それはつまり、何も起きていないという事と同義
「ほら、なんて言うの? こっちは偶に現れるだけだからさ。覚えてもらうのに必死になっちゃうんだよね。だからこう、自然とインパクトを求めちゃうというかさ」
「記録ではなく、記憶に刻もうとした訳ですね?」
「そうそう。そんな感じ」
「カップが空ですね。新しく淹れておきます」
「あっ、どうも。ありがとう」
武技の神様とエイトが、傍から見ると楽しくお茶会をしている。
会話の内容は、何やらちょっと寂しくなるけど。
そんな事はない、と言ってあげたくなる。
「実際のところ、血の雨って降らせられんの?」
「もちろん出来ますよ。こう……ズバッと斬れば」
「そいつはすげえな! あたいも見てみたい!」
「う~ん。槍では難しそうかな?」
「そんな事はありません! 穂先をこう……」
槍の神様と刀の女神様の会話に、ワンも楽しそうに交ざっている。
とりあえず、ワンに変な事を教えないで欲しい。
「相変わらず無駄に筋肉を付けよって。そろそろ武具の一つでも身に付けたらどうだ?」
「いいや、問題ない! 全てこの鍛え上げた鋼の筋肉で受け止めてみせる!」
「そういうタイプだろうよ、お前は」
「ところで鍛冶の神よ。鍛冶仕事をしているだけあって、中々良い筋肉だな」
「……やめろ。同志を見るような目でワシを見るな」
呆れた様子の鍛冶の神様と、ポージングを取り続ける身体の神様の珍しい組み合わせ。
筋肉繋がり……と思わない方がよさそうだ。
鍛冶の神様。本気で嫌そうな表情を浮かべているし。
「……ふむ。今はこういう系統が流行りなのか?」
「………………」
「………………」
商売の神様は本棚から「役立つ経営学 駆け出し商人から王様まで」というタイトルの本を読んで唸り、弓の女神様は「友達作りの参考書 あの子と更に仲良くなるために編」という、そこはかとなく闇を感じさせるタイトルの本を熱心に読み、ツゥは「偏屈魔術師の推理譚 二。武器屋凶器消失殺人事件」を黙々と読んでいる。
……うん。経営学とか参考書は興味ないけど、推理譚は俺も読みたい。
というか、エイトならまだしも、ツゥがそれを読むの?
それに、もう二巻なの? え? 一巻はもう読み終えた?
……面白かったのかな?
………………。
………………。
室内の状況を見て、とりあえず一言だけ言いたい。
自由かっ!
実際に叫ぶ訳にはいかないので、心の中だけで叫ぶ。
誰しもが自由に過ごしているのには理由がある。
それは、ソファーに座っているガラナさんが、固まったまま戻って来ていないのだ。
これでは話が進まないので、今はガラナさん待ちである。
かくいう俺もこの時間を利用して、セミナスさんと今後の打ち合わせをしているので、エイトたちや神様たちに強く言えない。
⦅……で……が……こうなって……こうなりますので……⦆
ふむふむ。
それだと確かに、神様という規格外が居た方がやりやすくなるかな。
「……はっ!」
ガラナさんから反応が!
「全員集」
合――と言い切る前に、エイトたちと神様たちは元の位置に戻り、神様たちはポーズも取って、てちょっと待って!
商売の神様! 手! 手! 本を戻して!
本を指差すと、気付いた商売の神様の姿が一瞬だけブレ、持っていた本が消える。
バッ! と本棚に視線を向ければ、本は無事に戻って……ない!
逆! 逆! 上下逆で収まっているよ!
目線を本棚から商売の神様、商売の神様から本棚、と何度か続けたところで商売の神様が気付き、再び姿がブレたかと思ったら、正しく収められていた。
今の一瞬で……さすがは神様、という事か。
しかし、これでセーフ。
俺たちが思い思いに過ごしていた事に、ガラナさんは気付かないだろう。
「……えぇと、我は」
目覚めたガラナさんが、室内の様子を窺う。
というよりは、神様たちを見ていく。
「あぁ……夢や幻ではないのだな……」
まだ現実に戻って来ていないのかもしれない。
「だが、こうして解放された神たちの姿を見れば、アキミチを信じてみようという気にもなる」
うん。そう思ってくれるのは嬉しいけど、その前に神様たちのポーズに突っ込んで欲しい。
多分、俺が言っても無意味だし、神様たちがポーズを取り続けているのは、それ待ちだと思うから。
でもガラナさんにその様子が見えないので、既に許容量は一杯なのかもしれない。
……あっ。武技の神様とか商売の神様が、プルプル震え出している。
体力の……は違うっぽいから、羞恥心の限界なのかもしれない。
もうポーズ取らなくても大丈夫ですよ? と武技の神様と商売の神様に向けて優しい笑みを浮かべる。
はぁ~……と、全員がポーズを解き、思い思いに手をブラブラさせたり、足首を軽く捻ったりし出した。
全員かいっ!
「それで、我はどうすれば良いのだ? 協力を求めてきたという事は、何かしらの策があるのだろう?」
ガラナさんからの問いに頷きを返す。
セミナスさんの策を、ガラナさんだけではなく、エイトたちと神様たちにも伝えていく。
―――
ガラナさんの協力を得て、神様たちをこき使い、諸々の準備を始めてから数時間後。
俺とエイトたちは謁見の間の壇上に立ち、ガラナさんは玉座に腰を下ろしている。
階下、いくつもの大きな柱と紋章付きの大きな垂れ幕をメインに飾られた広大な場には、この王城に勤める執事やメイド、騎士や料理人などの一部の人たちが集められていた。
ここに居ない人たちの中には、カリーナさんやシュラさん、クルジュさんも含まれているが、未だ説教中なのでここには居ない。
急に集められた事にザワザワしている人たちに向けて、俺が宣言するように大きな声で言う。
「静粛に! 静粛に!」
……全然静かにならない。
ザワザワしっ放し。……むぅ。
パン! パン! と注目を集めるように手を叩くが無視される。
「……静かに」
『………………』
決して大きな声で言った訳でもないのに、ガラナさんのその一声でピタリと静かになる。
……おぉ。これが女王か。
ガラナさんが視線だけで、話を進めろと俺に促してくる。
それもそうだ。
こほん、と一つ咳払いして、集められた人たちに向けて言う。
ここでガラナさんを「さん」付けするのは不味いので、「様」付けを意識して――。
「さて皆さん。急に集められて困惑しているようですが、残念なお知らせをしないといけません。……皆さんの中に、この国の女王であるガラナ様の意向に反する行いをする者たちが居ます」
ババーン! と宣言してやった。




