無茶振りじゃないかな?
「シャイン」と呼ばれていた女性エルフの迫力に屈して、ここまでの事を簡潔に述べる。
口止めされてないし、特に隠す必要はないと思うけど、一応自分の事だけにしておいた。
正直、最初は言っても良いのだろうか? と思ったのだが、アドルさんが「ラクロ」と呼んでいる男性エルフに事情説明をしていたので、言っても特に問題はないみたい。
まぁ、そもそも竜たちにも言った事なので、今更だけど。
ただし、セミナスさんから、自分の事を今は伏せておくようにとお達しがあったので、スキルに関しては言わないでおいた。
……これで良いのだろうか?
聞き終えた女性エルフが満足そうな笑みを浮かべ、拳を強く握る。
あれ? もしかして殴られんのかな?
「『我が拳から放たれるは一筋の光 我が拳から放たれる暴威は逃れる事叶わず』」
え? 何々? どしたの急に?
変な言葉を言い出して怖いんですけど。
「『武技の三 天咆』!」
そう言って、拳を地面に打ち付けた。
咄嗟に顔の前で腕を組んだ自分が恥ずかしい。
……何事もなかったかのように腕を下ろす。
………………。
………………あれ? というか、何も起こらない?
と思った瞬間、少し離れた森の中から、一筋の光が空に向かって飛び立っていく。
「本当に武技が解放されてるな」
そう言う女性エルフは、楽しそうに笑う。
もうそれだけでわかる。
というか、わかっていた。
この女性は、戦う事が大好きなのだと。
本能が関わってはいけないと警告してくる。
でも、言わずにはいられない。
いや、もう今更だから、下手に取り繕うのはやめた。
「あっぶな! というか、こわっ! 何の説明もなく、いきなり行動するなんて脳筋ですか? 脳筋なんですね」
「私を前にして、中々愉快な事を言うじゃないか? んん?」
「いやいや、私を前にしてとか言われても、誰か知らないし! さっき言ったけど、俺、異世界出身なんで、誰が誰とか知らんし!」
「………………確かにそうだな」
脳筋女性エルフが、確かにと頷く。
ただ、どことなく笑みが浮かんでいるような……でも、チャンス!
言いたい事は言ったので、逃走を選択する。
そぉ~っと………………ん、んん? あれ?
なんか体が動かないぞ。それに肩に違和感が……。
チラッと確認すると、肩が掴まれている。
何に? 誰に?
もちろん、女性エルフに。
逃げようとしたけど、逃げられなかった。
「まぁ、私の事はあとでたっぷりと体を使って教えてやるさ」
ポッ……そんな過激な。
でもそれは多分、くんずほぐれつ的な意味じゃないですよね。
一戦やろうぜ! 的な事ですよね。
「それよりも、お前が私の力を取り戻してくれるって事だよな?」
「え? ……あぁ、神様を解放するってそういう事になるのか。いやでも、あなただけじゃなくて皆の力ですけど」
「同じ事だろ?」
「……まぁ、結果としてはそうですけど」
「よし。なら、特別に私の事を『シャイン』と呼ぶ事を許してやる」
「いえ、結構です」
即、お断りの言葉を告げる。
ふ~、危ない危ない。
ここでそれを受諾すると、なし崩し的に関わる事になりそうだ。
だから、これできっと大丈夫。
「あぁ?」
「はい。もちろん呼ばせて頂きます。シャインさん。いやぁ~、光栄だなぁ~」
迫力に屈した。
だって怖いんだもん。
怖い顔から一転、ニコニコと笑顔になる女性エルフ――シャインさん。
危ない危ない。こっちが正解だったか。
危うく選択肢を間違えるところだった。
⦅……正解かどうかはわかりませんが⦆
それは言わない約束だと思う。
……ん? んん? あれ?
セミナスさんでも言葉を濁す事があるんだ?
⦅未来は流動していますので、小さな波紋がのちに大きな津波となる可能性もあるのです⦆
……つまり、大きな津波になる可能性が?
⦅ゼロではないとしか、今は言えません。申し訳ございません。それしか能のない予言の神であれば可能でしょうが、現在の私の力ではそこまで先の未来は見えませんので⦆
セミナスさんが気にする事はないよ。
ただ、ゼロである事を祈っておこう。
というか、なんかセミナスさんの中で、予言の神様の扱いが悪いような気がするんだけど?
「……一人で驚いたり、祈り出したり、どうした? 何か悪いモノでも食ったのか?」
「いえ、気にしないで下さい」
とりあえず、セミナスさんと話している間は、ジッとしていられるように頑張ろう。
無意識だから、どうしようもない気がするけど。
そして、そのままもう一人の女性エルフ――シャインさんの娘である「グロリア」さんをきちんと紹介される。
ほんと、見た目は逆にしか見えない。
「すみません。お母様はこういう人なので、色々とご迷惑をかけるかもしれませんが……」
ぺこぺこと謝られる。
いや、まだ何も起こっていないのに、そう謝られると………………先行きが不安しかなかった。
そのままシャインさんとグロリアさんは、アドルさん達と挨拶を交わしに行く。
どうやら知り合いのようだ………………けど、アドルさんの笑顔が引き攣っているように見えるのは、きっと気のせいだと思う。
きっと、過去に何もなかったはずだ。
あっても良い思い出のはず。
⦅そう思う事で、いざという時……いえ、積極的に巻き込ませようと画策していますね⦆
言い当てるのはやめ……いえ、何の事かさっぱりわかりません。
セミナスさんに証拠を掴ませないために奮闘していると、DDを先頭に竜たちが俺のところに来た。
「ではな、アキミチよ」
「あれ? もう行っちゃうんですか?」
「うむ。一刻でも早くシユウとツネミズを見つけねばならない」
DDの言葉に、竜たちもうんうんと頷いている。
ダンスに捧げる情熱が凄まじいな。
折角出会って仲良くなったのに、もう居なくなってしまうのは少し寂しいけど、これが親友たちの助けになるかもしれないのなら、それも仕方ないだろう。
………………ジースくんだけでも置いていって欲しい。
でも、さすがに次期エースだけ別行動させる訳にはいかないので、俺は一礼して笑みを浮かべる。
「DDやジースくん、竜の皆さんのおかげで楽しかったです」
「うむ。こちらも良いダンスが出来た」
「アキミチ、またな!」
「「「「またな~!」」」」
「はい。それでは、またどこかでお会いする事があったら、その時は⦅行かせてはなりません。止めて下さい⦆行かせない!」
セミナスさんがそう言うので、DDの足にしがみついて止めてみた。
DDが困惑しながら尋ねてくる。
「ど、どうしたのだ? アキミチ。行かせないとはどういう事だ?」
「え? いや、それは……どういう事でしょう?」
それは俺も知りたい。
どういう事? セミナスさん。
⦅今は竜たちがここを離れるタイミングではありません。どうにか引き止めて下さい⦆
………………え? 引き止めるの?
そう聞いて思い出されるのは、DDとシャインさんがいがみ合っている光景。
………………。
………………どう考えても険悪な雰囲気なんですけど!
それに今はこうして止めてみたけど、このあとどうやって引き止めれば良いの!
⦅流れのまま、マスターにお任せするのが吉と出ました⦆
丸投げされたっ!
というか、それ占い!
これはどうすれば……と悩み出す前に、DDが嬉しそうな笑みを浮かべる。
「なるほど。わかったぞ、アキミチ。もう一度ダンスが見たいのだな?」
……いや、それは別に。
と思った時、閃く。
「それだ!」
「そうだろう、そうだろう」
「いや、そうじゃなくて」
「ん? 違うのか?」
DDがキレそうになったので、慌てて否定する。
「違わないけど違うというか、良い事を思い付いた!」
「ほぅ、どんな事だ?」
「興行です!」
「……コウギョウ?」
「詳しい事は省いて凄く簡単に言えば、ここでダンスをすれば、エルフ達の間にもその文化が生まれるかもしれないという事です!」
「……同志が出来るのは喜ばしいが、今は新しいダンスの方に」
「それにも関係あります! 文化が生まれるという事は、そこから新しい何かが生まれる可能性も秘めているんです! だから、詩夕や常水、俺達の世界にない新しいダンスが生まれ」
「それは良い! うむうむ。つまり、私がこの世界でのダンスの伝道竜になるという訳だな」
DDが満足そうに何度も頷く。
可能性の話って理解しているかは怪しいけど……まぁ良いか。
こうして、竜たちも残る事になった。




