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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第二章 竜とエルフ
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感謝

 アドルさんたち、竜たちと共に、エルフの森に残る事になった。

 というのも、セミナスさんが、数日間はここに居て下さいと言うのだ。

 その数日間で何があるんだろう?

 とりあえず居るのは良いんだけど、問題は食住である。


 ……問題なかった。


 エルフの人たちが受け入れてくれたのである。

 何でも、アドルさんたちの知り合いだと思われる優男風の青年エルフ、「ラクロ」さんは、この森の中にいくつもあるエルフの村を束ねる「大村長」という役職に就いているそうだ。

 国でいうなら、国王。


 とりあえず、ははぁ~! と一回跪いておいた。

 そのラクロさんの一言で、受け入れ決定である。

 持つべきは人脈だね。


 という事で、今居る場所はエルフたちの鍛錬場という事もあり、まずは近くにある村へと向かう。


「私たちの家もその村にあるから、アキミチは私んとこな。安心しろ、旦那は先の大戦で死んじまったから、私とグロリアしか居ない。部屋は余ってるから好きに使え」


 逃がさないように、肩を組んできたシャインさんからのお誘い。

 微妙に触れてはいけない話題を無視しつつ、何故か気に入られたようなので、俺はアドルさんたちやラクロさんに助けを求める視線を向ける。


 サッと逸らされた。


「アドルたちは私の家で休むと良い。もちろん、DD殿たちも相応の場所を提供させて頂きます」

「助かるよ、ラクロ」

「うむ。良い心掛けだ」


 しかも先手を打たれた。

 ちょっと、こっちと視線を合わせてくれませんかね?

 このままでは不味いと、俺はお断りを入れる。


「いえ、さすがに女性しか居ない家に男性一人というのは」

「あ? 問題ねぇよ。こっちから襲う事はあっても、アキミチから襲う事はねぇだろ? それに、たとえ襲いかかってきたとしても、返り討ちにしてやるから大丈夫だ」


 大丈夫な要素が一個もないと思うのは、俺だけだろうか?

 というか、俺、襲われるの?


 ……孤立無援という事もあり、そのままシャインさん宅でお世話になる事になった。


     ◇


 近くにあったエルフ村は、森に囲まれ、木材で出来た柵……いや、壁で守られている。

 もちろん家屋も木材で作られ、一見すると田舎ののどかな村だった。

 また、住民は当然エルフばかりなので、大人から子供まで美男美女ばかり。

 年老いた人は、どこにも見かけなかった。


 ただ、なんというか、アドルさんたちや竜たちに会った時、背に乗って飛んだ時もそうだけど、こう……異世界来たって感じでテンションが上がる。

 ふん! ふん! と鼻息が荒くなった。


「何興奮して……あぁ、そんなに私を抱きたいのか?」

「ちっげぇよ! 全然違うわ!」

「私に魅力がないってか?」

「もっと大人になってから出直してこい!」

「私はもう大人だ! 一児の母だ!」

「はっ! 見えねぇよ!」


 なんというか、村に着くまでの間に、シャインさんとの距離が近くなっているような気がする。

 まぁ、遠慮するのも馬鹿馬鹿しくなったというか、なんというか……。


 やってられないと、こそっとアドルさんたちの方に合流しようとするが、シャインさんに服を掴まれて、ずるずると引っ張られていく。

 最後の希望を求めて、もう一度アドルさんたちに視線を向ける。


 ……少しもこちらを気にした様子が一切ない。


 くそぉ……俺を生贄にしたなぁ……覚えていろよぉ~!

 何かをして勝てるとは思えないが、この出来事は決して忘れない! と心に刻んだ、今日この頃。

 シャインさん宅は、他のエルフの家よりも大きかった。

 倍くらい。


「………………凄いでっかい家ですね」

「ふふん! そうだろう。なんといっても、私はエルフ一の強戦士だからな」

「あぁ、狂戦士。納得」

「………………」

「………………」

「お前、絶対違う事を考えていただろ!」

「いやいやいやいや、ちゃんと言葉通りの意味で考えていましたって!」

「それじゃあ、どんな意味だ?」

「狂う、ですよね?」


 言った瞬間、シャインさんから拳が放たれたので、ギリギリで回避する。


「あっぶなっ!」

「……へぇ、殺さないように手加減したとはいえ、今のを避けるのか」


 にやぁ~、とシャインさんが凶悪な笑みを浮かべる。


「なるほど。狂うではなく、凶悪の凶の方だったか」


 食事の時間でグロリアさんが止めに来るまで、シャインさんから追われ続けた。


     ◇


 シャインさん宅の簡素なリビングで頂く食事。

 グロリアさん手製の食事は、野菜が多い。

 ちなみに、ウルルさんは肉メインである。

 野菜、野菜! しかも美味い!

 将来を見越して、ここぞとばかりに野菜を摂取する。

 バクバク食べていると、テーブルを挟んで向かい側に座る、シャインさんが声をかけてきた。

 俺と同じようにバクバク食いながら。


「アキミチは、アレだな……避けるのは上手いが、攻撃は、下手くそだな」

「あぁ、それ、アドルさんたちも、言ってた……攻撃向けの、才能が、全くないって」

「確か、に、その通りだ、な」

「もう、二人共、食べながら喋らないで下さい! 行儀が悪いですよ!」

「「………………」」


 グロリアさんに叱られたので、俺とシャインさんはそのまま黙々バクバクと食べ続けた。

 ……やっぱ、母娘逆じゃない?

 そう思ったのが読まれたのか、シャインさんにギロッと睨まれた。

 ご飯が喉を通らなくなるからやめて、と一応目線で抗議だけしておく。


 食後。

 なんと、この家にはお風呂があった!


「えぇと、どこの家にもありますよ?」


 グロリアさんが苦笑しながら教えてくれた。

 だって仕方なかったんやぁ~!

 ここまで全て野宿生活やったんやからぁ~!


 あっ、その間の汚れとかは、川があれば水浴びしたり、アドルさんが魔法で綺麗にしてくれていたので、特に問題はなかった。

 でも、それはそれ、これはこれ。


 ちなみに今は、シャインさんが入浴中である。

 ………………。

 ………………う~ん。さっぱり何もする気が起きない。

 ここで詩夕や常水が居れば、馬鹿をやった……いや、やっぱやらないな。


 お茶を飲みながら、まだかなぁ~と待っていると、洗い物を終えたグロリアさんが近くに座り、俺に向かって頭を下げた。


「ありがとうございます、アキミチさん」

「え? 何が?」

「あんなにはしゃぐ母を見るのは久し振りで。それが嬉しくて」

「え? いつもああじゃないの?」

「違います。父が亡くなってから、自分に厳しく、私にも厳しくなりました。……私が戦いで命を落とさないように。まぁ、そのおかげで、私もかなり強くなりましたが」


 グロリアさんが恥ずかしそうに笑みを浮かべる。

 ……なるほど。つまり、俺よりグロリアさんの方が強いのは、まず間違いないという事だな。

 その事に少々戦慄している間に、グロリアさんは思い返すように遠くに視線を向ける。


「……でも、母の笑顔を見る機会は減りました。それが少し寂しくて。……そんな母を元に戻してくれたのが、アキミチさんです」

「ええっ! いやいや、俺は特に何もしてないよ? 遠慮しない態度だし」

「ふふっ。それで良いんですよ」

「え? どゆ事?」

「外見は全然違うんですけど、口調とか雰囲気が、どこか父に似ているんです。それに、初対面で名前を弄るくだりは、母から聞いた父と出会った時の話と遜色ありませんよ」


 そうだったのか。

 俺も遠慮はしなくなったし、だから距離が近付いたという訳か。

 まぁ、喜んでいるのなら、このまま自分らしくでいこう。

 そう思っていると、グロリアさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見る。


「ふふ。アキミチさんじゃなく、パパって呼びましょうか?」

「勘弁して下さい」


 やっぱりシャインさんの娘だと思った。


 そのままグロリアさんと話していると、シャインさんがお風呂から出て来る。


「あ~、さっぱりした。ふっふ~ん、どうだ? 湯上りの私は魅力的だろう?」

「はっはっはっ! もっと成長してからそういう事を言え」


 再び追い回された。


 汗を流すからと、もう一度シャインさんがお風呂に入り、俺がお風呂に入る事が出来たのは、夜遅くになった。

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