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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第二章 竜とエルフ
20/590

DD

 空を舞っていた竜が俺たちの目の前に下りて来る。

 着地の衝撃で地面が揺れた。


「ギャオオオオオッ!」


 咆哮が一発。

 アドルさんたちは身構えているようだが、俺は一切身動きが出来なかった。


 迫力あり過ぎ。

 そして怖過ぎ。

 すすぎ洗い。


 ……ふぅ、落ち着いてきた。

 頭の中は冷静になっていくが、体は言う事を聞かない。

 本能が絶対的恐怖を覚えている。

 こんなのをどうにかなんて出来るの?

 こんなのがたくさん居るところを通るの?


 いやいや、無理無理。

 これはアレだよ。

 逆らっちゃいけない存在ってヤツだ!

 人間がどうこう出来るような代物じゃない!

 でも、そんな俺でも誇れる事がある。


 ……漏らしませんでした!


 ん? ヤバイかな? と思ったけど、下半身に温かいモノを感じていない。

 ……これが成長か。

 この世界に来てどれぐらい経ったかはわからないけど、最初の頃よりはマシになったという事だな。


⦅その通りです、マスター。日々成長している事を実感して下さい。確かに今は、竜は脅威でしょう。ですが、いずれは……⦆


 どうにか出来るの?

 というか、漏らしていない事を触れない部分に優しさを感じる。


⦅マスターに戦闘面は期待出来ませんが、お友達たちの方であれば⦆


 だよね。

 俺に戦いの才能はないと思う。

 でも、親友たちなら出来る可能性があるんだ。

 それはそれで凄い。


⦅それでマスター。漏らしそうになった件は……⦆


 一時の安心を与えて油断したところとは狡猾!

 ……お願いします!

 喋れるようになっても誰にも言わないで下さい!


⦅マスターは私がそんな事を吹聴するスキルだとでも?⦆


 そうですよね!

 そんな事しませんよね!


⦅まぁ、誰にでもうっかりはありますが⦆


 どうかお願いします!

 俺の尊厳をどうか守って下さい!


 セミナスさんと話している内に、気付けば竜の数が増えていた。

 具体的には、五体に増えて俺たちを取り囲んでいる。

 ………………。

 ………………ふんっ!

 おっと危ない。

 今度こそ漏らすところだったけど、何とか我慢出来た。


⦅頑張りましたね⦆


 ありがとう。

 今は素直にその言葉を受け取るよ。

 危機を回避した事に安堵していると、最初に現れた竜が声をかけてくる。


「矮小な者共よ。これより先は我らの領域。無断で立ち入る事は許されない」


 ……喋ったぁ~! 竜が喋ったぁ~!

 何かこう凄くない?

 感動を覚えているよ、俺は。


 異文化交流というか、異種族間交流というか、そういうのを目の当たりにしているような気がする。

 言葉って大切だね!

 この世界に来て、つくづくそう思うよ。

 うんうんと頷く。


⦅吸血鬼たちの事は……いえ、本当に受け入れるのが速いですね⦆


 セミナスさんが何か言ったような気がするけど、それを気にする前にアドルさんが竜へ声をかける。


「無断なのは申し訳ございません。ですが、こちらも急ぐ身の上。どうか、通行を許して頂けないでしょうか? もちろん、無用な争いを起こすような真似をするつもりはありませんし、敵対するような愚かな事も致しません」

「その言葉を信じろというのか?」

「信じて頂く事しか出来ません。全てはこの世界のために」

「世界のためとは大きく出たな」


 竜が値踏みするようにアドルさんを見る。

 おぉ、あのアドルさんが低姿勢だ。

 それだけ、竜という存在は恐ろしく、敵に回したくはないという事か。

 ところで、この状況はセミナスさんの想定通りなのだろうか?

 アドルさんとインジャオさんがここをどうにかするそうだけど、どうなるんだろう。


⦅問題ありません。そろそろアレが出て来ますので⦆


 アレ?

 何が? と思っていると、空から声が響く。


「世界のためとは面白い! では、私が貴様たちの品定めをしてやろうではないか」


 視線を向ければ、竜が更にもう一体追加された。

 この場に居た五体の竜よりも体格が一回り大きい黒色の竜。


DDディーディーの兄貴!』

「「「DDっ!」」」


 ……ん? あれ?

 俺以外の全員が知っているようだけど……。


 竜の方はわかる。

 だって同じ種族だし。

 兄貴呼びという事は、上の立場という事も。


 でも、アドルさんたちも知っているというは、有名な竜って事?

 それならそれで、失礼のないように説明をお願いしたいんだけど。

 出来れば、握手とかサインとか貰えないかな?

 親友たちに会った時、自慢したい。

 ……自慢になるかわからないけど。


「……なるほど。確かに、私とインジャオが道を切り開くな」

「そのようですね」


 アドルさんとインジャオさんも何か納得している。

 事情がわからない俺だけ置いてきぼりでちょっと寂しい。

 と思っていると、俺たちを取り囲んでいた五体の竜が、いつの間にかDDと呼ばれていた黒い竜から少し距離を開けた後方に控えていた。


「私たちも下がりましょう」


 ウルルさんに先導されて、俺もアドルさんとインジャオさんから距離を取る。

 アドルさんは、DDと睨み合っていた。

 インジャオさんは、まるで先手は譲るとでもいうように少し下がっている。

 ただならぬ雰囲気に、自然と喉が鳴った。

 品定めって言っていたけど、もしかして、これから戦いが始まるのか?

 ………………。

 ………………。

 えっと、もう少し離れても良いですか?

 どう考えても、戦闘の余波で吹き飛びそうなんですけど。

 不安そうにウルルさんを見ると、ニッコリと笑みを向けられた。


「大丈夫。アドル様とインジャオなら、きっとDDにも認められるから」


 ……俺の心配は?

 念のため、とりあえず気持ち半歩分下がる。

 本当に大丈夫だろうか?


⦅問題ありません。その場で見ていればわかります⦆


 セミナスさんがそう助言してくれたので、そのまま見ておく事にした。

 すると、気付く。

 いつの間にか、五体の竜がそれぞれ何かを持っている。

 あれは……と、きちんと確認する前に、竜の一体が両手に持っている細長い棒をぶつけて、チッチッチッと鳴らす。

 アドルさん、DDがその音に合わせて首を振り、インジャオさんは小さく足踏みしている。


 そして、戦いは戦いでも、ダンスバトルが始まった。


 ………………。

 ………………。

 ………………。


 ん? んん? んんん?

 改めて見れば、五体の竜はそれぞれ楽器を持って、アップテンポの激しい曲を奏でている。

 アドルさん、DDは曲に合わせて……多分ブレイクダンス。

 いや、俺はそういうのに詳しくないからよくわからないけど。

 ……意外過ぎて事態に付いていけない。

 ふと、思った事をウルルさんに尋ねる。


「ウルルさん、もしかしてDDって……」

「そう。DDは略称。元々は鱗の色からわかるように、ダークドラゴンを略した意味だった。でも、今は違う。『ダンシングドラゴン』。それが今の、略さない呼び方よ」


 ………………おぉ。

 何とかいうか、それで良いのか、竜よ。

 でも、でかい図体で器用にブレイクダンスしている。

 アドルさんも。


「ちなみに、DDと呼ばれる事が多いけど、中にはDDディーツーとか、DDダンドラとか呼ぶのも居るそうよ」


 うん。そんな情報は特に要らない。


「アドルさんたちも知っていたようだし、有名な竜なんですね」

「えぇ。竜王の次に名が知られている竜と言われているわ。何しろ、まだマシだからね」

「マシ?」

「それはそうでしょ。まともな戦いをすれば、普通は竜に勝てる訳ないんだから」


 ……なるほど。

 ………………なるほど?

 でもまぁ、命のやり取りじゃないだけ、まだマシだと思える……かな。

 その分、何か判断が厳しそうだけど。


「……ちなみに、これっていつ終わるんですか?」

「さぁ? DDが納得するまでだから、いつになるかは……」


 とりあえず、ウルルさんから休憩時間を挟むと言われたので、その辺りの準備を一緒に始めた。

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