別章 軍事国ネス軍 対 大魔王軍 4
戦場となった平原の至るところで、戦いが繰り広げられている。
大型の魔物に対して大人数であたる騎士や兵士たち、飛び交う指示に、やられそうな騎士や兵士を守る神々など、軍事国ネス軍側の動ける人員の総戦力で、大魔王軍にあたっていた。
そんな中、他の魔物とは一線を画した魔物。
力や存在感が他とは違う個体と、数名が対して戦っている。
その中の一つ、リッチと魔法合戦を行っていたエイトは、つまらなそうに息を吐く。
「……その吐息。気に食わんな」
エイトが放つ魔法を、障壁で防いだリッチの雰囲気が変わる。
自分を侮るような行動に対する怒りだ。
エイトはなんでもないように答える。
「それは仕方ありません。あなたでは、エイトの敵とはならないとわかりましたので」
「ほぅ。敵ではない、と? 随分と大きく出たな。はて? ワシは未だ一発も食らっていないが、随分な自信じゃの。ワシはまだ攻勢に出ておらんだけなのに」
「勘違いな自信をしているのは、そちらの方です」
「面白い事を言う娘じゃ。そういう事は、ワシの障壁を破ってから言うが良い」
「では、そうします」
エイトの中で爆発的に魔力が高まっていく。
確かに、エイトたち神造生命体は「対大魔王軍」用に造られ、相手が大勢、超広範囲魔法を得意としている。
だからといって、対個人に向いていない、苦手という訳ではないのだ。
魔力が高まるのを感じながら、エイトは唱える。
「『魔力を糧に 我願うは 混ぜ合わされる螺旋 土 風 風土弾』」
魔法が発動。
放たれる土塊が風の力で螺旋を描くように動いて速度を増す。
リッチが障壁を展開するが、いくつかが貫通して、リッチの頬をかすめる。
「……ほぅ。なるほど。確かに、二属性同時使用による掛け合わせなら威力も申し分ない。ワシの障壁を貫通するのも頷ける。だが、これならどうかな?」
リッチが指をパチンと鳴らす。
すると、展開していた障壁が五枚並び、多重障壁となる。
だが、エイトの表情は変わらない。
「問題ありません。そもそも、あなたは敵ではなく、障害でもありません。『魔力を糧に 我願うは 混ぜ合わされる十字 光 光 断罪十字』」
エイトがリッチに向けて手のひらをかざす。
巨大魔法陣が出現し、そこから光り輝く光線が放射され、多重障壁を消し去り、そのままリッチを焼き始める。
「ぬうう……馬鹿なっ! なんだこの馬鹿げた魔力量は! だが、これでワシをやれるとで」
エイトがかざしていない方の手を横薙ぎに振るう。
リッチの右方に巨大魔法陣が出現。
そこから同じく光り輝く光線が放射され、リッチを焼く。
「ぐっ……ふ、ふざけ」
上から見れば十字に交差している中心で、リッチはそのまま焼き消える。
また、十字光線の軌道上に居た魔物も、同じように焼き消えていた。
「エイトの魔法は、ご主人様への愛があればこそ」
誰に言う訳でもなく、エイトはそう呟く。
もしここに明道が居れば、「いや、魔法なんだから、普通に魔力があればこそ、でしょ」と言っていただろう。
エイトはそのまま近くには居る魔物の掃討に向かった。
別の場所では、ワンとミスリルゴーレムが戦っている。
ミスリルゴーレムの攻撃をかわしつつ、ワンが殴るという展開が続いていた。
しかし、どちらもまだ傷一つ付いていない。
「いやぁ~、考えていた以上に硬い硬い」
「ギ、ギ」
けれど、ワンに焦った様子は見えず、笑みを浮かべたまま。
普通であれば、その笑みからなんらかの策があるのではないか? と警戒するようなモノだが、ミスリルゴーレムからそういった部分は見えなかった。
いや、勘定があるかどうかすらわからない。
敵を倒すためだけに動いているようにしか見えなかった。
「ガ、ゴ」
ミスリルゴーレムの拳が、ワンに向かって振り下ろされる。
「さんざん殴っといてなんだが、あと一発殴らせてもらうぜ!」
迫るミスリルゴーレムの拳を、ワンが真正面から殴る。
ワンの小さな拳と、ミスリルゴーレムの大きな拳がぶつかり合い、そこを起点とした衝撃波が周囲に飛ぶ。
砕けたのは、ミスリルゴーレムの拳の方だった。
ビシリとヒビが走ったかと思えば、ヒビは一気に大きく広がり、ミスリルゴーレムの肘部分くらいまで一気に砕ける。
その影響で、ミスリルゴーレムは大きくバランスを崩した。
「ガ、ゲ」
「しっ! 勝ったのはあたいだな! これで満足だ。あとは、一気に終わらせてやっから、そのまま逝きな」
そう言って浮かべたワンの笑みは、相手の健闘を称えるようなモノだった。
「『魔力を糧に 我願うは 万物を焼き尽くす浄化 天昇炎柱』」
ワンの魔法が発動。
ミスリルゴーレムの足元に巨大な魔法陣が出現し、魔法陣と同じ幅の炎の柱が空に向かって伸びていく。
炎々と燃え盛り、内部にあるモノを焼き尽くした。
時間にして数秒。
炎の柱が消え、魔法陣が消えると、そこにあったのはドロドロに溶けた金属だけが残っていた。
「意思があったかなんてわからんけど、もし次があるのなら、良いヤツに造ってもらいな。少なくとも、あたいたちを造った神々以外のヤツに」
ワンはそれだけ言い残して、他の魔物を倒しに向かう。
更に別の場所では、ツゥと翼の生えたライオンによる、魔法の相殺戦が行われていた。
ツゥの放つ水弾を、翼の生えたライオンは火弾で相殺し、反撃のように翼の生えたライオンが火弾を放つと、ツゥが水弾で相殺していく。
「このままでは無為に時間が過ぎるだけですね。アキミチ様が来る前に、ある程度掃討しておかないといけませんし、そろそろ終わらせましょうか」
「そうだな。では、そろそろ決しよう。だが、その前に、正直に言ったらどうだ?」
「……何を、でしょうか?」
「我を倒す術がなく、時間を稼ぐ事しか出来ない己の無力さを証明したくない、とな」
「笑えない冗談ですね」
「認めたくないというのなら、それでも構わんが……安心しろ。ここで貴様を殺し、如何に無力であったかを、そのアキミチとやらを弄りながら伝えてやろう」
ツゥの放つ雰囲気が一気に変わる。
白ではなく、黒の方に。
「アキミチ様にまで手を出そうとするとは……調子に乗って囀り過ぎましたね。たかが猫の分際で」
剣呑な雰囲気を放つツゥが、翼の生えたライオンに向けて手をかざす。
「『魔力を糧に 我願うは 言葉を発せず息も吐けず 水内没』」
ツゥの魔法が発動。
しかし、何も起こらず、翼の生えたライオンは首を傾げ、口を開こうとした時に気付く。
自分の口から水が滴り落ちている事に。
水を振り払うがその量は次第に増えていき、ついには口の中に溢れ続けて呼吸も出来なくなる。
「ごぼっ……がぼっ……」
何かを言おうと、口の中から水を吐き出そうと、翼の生えたライオンは口を大きく開くが、溢れる水はとまらない。
溢れる水は口だけではなく、鼻からも、目や耳からも出始め……最終的には、呼吸が出来なくなった翼の生えたライオンは何も出来ずにそのまま命を落とした。
死因は、溺死。
「余計な事を囀らなければ、あのまま魔法を相殺し続けていれば……もっと長く生きていられたのに。それがわからなかったようですね」
既に興味をなくしたと、ツゥは踵を返して、他の魔物の掃討に向かう。
もう一つ、別の場所では、シュラと鬼の魔物が、互いの棍棒をぶつけ合っていた。
「はははははっ! いいな! やるじゃないか、娘! 俺を相手によくもっている方だ!」
鬼の魔物が笑いながら、シュラに向けて何度も棍棒を振るう。
その攻撃の全てを受けとめて、シュラも同じように笑みを浮かべる。
「そちらもよくやるっ! 存分に力を振るっても問題なさそうだな!」
「はははっ! 振るえる力があるのなら、振るってみろよ! どこまで俺についてこれるか見てやるよ!」
鬼の魔物の振るう棍棒の威力と速度が上がり、手数が一気に増えた。
シュラはその全てを捌いて押し返したが、近くで死んでいた魔物から流れた血によって地面がぬかるみ、そこに足を取られる。
当然、鬼の魔物はその隙を逃す訳もなく、棍棒を振るう。
シュラも反応して防ぐ、完全に勢いを殺す事は出来ずに棍棒が弾け飛ぶ。
「あっけない終わりだったなぁ!」
勝利を確信した鬼の魔物が棍棒をシュラの頭上に振り下ろす。
だが、シュラはその棍棒を片手で受けとめた。
「なっ! ……ふぐぐ」
受けとめられた事には驚いたが、そのまま押し切ってしまえば良いと、鬼の魔物が棍棒を振り下ろそうとするが僅かも動かない。
「本当に、あっけない終わりだ」
そう呟いて、シュラは掴んでいた棍棒をそのまま握り締めて粉砕。
空いている方の手を握り締める。
「馬鹿なぁ!」
目の前で起こった事が信じられないと叫ぶ鬼の魔物に向けて、シュラは何度も殴打を浴びせ、そのまま殴り殺す。
鬼の魔物が死んだ事を確認すると、シュラは飛ばされた自分の棍棒を拾って肩に担ぐ。
「楽しんだどうかは知らんが、少なくとも私は全く楽しくなかったな」
それだけ呟いて、シュラは次の魔物に向けて突撃しに行く。
そうして各所で戦いが繰り広げられていた時、森から二人の人物が飛び出してきた。
一人は、明道。
一人は、緑色の髪の男性。
緑色の髪の男性が、明道のあとを追うような形で。




