は、そんな獣耳の女性をからかっているように見えた。
その光景が何か可笑しくて、俺は声を上げて笑う。