これも一つの決着だろう
王城を出てドンラグ商会に行くのだが、さすがに迷いはしない。
でっかい建物なので、目印として活用出来る。
………………。
………………。
路地の行き止まりで足止め。
「あれだな。こう……一直線に進めたら問題ないのに。屋根伝いででも真っ直ぐ進むべきだったか」
「ご主人様。そもそも、王城からドンラグ商会までは、ほぼ一直線です」
「知っているところだからって、気を抜き過ぎたんじゃねぇか?」
「なるほど。これが姉と妹が言っていた事ですね」
これまで頑張って築き上げた信頼感が瓦解していっているような気がする。
⦅マスター。真実は時に残酷なのです⦆
……どうして今その言葉を言ったのかな?
そんな信頼感は元からないって言いたいのだろうか。
いやいや、迷わなかった事はあったんだし、そんな事はないと思いたい。
⦅そうですね⦆
……あの、優しい感じで言われると、何故か逆に突き刺さるんですけど。
ちょっと今は立ち直れそうにないので、エイトたちに連れて行ってもらう。
きっと、これまでの鍛錬の疲れが出たんだろう。
―――
ドンラグ商会は、相変わらず人が溢れ返って盛況のようだ。
中に入って、受付のお姉さんのところへ。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、ダオスさんかハオイさんに取り次いで欲しいんですけど」
「お約束は………………ああ!」
受付のお姉さんが俺たちを見て気付く。
どうやら思い出したようだ。
そうです。あの時の俺たちです。
「エイトちゃん!」
あれ? そっち?
「聞いてくれる? 前に話した彼なんだけど」
「どうなりましたか?」
「エイトちゃんが勧めたように調べたら、やっぱり浮気してたの! しかも、私以外に二人も!」
受付のお姉さんが前のめりに。
エイトも合わせて俺より前に。
いや、興味があるのか、エイトだけじゃなく、ワンとツゥも。
受付のお姉さんも、初対面という事もあって、そこで警戒色を露わにする。
「……この二人は?」
「エイトの姉二人です」
「なら問題ないわね。それでね」
受け入れるのが早い。
もう味方認定だ。
「もう付き合ってられないと別れを切り出そうと思っていたら、勘でも働いたのか、察したように急に優しくなって、私のためにとか言って時間を作り出したの。これってどう思う?」
「今だけでしょう」
「今だけだな」
「今だけだと思います」
これに関してはノーコメントで。
その人と会った事はない訳だし、勝手に判断するのはちょっと。
「やっぱり! 私もそう思うの」
受付のお姉さんが更に前のめりになる。
仕事は良いんだろうか? と思うのだが、そのままエイトたちと話し合い始める。
「あの」
「ちょっと黙ってて! それと今、元会長と現会長は商談中ですので、少々お待ち下さい」
バッサリと斬られた。
これはもう、受付のお姉さんが満足するまでは無理だろうと判断して、店内でも見て時間を潰した方が良いかもしれない。
⦅それは良い案ですね⦆
あれ? セミナスさんは賛成なの?
てっきり、こういう話は興味があると思っていたんだけど。
⦅私に秘密の会話は存在しませんので。それに、結末は既に知っています⦆
そっか。
こういう話が出来ないって、少し寂しい?
⦅そうですね。改めて考えると傷心案件ですので、癒すために貴金属を買い与える事を推奨します⦆
そうきたかぁ。
いや、もちろん買いません。
ただ、問題なのは、今は一人で行動出来ない事である。
ここでエイトたちからスッと離れると、あとで大変な事になるので妥協案を願い出た。
誰か一人、付き添って下さい、と。
エイトたち全員が挙手。
しかし、エイトは駄目だと、受付のお姉さんがエイトの服を掴んで断固の構え。
エイトが妥協し、ツゥは興味があるのか辞退。
ワンと一緒に武具類でも見ておくか。
盾とか見ておけば、今後の参考になるかもしれないし。
「主。妹たちからメモを預かっているんだが」
見せてもらうと、欲しい貴金属類が書かれていた。
くしゃくしゃっとメモを丸めて、アイテム袋の中に入れる。
「……なんかあっちにワンが気に入りそうなガントレットがあったけど?」
「よし! 行こうぜ! 主!」
武具類を見て時間を潰す事にした。
―――
ガントレット以外に、棘付きナックルとか、鉄板入りの靴とか、鉄並みに硬い木刀とか……ワンの琴線に触れる武器まで揃っていた。
豊富な品揃え過ぎる。
ドンラグ商会……侮れない。
そうしてワンと一緒に適当にぶらついてから受付に戻ると……なんか人だかりが出来ていた。
人だかりの中心部というか、受付カウンター付近が何やら騒がしい。
近くに居る人に聞いてみる。
「何かあったんですか?」
「ああ。なんか痴情のもつれらしい」
「へぇ~」
……どうしよう。行きたくない。
でも、行かないとエイトたちと合流出来ないし、ダオスさんかハオイさんに会う事も出来ない。
いや、会う事は出来るか。
それに、その痴情のもつれにエイトたちが関わっている可能性もある。
主に、受付のお姉さんが原因で。
「……どうすれば良いと思う? ワン」
「あたいの推理だと、妹たちが積極的にがっつり関わっているな」
「俺もそう思う。で、どうすれば良いと思う?」
「とりあえず、コッソリと様子見してから判断するのはどうだ?」
「採用!」
コッソリと確認する事にする。
失礼しますよ~……失礼しますよ~……。
人垣を掻き分けて前へ。
前に出ると――。
「頼むから、別れるなんて言わないでくれ! 俺にはお前が必要なんだ!」
一人の男性が、受付のお姉さんに向けて頭を下げていた。
受付のお姉さんは、とても冷静な目で男性を見ている。
うん。あれはもう、完全に見限っているな。
「彼女の気持ちはもう固まっています」
「全てが遅かったのです。諦めて下さい」
あと、エイトとツゥは、どういった立場でそれを言ってんの?
受付のお姉さんを守るように立っているから、そっち側ってのはわかるんだけど。
本当にがっつり関わっているのはわかる。
どうしたものかと思っていると、隣に立っているのが、ドンラグ商会現会長であるハオイさんだった。
どうも、と互いに頭を下げる。
「戻って来られていたのですね」
「そうですね。つい先ほど。それで宿泊場所なんですが、カノートさんの屋敷にしたので、挨拶だけでもとこちらに来ました」
「それはご丁寧に。残念ですが、仕方ありません。ですが、何か必要な物があれば、なんなりと私共に仰って下さい」
「ありがとうございます」
目の前の光景のせいかな?
なんか、お互いに冷静な会話ですね。
でも、このままだとなかなか終わらなそう。
「えーと。また明日ご挨拶に来ます」
「時間は作りますので、いつでも来て下さい」
約束を取り付けたので、撤収する。
パンパン! と手を叩く。
「エイト、ツゥ。帰るよ」
「いいえ。この問題が解決するまで、エイトは帰りません」
「私も、関わった以上は結末まで見ていきたいです」
「……なら、このままだと迷惑だから、せめて別室で」
ハオイさんに確認すると、早速とばかりに別室が用意され、当事者たちと共にそちらに向かう。
結果として、受付のお姉さんと男性は別れた。
円満、だと思う。
パワーバランス的には、男性は孤立無援だったけど。
とりあえず、結果が出たので今日はこの場で解散となった。
明日、また来よう。




