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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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こういう決断をしなければいけない時がある

 アドルさんの話し合いはまだ続きそうなので、獣人の国の王都観光を続ける事にした。

 といっても、まだ武闘会熱は落ち着いていない。

 王城の外に出ると囲まれる可能性があるので、どうしたものかと用意された部屋の中で考えていると、エイトから提案される。


「変装すれば良いのではないでしょうか?」


 なるほど。変装か。

 ……悪くないかもしれない。

 そうなると、変装道具を用意しないと。


 ……う~ん。

 ここは一つ、やっぱり変装と言えば眼鏡。

 万能の魅力度UP器を。


⦅普通にバレます。また、この世界にサングラスは存在しません⦆


 それじゃあ、隠せないね。

 なら、マフラーのようなモノで顔を覆うとか?


⦅転んで、はだけて、バレます⦆


 駄目かぁ!

 そうなると……と次の案を練っていると、エイトから声がかけられる。


「悩まれているようですが、問題ありません。全てこのエイトにお任せ下さい」

「おっ! どんなの用意したんだ?」


 自信満々に言うけど、俺は不安で一杯。

 ワンも面白がらないで。


 でも、折角用意してくれたという事で、一応確認してみる。

 ………………。

 ………………。


「エイト」

「はい。なんでしょう? ご主人様」

「これ、どう見ても……女物だよね?」

「はい。それが?」

「……つまり、俺に女装しろと?」

「はい」


 素直に頷くなぁ。

 とりあえず、両腕を交差させて、大きくバツ印を作る。

 駄目でーす。


「ですが、普通に考えて、男性が女性の恰好をすれば、そう簡単にはバレないと思いますが?」

「確かに。主は男だ。だからこそ、女になればバレない」

⦅良い手かと。『未来予測』でも、注意さえ怠らなければバレません⦆


 えぇ……でも……。

 チラッと確認。

 エイトの目がランランと輝いている。

 先ほどのセミナスさんの声も、どこか弾んでいたような気がした。


 ただ見たいだけ……じゃないよね?


⦅違います⦆


 即否定してくる辺り、怪しい。

 しかし、外には出たい。のんびり観光したい。

 そのための最適手段は……女装しかないのか。


 ………………。

 ………………。

 仕方ない。


「わかった」

「では、こちらもご用意しました」


 ……かつらまで?

 随分と準備万端だったようだ。

 女装の予定なんてなかったはずなのに、どうしてここまで揃っているんだろう。

 近々女装させるつもりだったとかじゃないよね?


 ……いや、待てよ。

 まさかかもしれないけど……俺が寝ている時に着させているとか?

 ……いやいや、そんな訳ない。ないよね?


「髪色はご主人様に合わせて黒色ですが、ショートとロングを用意しました。あとはこうして欲しいという髪型があれば、エイトが結わせて頂きます」

「おっ、化粧道具まで用意しているみたいだぜ、主!」

「顔立ちも綺麗系、可愛い系など、こうして欲しいというご希望があればなんなりと」


 ………………。


「服装だけで」

⦅駄目です⦆

「駄目です」


 セミナスさんとエイトは、断固拒否の構え。

 ワンは面白がっているし、味方が居ない。


「ちなみにですが、下着類も用意しています。胸の方もどうにか作って」


 ダッシュで逃げる。

 ワンに直ぐ捕まった。

 おのれ! 主である俺を裏切るのか!


「離せー! 離せー!」

「男が一度決めた事なんだぜ。ここで退いたら男が廃るぜ、主!」

「いや、今そうならないために逃げようとしていたんだけど!」


 けれど、ワンは離してくれなかった。


「さぁ、ご主人様。ご覚悟を」


 あ、あぁ……あああぁぁぁ~……。

 ………………。

 ………………。


 鏡の前に立たされている人物は、黒髪ロングストレートを後ろでお団子頭にした、綺麗系の顔立ちのお姉さん。

 俺こだわりの眼鏡を付け、黒を基調とした質素な服装も、スカートではなくズボンな辺りに意思の強さを感じさせる。

 胸の僅かな膨らみは、きっと本人も気にしているだろうから触れちゃいけない。


 まぁ、俺はその本人なんだけど。

 とりあえず……うん。見事な女そ……変装だ。


⦅これでマスターだとバレる事はないでしょう⦆


 寧ろ、ここまでやってもバレるとか、困る。


⦅ふふ……お似合いですよ⦆


 嬉しくありません。

 これをやったエイトは、やりきりましたと満足そうにしているけど。

 いや、確かにこれだけ変化するのなら、俺だとバレないだろうけど……と思っていると、不意にワンが俺の顎を持って、クイッと自分の方に向けてきた。


「主……今日の夜、その姿で一緒に過ごさないか?」

「お前は何を言っているんだ」


 ええいっ! とワンを振り払う。


「折角ここまでしたんだ! 存分に観光してやる! 行くぞ!」


     ―――


 結果から言えば、バレる事はなかったけど、囲まれはした。

 俺が美し過ぎた……とかではなく、ワンがそのままだったからだ。

 うん。そうだよね、ワンも本選出場者だもんね。

 そりゃ、囲まれるわ。


 ワンの性格も相まって、人気も高い。

 今は女性ファンに囲まれているが、狩人のような目付きで見るのはやめなさい。

 そっちも、キャーって喜ばないように。

 ワンを取り囲む女性たちを遠巻きに見ながら考える。


 ……うーん。


「戻るか」

「良いのですか? 折角身も心も女装しましたのに」

「心まで女装した覚えはない。良いんだよ。ワンだけ除け者にしてまで観光しようとは思わないし、こういうのは一緒に行くから楽しい訳だから」

「なるほど。……姉を気遣っての行動ですか」

「そういう事は口に出さない」


 言葉にしない方が良い事だってあるはずだ。


「ですが残念ですね。となると、次はご主人様の女装は見れないという事ですか」

「うん。全然残念じゃない」

⦅本当に残念です。心のMEMORYに焼き付けておきますので、ポーズを取って頂けますか?⦆


 取りません。それと、焼き付けなくて良いです。


「しかし、よろしいのですか?」

「何が?」

「今なら、女性下着売り場にも堂々と入れますが? 一生に一度は行きたかったのでは?」

「いや、そんな事はこれまで一度も言った事はないよね? しかも一生に一度とか……どれだけ求めている事になってんの? え? 何? 行かせたいの?」

「両手で顔を覆いつつも、真っ赤になっている顔は隠せず、やはり興味は隠せないのか、指の合間からチラチラと周囲を窺う姿を見たいと思います」

「願望っ! いや、行かないし、行く気もないから!」


 やっぱり、言葉にしない方が良い事ってあると思う。

 という訳で、撤収。

 ワンも素直に応じてくれて、俺たちは王城に戻った。


「やっぱり、もう少し落ち着いてから、普通に観光しよう」

「それがよろしいかと」


 エイトがそう同意する。

 なら、何故女装させた?

 ただ見たかった訳じゃないよね?


 ……でも、落ち着く頃には出発する事になってもおかしくないような気がする。


⦅いえ、まだかかりそうですので、大丈夫でしょう⦆


 どうやら観光は出来るようなので、ホッと安堵した。


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