別章 詩夕たちと新たな神たち
この章では、今話だけです。
時は少しだけ遡る。
EB同盟再強化に向け、エルフの協力を得た詩夕一行が次に向かうのは、下大陸南東部にあるドワーフの国。
そこに向けて馬車を走らせる。
といっても、走り続けていられる訳もなく、人も馬も休憩を取らないといけない。
時折町にも寄り、足りなくなった物を買い足しつつ、充分に休息を取ってから進んでいた。
そうしてドワーフの国に向けて進んでいたある日の事。
小さな湖の畔で休んでいた時、そこに現れたのは槍の神と弓の女神だけではなく、他に髭もじゃの小さなおっさん、職人のような恰好のモグラ、刀を携えた黒髪女性の姿もあった。
「やぁやぁ、ツネミズを鍛えに来たよ、と言いたいけれど、まずはその前に彼らの紹介をしまーす!」
パチパチと自ら拍手する槍の神。
そんな槍の神を、共に来た者たちがどこか冷ややかな視線で見ている。
職人のような恰好のモグラ――職人モグラだけは、外が珍しいのか鼻をひくひくさせていた。
「はーい、集まってー!」
そんな視線など気にしないとばかりに、槍の神は詩夕たちを呼ぶ。
なんだろうか、と詩夕たちは槍の神たちが居るところに向かい、フィライアたちも同じように向かった。
一足前に辿り着いたシャインが、槍の神に文句を言う。
「休憩時間の無駄だから、さっさと紹介しろ」
「焦らない、焦らない。駄目だよ、シャイン。こういうのは、皆がちゃんと揃ってからじゃないと、二度手間になっちゃうからさ」
それまでは言いません、と槍の神は両人差し指をクロスさせ、バツ印を作って見せる。
シャインはもの凄く殴りたくなった。
なので殴ろうとしたが、その前に辿り着いた樹とグロリアによってとめられる。
そうこうしている内に、この場に居る者たちが全員揃ったので、槍の神は口を開く。
「揃ったようだねー! それじゃ、まずはこちら! 鍛冶の神とその弟子であるモグラくん。あっ、モグラくんは魔物だけど安全だから安心してね! アキミチの保証付き!」
明道が聞いていれば、勝手に責任を押し付けられた! と叫んでいそうな物言いであったが、それで詩夕たちが納得しているのだから問題ないだろう。
「鍛冶の神だ。依頼として、お前たちの武具を製作してやる。直ぐには出来んが、あとで色々と話を聞くからよろしく頼む。それと、こいつの正式名称は『職人モグラ』となっている。害はないし、そう呼んでくれ。ちなみに名付けはアキミチだ」
「………………」
鍛冶の神の言葉に合わせて、職人モグラがこくこくと頷く。
明道ならそう名付けそうだな、と納得する詩夕たち。
職人モグラの仕草にそれなりに愛嬌があったため、女性陣が撫でたり、握手を求めたりしていた。
女性陣が一通り堪能する姿を見たあと、うんうんと頷いていた槍の神がもう一柱を紹介する。
「それじゃ、次いでこちら。といっても、見てわかるし、特定の人物は待ち望んでいたと思うけど……確か、トウリだったかな?」
「はい」
「彼女は刀の女神。これから彼女に鍛えてもらうと良いよ」
「はい!」
刀璃が刀の女神の前に行き、よろしくお願いしますと握手を求める。
こちらこそ、と刀の女神は応じた。
「刀璃です。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
「任せて下さい。あなたを……トウリを、必ず世界一の刀使いにしてみせますので」
新たな師弟関係が構築された。
ここから更に刀璃の強さが増していくのは明白だろう。
自分も更に頑張らないと、と常水、咲穂、樹は内心で思った。
特に樹はそうだろう。
刀璃が誰よりも強くなっても、槍の神と弓の女神は何も言わないだろうが、シャインは違うだろうと樹は思っていた。
更に厳しくなるのは確定なので、樹だけは気を引き締める。
そこに、刀の女神によって爆弾が落とされた。
「ところで、アキミチによると、私たちの解放はお礼みたいなんだけど、何かそういう覚えはある?」
「………………」
刀の女神の問いに、刀璃は直ぐに返事が出来なかった。
思い当たらないのではなく、思い当たって。
まさか、ベッドの事を知ったのか? でも、どうやって? と困惑する。
その問いが聞こえていた詩夕、常水、樹は……あぁ、セミナスさんが教えたのかな? と同じ事を考えた。
ただ、折角死守して、天乃と水連の尊厳も守ったのに、それをここで言って良いのかと刀璃は考え、ふと気付く。
刀の女神の問いから察して、念のために確認する。
「さ、さぁ、わかりませんが、明道から何か聞いたのですか?」
「いや、これはお礼としか聞いておらず、その内容は自分も知らないと言っていた」
なのにお礼? と刀璃は疑問に思ったが、知らないというのなら、あえて突っ込んで露見するような真似はしないと考える。
刀の女神の方も、特に気にするような内容ではなかったため、これ以上の追及はしなかった。
では早速鍛えて欲しいと刀璃は思うが、その前に注意が入る。
「ちょっと良いか?」
「はい。なんでしょうか? 鍛冶の神様」
「ワシとアキミチから、刀の女神の事で伝えておくべき注意がある。呪刀を抜かせるな、だ」
ピンと来ない刀璃は首を傾げる。
それはそうだろう。
ただなんとなく、刀の女神が持っている刀の事を指しているだろうという事だけは察する事が出来た。
それだけでは足りないだろうと、鍛冶の神は簡潔に教える。
刀の女神が呪刀を抜くとどうなるのかを。
「……えっと、それは本当に?」
「はい」
刀璃が確認するために刀の女神に視線を向けると、照れくさそうに頷かれた。
何故そこで照れるのか、刀璃はわからない。
けれど、強くなるためには刀の女神が必要であり、要はその呪刀を抜かせなければ問題ないと、刀璃は納得した。
そして、鍛冶の神たちの紹介が終わり、この場に槍の神が居るのであれば、次に行われるのは当然、既に恒例となっている常水と樹の模擬戦。
別名、シャインと槍の神の意地の張り合い。
二人の模擬戦が行われるスペースが自然と開けられ、弓の女神は咲穂の下へ、職人モグラは天乃や水連、フィライアたちの女性陣に構われ、鍛冶の神はまずは詩夕からち捕まえて武具の相談を始め、刀の女神は早速とばかりに刀璃に色々教え始める。
詩夕たちだけではなく、神たちもまた慣れた動きだった。
適応していると言っても良い。
ただ、ここで問題が起こる。
誰しもが周囲の気配を怠った訳ではないが、それでも気が逸れた瞬間だったのだろう。
虎の魔物が三体現れる。
狙いは少し離れた位置に居る、馬車から一時的に放して休ませていた馬たち。
狙いが自分たちではなかったというのも、察知が遅れた理由の一つかもしれない。
馬たちを救おうと誰しもが動き始めるが、既に三体の虎は馬たちを襲う態勢であり、間に合わないのは明白。
誰しもが被害は避けられないと思った中、刀璃は見た。
既に刀を抜いた状態の刀の女神の姿を。
そして次の瞬間、虎の魔物が三体共、首部分から両断される。
馬に被害は一切なかった。
場に沈黙が流れ、刀璃は思う。
自分もいつか、この高みまで登りたい……いや、登ってみせる、と。
それほどまでに、刀璃は刀の女神に魅了された。
「……ふ……ふふふ……」
だが、次の瞬間――。
「……もっと、もっとぉ! 血の雨を降らしましょうぅ~!」
あぁ、なるほど。これか。確かにこれはアウトだ。と刀璃は冷静になる。
だが、動じない者も居た。
もちろん、シャイン。
「なるほど。面白い。よし、イツキ。アレをどうにかしてこい」
「え? いやいや、え? どう考えても無理ですよね? あんな剣技? 刀技? を繰り出すような存在をどうにかなんて出来ませんから」
「大丈夫だ。ああいう感じのやつは、大体狂うと駄目になる。洗練さがなくなって、寧ろ弱くなるモンだ。というか、私がやれって言ったんだから、やってこい」
絶望の表情を浮かべて、絶望に向かう樹。
ただ、今回は同伴者が居た。
「ふむ。それは面白いかも。ツネミズも行ってみようか。大丈夫大丈夫。鞘を奪って、どうにか納刀すれば元に戻るから。まぁ、それぐらいしか対処方法がないんだけどね」
「……これも鍛錬の一つか」
槍の神の言葉に、全てを悟ったような表情を浮かべた常水が樹のあとを追う。
そして始まる危険な戦い。
刀の女神をお礼とした明道に対して、強くなれるという点において感謝はしているが、刀璃は一言文句を言いたくなった。
後日。
ドワーフの国に向けて全員無事に進んでいるので、大丈夫だったのだろう。




