中々上がらないくせに、落ちるのはいやに早い
翌日。出発の準備を整える。
食糧やテントなど、セミナスさんと相談しながら、必要な物をアイテム袋の中に次々入れていく。
おやつはいくらまで?
⦅武闘会以降、マスターは中々外を出歩く事が出来ず、のんびりしている事が多かったため、少々たるんでいます。丁度良い機会ですので、ここで運動不足を解消しましょう。なので、おやつはなしです⦆
……はい。厳しい旅になりそうだ。
その翌日。出発する。
王城の門前で、アドルさんたちとウルトランさん一家に見送られる。
急な出発になったため、フェウルさんやウルアくんから少々お小言を貰ったが、各国が揃ってEB同盟再強化の話し合いを行う時にまた会えると思うので、勘弁して貰った。
「ウチの分も頑張って。エイトちゃん」
「はい。頑張ります。またお会いしましょう」
フェウルさんは、エイトに対して、なんの応援をしているのかな?
いや、聞かない。藪蛇になりそうだし。
というか、エイトがまた会いたいと言うとか……いつの間にそんな仲良く?
通じるモノでもあったのだろうか?
「ではな。EB同盟再強化の時に、また会おう」
「はい」
ウルトランさんと握手を交わす。
あとで合流するけど、アドルさんたちとも一時の別れの挨拶を。
「それじゃ、一足先に軍事国ネスに行って、待っていますね」
⦅先に着いているのは、吸血鬼たちの方です⦆
「それじゃ、一足先に軍事国ネスに行って、待っていて下さいね」
「なるほど。先に着くのは私たちの方か」
そうみたいです。
そういう事は先に言って欲しかった。
なんか締まらないでしょ?
⦅聞かれませんでしたので⦆
いや、セミナスさんは、聞かなくてもわかるはずだ。
⦅こういう事の積み重ねによって、幸せな未来に辿り着くのかもしれませんね⦆
……それってつまり、今後もこういう事があるって事かな?
⦅………………⦆
おっと、黙っちゃったよ。
まぁ、気にしたら負けかな。
⦅その通りです。マスター⦆
で、どうなの?
⦅………………⦆
さすがに引っかからないか。
「それじゃ、アキミチ。自分たちが居ないのだから、無理しないようにね」
「そうそう。エイトちゃんとワンが居るとはいえ、アキミチ自身の戦闘力は防御超特化なんだから」
「わかっているって。インジャオさん。ウルルさん」
別れの挨拶を済ませ、獣人の国の王都から出発する。
―――
王都を出て、まずは地図を広げる。
セミナスさん。まずはどこに向かっていけば?
⦅ここをこう……それで、そこをそう……⦆
セミナスさんの指示通りに地図の上で指を動かしていく。
まず、アドルさんたちとの合流場所である軍事国ネスの王都があるのは、ここから北西の位置。
本来なら、ここから斜めに進んでいけば辿り着くところなのだが、俺たちはここから北に真っ直ぐ進んだのちに左折して、緩く斜めに進んでいく感じだろうか。
うーん。本当に遠回りしていくようだ。
その経路を、エイトとワンに説明する。
「なるほど。わかりました」
「あいよ」
納得して、エイトが俺から地図を奪い取り、ワンは拳を手のひらにバシバシ打ち付けて、やる気を滾らせ出す。
「えっと……」
「経路の指針はお任せ下さい」
「しっかりと守ってやるからな、主!」
……手持ち無沙汰というか、何も出来ない子、みたいな感じなんだけど。
⦅適切な配置です⦆
結果よければ全てよし。という事にしておこう。
では、出発!
並び順など関係なく、適当にだらだらと進んでいく。
ちなみにだが、移動手段は馬車ではなく徒歩だ。
セミナスさんが言うには、馬車では進めない森の中とか、悪路もあるそうなので、徒歩という事になった。
良い運動になるんじゃないかな。
………………。
………………。
そんな事を思っていた時期もありました。
辛い。超辛い。
あれ? なんでもうこんなに疲れているの?
もっとこう……体力だけはあったような気がするんだけど?
「確実に運動不足です。ご主人様」
「武闘会の時と違って、今は駄目駄目だな。主」
「ぜはぁー……ぜはぁー……」
言い返す体力も今は惜しい。
まさかここまで体力が落ちているなんて。
⦅ですから、運動不足解消なのです。マスターの体力はこの世界に来てから急激に伸びましたが、その反面、定着していない以上は落ちやすくもあるのです⦆
つまり、習慣的な運動が不足していたって事?
⦅ありていに言えば、はい。その通りです⦆
……運動って大切だね。
という訳で、運動も兼ねて先を目指す。
ただ、こういうのは周りのサポートも大切だ。
「食事の方はお任せ下さい」
「運動メニューでも組み立ててみるか」
ありがとう。エイト、ワン。
でも、ちょっと待とうか。
まず言っておくのは、その心遣いは嬉しいって事だ。
本当だよ。
「で、エイト」
「はい。どうかしましたか?」
「その見るからに怪しい食材は何? トカゲっぽいのとか、亀っぽいのとか」
「主に、夜にハッスルするための代表的な」
「うん。要らない。そういうのは求めてないから」
遠くに放り投げてしまいたかったが、食べ物を粗末にするのはよろしくない。
なので、とりあえず、エイトからそういうのを全て回収し、アイテム袋の中に仕舞っておく。
「………………」
「まさか、そこまでしょんぼりするとは……」
エイトが、しゅーん……としている。
確かに、見ているだけで可哀想になってくるけど、返そうとは思わない。
「次に、ワン」
「何かあったか?」
「……厳し過ぎる。一日で出来るトレーニング量じゃないよね?」
「あたいは出来るけど?」
「うん。基準を自分にしちゃう、ありがちなミス! 今の俺の状態から判断して!」
ワンが俺の上から下まで、下から上までをゆっくり見て……。
「わかったぜ!」
親指を立て、満面の笑みでそう言うワン。
本当にわかったのか怪しい。
リテイクは納得するまでやるからな!
そんな感じで、体力向上をメインに運動しながら進んでいく。
でも、これって軍事国ネスに着くのが遅れるんじゃないの?
⦅問題ありません。その辺りも計算しての時間配分ですので⦆
だと思った。
さすがセミナスさん、としか言えない。
ところでセミナスさん。
今、軍事国ネスに向かっていない以上、これはどこに向かっているの?
⦅マスターが希望した、お礼をするための場です⦆
だからそれはどこだろう? と思ったのだが、着けばわかると判断。
というよりかは、今はそんな思考の余裕がない。
「ぜはぁー……ぜはぁー……」
運動きっつい。
なんでこう、体力って中々向上しないのに、落ちるのは早いんだろうか。
人の体って不思議。
日数は数えていないけど、そうこうしている内に辿り着いたのは、戦いの跡が未だ残る平原に建つ黒い神殿だった。




