感謝
アドルさんたち、竜たちと共に、エルフの森に残る事になった。
というのも、セミナスさんが、数日間はここに居て下さいと言うのだ。
その数日間で何があるんだろう?
とりあえず居るのは良いんだけど、問題は食住である。
……問題なかった。
エルフの人たちが受け入れてくれたのである。
何でも、アドルさんたちの知り合いだと思われる優男風の青年エルフ、「ラクロ」さんは、この森の中にいくつもあるエルフの村を束ねる「大村長」という役職に就いているそうだ。
国でいうなら、国王。
とりあえず、ははぁ~! と一回跪いておいた。
そのラクロさんの一言で、受け入れ決定である。
持つべきは人脈だね。
という事で、今居る場所はエルフたちの鍛錬場という事もあり、まずは近くにある村へと向かう。
「私たちの家もその村にあるから、アキミチは私んとこな。安心しろ、旦那は先の大戦で死んじまったから、私とグロリアしか居ない。部屋は余ってるから好きに使え」
逃がさないように、肩を組んできたシャインさんからのお誘い。
微妙に触れてはいけない話題を無視しつつ、何故か気に入られたようなので、俺はアドルさんたちやラクロさんに助けを求める視線を向ける。
サッと逸らされた。
「アドルたちは私の家で休むと良い。もちろん、DD殿たちも相応の場所を提供させて頂きます」
「助かるよ、ラクロ」
「うむ。良い心掛けだ」
しかも先手を打たれた。
ちょっと、こっちと視線を合わせてくれませんかね?
このままでは不味いと、俺はお断りを入れる。
「いえ、さすがに女性しか居ない家に男性一人というのは」
「あ? 問題ねぇよ。こっちから襲う事はあっても、アキミチから襲う事はねぇだろ? それに、たとえ襲いかかってきたとしても、返り討ちにしてやるから大丈夫だ」
大丈夫な要素が一個もないと思うのは、俺だけだろうか?
というか、俺、襲われるの?
……孤立無援という事もあり、そのままシャインさん宅でお世話になる事になった。
◇
近くにあったエルフ村は、森に囲まれ、木材で出来た柵……いや、壁で守られている。
もちろん家屋も木材で作られ、一見すると田舎ののどかな村だった。
また、住民は当然エルフばかりなので、大人から子供まで美男美女ばかり。
年老いた人は、どこにも見かけなかった。
ただ、なんというか、アドルさんたちや竜たちに会った時、背に乗って飛んだ時もそうだけど、こう……異世界来たって感じでテンションが上がる。
ふん! ふん! と鼻息が荒くなった。
「何興奮して……あぁ、そんなに私を抱きたいのか?」
「ちっげぇよ! 全然違うわ!」
「私に魅力がないってか?」
「もっと大人になってから出直してこい!」
「私はもう大人だ! 一児の母だ!」
「はっ! 見えねぇよ!」
なんというか、村に着くまでの間に、シャインさんとの距離が近くなっているような気がする。
まぁ、遠慮するのも馬鹿馬鹿しくなったというか、なんというか……。
やってられないと、こそっとアドルさんたちの方に合流しようとするが、シャインさんに服を掴まれて、ずるずると引っ張られていく。
最後の希望を求めて、もう一度アドルさんたちに視線を向ける。
……少しもこちらを気にした様子が一切ない。
くそぉ……俺を生贄にしたなぁ……覚えていろよぉ~!
何かをして勝てるとは思えないが、この出来事は決して忘れない! と心に刻んだ、今日この頃。
シャインさん宅は、他のエルフの家よりも大きかった。
倍くらい。
「………………凄いでっかい家ですね」
「ふふん! そうだろう。なんといっても、私はエルフ一の強戦士だからな」
「あぁ、狂戦士。納得」
「………………」
「………………」
「お前、絶対違う事を考えていただろ!」
「いやいやいやいや、ちゃんと言葉通りの意味で考えていましたって!」
「それじゃあ、どんな意味だ?」
「狂う、ですよね?」
言った瞬間、シャインさんから拳が放たれたので、ギリギリで回避する。
「あっぶなっ!」
「……へぇ、殺さないように手加減したとはいえ、今のを避けるのか」
にやぁ~、とシャインさんが凶悪な笑みを浮かべる。
「なるほど。狂うではなく、凶悪の凶の方だったか」
食事の時間でグロリアさんが止めに来るまで、シャインさんから追われ続けた。
◇
シャインさん宅の簡素なリビングで頂く食事。
グロリアさん手製の食事は、野菜が多い。
ちなみに、ウルルさんは肉メインである。
野菜、野菜! しかも美味い!
将来を見越して、ここぞとばかりに野菜を摂取する。
バクバク食べていると、テーブルを挟んで向かい側に座る、シャインさんが声をかけてきた。
俺と同じようにバクバク食いながら。
「アキミチは、アレだな……避けるのは上手いが、攻撃は、下手くそだな」
「あぁ、それ、アドルさんたちも、言ってた……攻撃向けの、才能が、全くないって」
「確か、に、その通りだ、な」
「もう、二人共、食べながら喋らないで下さい! 行儀が悪いですよ!」
「「………………」」
グロリアさんに叱られたので、俺とシャインさんはそのまま黙々バクバクと食べ続けた。
……やっぱ、母娘逆じゃない?
そう思ったのが読まれたのか、シャインさんにギロッと睨まれた。
ご飯が喉を通らなくなるからやめて、と一応目線で抗議だけしておく。
食後。
なんと、この家にはお風呂があった!
「えぇと、どこの家にもありますよ?」
グロリアさんが苦笑しながら教えてくれた。
だって仕方なかったんやぁ~!
ここまで全て野宿生活やったんやからぁ~!
あっ、その間の汚れとかは、川があれば水浴びしたり、アドルさんが魔法で綺麗にしてくれていたので、特に問題はなかった。
でも、それはそれ、これはこれ。
ちなみに今は、シャインさんが入浴中である。
………………。
………………う~ん。さっぱり何もする気が起きない。
ここで詩夕や常水が居れば、馬鹿をやった……いや、やっぱやらないな。
お茶を飲みながら、まだかなぁ~と待っていると、洗い物を終えたグロリアさんが近くに座り、俺に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます、アキミチさん」
「え? 何が?」
「あんなにはしゃぐ母を見るのは久し振りで。それが嬉しくて」
「え? いつもああじゃないの?」
「違います。父が亡くなってから、自分に厳しく、私にも厳しくなりました。……私が戦いで命を落とさないように。まぁ、そのおかげで、私もかなり強くなりましたが」
グロリアさんが恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
……なるほど。つまり、俺よりグロリアさんの方が強いのは、まず間違いないという事だな。
その事に少々戦慄している間に、グロリアさんは思い返すように遠くに視線を向ける。
「……でも、母の笑顔を見る機会は減りました。それが少し寂しくて。……そんな母を元に戻してくれたのが、アキミチさんです」
「ええっ! いやいや、俺は特に何もしてないよ? 遠慮しない態度だし」
「ふふっ。それで良いんですよ」
「え? どゆ事?」
「外見は全然違うんですけど、口調とか雰囲気が、どこか父に似ているんです。それに、初対面で名前を弄るくだりは、母から聞いた父と出会った時の話と遜色ありませんよ」
そうだったのか。
俺も遠慮はしなくなったし、だから距離が近付いたという訳か。
まぁ、喜んでいるのなら、このまま自分らしくでいこう。
そう思っていると、グロリアさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見る。
「ふふ。アキミチさんじゃなく、パパって呼びましょうか?」
「勘弁して下さい」
やっぱりシャインさんの娘だと思った。
そのままグロリアさんと話していると、シャインさんがお風呂から出て来る。
「あ~、さっぱりした。ふっふ~ん、どうだ? 湯上りの私は魅力的だろう?」
「はっはっはっ! もっと成長してからそういう事を言え」
再び追い回された。
汗を流すからと、もう一度シャインさんがお風呂に入り、俺がお風呂に入る事が出来たのは、夜遅くになった。




