誰も引けないから、誰も引かない
ラメゼリア王国内に入り、王都に向けて進んでいく。
というか、これまで気にしていなかったけど、今って他国の人たちと共に他国内を進んでいる訳だし、許可とか必要なんじゃないだろうか?
堂々と進んでいるし、侵略している、とか疑われないだろうかと不安。
「それは大丈夫だ。ラメゼリア王国から出発し、魔族の国、獣人国、軍事国ネスと回って、今は戻っているが、きちんと通達はされている。そのための準備期間をこれまで取っていたのだからな」
アドルさんにこそっと尋ねると、そういう返答だった。
「……でも、お迎えの人とか、普通は居るものなんじゃ?」
「その役目は、私たちだ。委任状も持っている」
アドルさんがぴらっと紙封筒を見せてくる。
それはつまり、えっと……。
アドルさんたちが? と指差していく。
頷かれる。
もしかして自分たちも? と自分とエイトたちを指差していく。
頷かれる。
「………………ちょっ! 勝手に責任者にしないで欲しいんですけど!」
「だが、アキミチたちも含めて、と念押しされてな。信頼されているな」
「でも、いざという時の責任は取らされるんですよね?」
「セミナスさんが居て、いざという時が起こるのか?」
………………。
………………まぁ、それはない、かな。
⦅私としては断言して欲しいのですが⦆
少し前のセミナスさんを知っている身としては、ちょっと。
でも、魔王が直接絡まなければ問題ないか。
「起こらないでしょうけど、やっぱり撤回! ……いや、この場合は辞退?」
「認められん。そもそも、既にここまで来ているのだし、今はラメゼリア王国側も人員が不足している中で、私たちを迎え入れる準備をしているのだ」
「人員が少ないって、三大国の一つですよね? そんな事ある訳が」
「大魔王軍城内にまで手を伸ばしていたのだぞ。城内に居る者たちを精査するのだって終わっていないだろう。信用出来ない者に他国の重鎮の相手をさせるつもりか?」
それはまぁ……そうですけど。
「だからって、俺たち?」
「国を救った英雄として認められているからな。大丈夫だ。これだけの一団だぞ。問題などそうそう起こらん。それに、アキミチはここに居る者たちがそういう行動を取るとでも?」
「いや、そうは思わないけど……でも、全員を知っている訳じゃないし」
「元国王として断言しておく。きちんと手綱は握っているから安心しろ」
「ですよね」
そうそう問題なんて起きないさ。
問題が起こった。
それは、王都に向けて進む中で立ち寄った一つの町。
名は……また来る時があれば覚えよう。
で、その問題というのが、また盗賊問題。
なんでも、この町の近くに、それなりの数と力を有しているのが居るそうだ。
最近の話なので、どこかから来たのだろう。
数日前に農作物や家畜などに被害が出て、ついでに脅されている。
食べ物と女を用意しないと襲う、と。
他の町や王都に救援を求めても、間に合わないそうだ。
そこに現れたのが俺たちである。
これが発覚したのは、町長さんが挨拶に現れた時、セミナスさんが聞けと言ったから。
「何か困っている事があるんじゃないですか?」
と。
それで俺たちも知る事になったのだ。
知ったからには対処する。
「同じ三大国の一つとして看過は出来ん。ここは軍事国ネスに任せてもらおう」
「ここは屈強な者が揃っている、獣人国の出番だ」
「隣国のよしみとして、魔族の国が出るべきだろう」
うん。誰も引かない。
ロイルさんにしては珍しいなと思ったら、宰相さんがバッグに居るのが透けて見えた。
でも、ここは誰しもにとっても他国。
そうそう武力行使をする訳にはいかない。
町長さんも、三国から言い寄られて困っている。
ここは助け舟を出した方が良いでは? とアドルさんを見ると、任せろと頷いた。
「待て。ここはラメゼリア王国内だ。そう勝手に動かれては困る。何かあった時の責任は、私たちが取る事になるのだから。よって、盗賊討伐には私たちが赴く」
いや、そういう事じゃない。
その上、三国からは「横暴だ! ずるいぞ!」と非難の声が上がる。
更に圧力が増し、町長さんも更に困惑。
助けを求めるように……俺を見た。
……なんでそこで俺?
俺を見れば助かるとでも直感が働いたのだろうか?
実際、そうなった。
「軍事国ネスで」
「獣人国で」
「魔族の国で」
「私たちで」
どうしてそこで俺に来るの?
俺に決定権はないと思うんだけど……町長さんがお願いしますと拝み出した。
いや、俺は一般人で、あなたは町長だと思うんですけど?
立場的に、地位的に、町長の方が上だと思うんですけど?
ただ、わかる事はある。
このままでは、事態の収取がつかないという事だ。
でも、俺はその答えを知っている人……スキルを知っている。
どうすれば良いの? セミナスさん。
⦅ふふふ……餌に群がる小鳥のようですね。さぁ、餌が欲しければ、もっと囀りなさい⦆
変なスイッチが入っているようだ。
しかし、俺はこれまでの経験から、結論を導き出す。
セミナスさんが、あれしろ、こうしろ、と言わないという事は、これは正しい流れ。
ここからどうなるんだろうと思っていると、乱入者が現れる。
「何やら求められている予感!」
最強の槍使い、カノートさんが居た。
「ふむ。先を見越してドワーフの国からラメゼリア王国の王都に戻り、アキミチたちを迎えに来たのだが……良い時に来たようだ」
この世界の人たちの勘は侮れない。
事情を簡単に教え、カノートさんが出した結論は……早い者勝ちだった。
セミナスさんが盗賊の根城の正確な位置を教え、ついでとばかりに人数も。
それ以上は余計な情報だと言っていたが……皆、それで充分らしい。
盗賊の根城に対して、軍事国ネス、獣人国、魔族の国、エイトたちとアドルさんたちにカノートさんを加えた、四つに分かれて四方から襲いかかる。
結果は、言うまでもない。
寧ろ、相手が可哀想なくらいだ。
俺の感想としては、どう考えても過剰戦力。
本当に、あっという間に終わった。
『……物足りない』
参加した人たちの感想はそれだけだった。
まぁ、人数が人数だし、戦力が戦力だしね。
でも今は、町を救った事を喜ぼうよ。
物足りないって感想に、町長さんがどういう表情を浮かべたら良いのか困っているから。
そのまま町で一泊してから、王都に向かって出発した。




