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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第一章 始まりの始まり
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邂逅です

 草、草、草……。

 草、草、木……。

 草、草、山……。


 遠くに木というか森、山は見えるけど………………うん。ここは立派な草原だ。

 しかも手付かずの。


 ………………。

 という事は、ここはパワースポットで間違いないはず!

 おぉ、大自然よ! 俺に力を!

 

 ……なんて考えてみるが、困った事にポツンと草原に居るのは、どうにも現実っぽい。

 肌を撫でる風や、草を握って得る感触は、否応なしに現実で間違いないと告げている……ような気がする。

 教室に入ったら草原へ。

 一体、地球の科学力はいつの間にそこまで進化していたのだろう。

 授業中に何か革新的な事が発表されたのかもしれない。

 ………………。


「そうだったら良いなぁ……」


 ぼそっと願望が漏れる。

 けれど、どれだけ悲観に暮れようが現実は変わらない。

 草原にポツンと一人で居る事に変わりはなく、起こった現象を考えると、ここが地球というのも怪しく感じる。


 ……つまり、地球ではないどこか?


 いやいや、そんなまさか。

 ………………。

 バッ! と太陽を見、ない!

 危ない危ない。直視は危険だ。


 手で視界を少し遮ながら確認。

 ……一つ。

 他には見当たらない。

 念のため、ぐるっと回って……なし。

 ハッ! と直上を見て……なし。

 どうやら太陽は一つしかないようだ。


 となると、やはり地球……だけど、疑問は他にもある。

 どうして俺は一人なんだろう?

 光る教室に飛び込んだのは間違いない。

 そして、その教室の中には親友たちが居た。

 なのに俺は一人。


 ………………。

 ………………。

 いやいや、待て待て。

 いくらなんでもその考えは突拍子過ぎる。

 でも……周囲の状況は間違いなく、それ。


 ラノベでいうところの、「異世界転移」。


 もし、地球でワープみたいな技術が出来ないのなら、それしか答えがない。

 まさか……という思いと共に気付く。


 教室から光が漏れていたのなら、中心地はその中央である。

 で、タイミング的に、俺が入ったのは最後。

 となると……それはつまり……親友たちの方が本命で……俺は巻き込まれただけ……と考えるのが一番自然ではないだろうか?

 だって、俺が着く前から光っていた訳だし。


 ………………という事は、もしこれが異世界への転移なら、親友たちがこっちに居る可能性は大いにある。

 注意深く周囲へ視線を向けるが、やはりどこにも誰の姿もない。


 俺がこの場に一人なのは確実だけど、親友たちも同じような状況なのだろうか?


 不安で胸が一杯である。

 どこに向かえば良いのかもわからないし、こんな状況で一人残されても生きていく自信がない。


 金、というか財布は……ふっ。教室の鞄の中だった。

 当然手元にも周囲にもない。


 終わ……いや、諦めたら駄目だ。

 親友たちが同じような状況かもしれないのだから、生きていればその内会える可能性だってある。

 だったら、何が何でも順応して、生き抜いてやろうじゃないか!


 そう決意した時、後ろからガサッという音が聞こえた。

 不安で胸が張り裂けそうだったよ、親友!

 ……振り返れば、兎でした。


「何だ……兎か」


 癒しの小動物にほっこり。

 そのまま動きを見ていると、こちらへと近付いてくる。

 随分人懐っこいんだな、と見ていると……違和感に気付く。

 周囲は俺の腰くらいの高さまである草ばかり。

 兎はその草の上に現れているのだ。


 ………………下、どうなってんの?

 手足が異様に長い……とか?

 もし異世界ならそういうのも居るかもしれないけど……正直そういうのはちょっと……。


 そんな事を考えている間に、兎が一気に跳躍した………………と思ったら、熊が現れた。

 正確には、背丈が俺の倍くらいあり、しかも前足が四本ある、兎の皮を頭に被った熊。

 だらだらと涎を垂らし、その涎を拭きながら、へへ……久々の獲物だぜ! と言わんばかりに俺をロックオンしている。


「美味しくないよ」

「………………」


 残念。どうやら言葉は通じなさそうだ。

 俺のコミュニケーション能力に問題があるのかもしれない。


「ガアアァァッ!」


 いただきます! と襲いかかってきたので、生存本能の赴くままに逃げ出した。

 追い付かれたら確実に死ぬ、と生存本能が訴えかけている。

 えぇい! 草が邪魔!

 というか、迫る死の恐怖に漏らしそうだ。

 それすらも力に変えて駆け……あっという間に回り込まれた。


 ……うん。まぁ、こんなモンだよね。

 熊は逃がすものかと両手を大きく広げる。


「ガアアアァァァッ!」


 先程よりも大きな咆哮に、ちょっと腰が引き気味。

 なんというか、こう……生存本能は逃げろと抵抗しているけど、体が動かない……みたいな。

 というか体が震えて上手く動かない。


 その間に熊が襲いかかって来た。

 あっ、こりゃ死んだな。

 まさか、こんなところで、こんな形で死ぬとは思わなかった。

 せめて、親友たちがどうなっているのかを知ってから死に――。


「YrsrK! knKMNtksUg!」


 そんな叫び声? が聞こえたと同時に空から何かが降ってきて、熊を両断する。

 両断されて二つに分かれた熊の向こう側に居たのは、顔まで隠している全身鎧を身に纏っている者。

 その手には、大きく長い大剣が握られていた。


「………………」


 というか、両断された熊の内臓が見えたので気持ち悪くなり、四つん這いになって吐く。

 ……吐き終わると、全身鎧の人? が傍に居た。

 何やらジッと俺を見ているような雰囲気である。


 ………………。

 ………………あっ、これはアレかな?

 一難去って、また一難というヤツっぽい。


 熊の次は全身鎧の人? か。

 貴様のような軟弱な者が、このような地で生きていける訳がない。

 よし、一思いに介錯してやろう……的な?

 ……それは極論ではないだろうか?


 そんな事を考えていると、大剣を背負った全身鎧の人? が手を差し出してくる。

 まぁ、何と大きな手でしょう。


 ………………敵意はないようである。

 その手を借りて立ち上がった。

 ……ただ、その時の感触が人っぽくない。

 何というか、スッカスカだったのが気になる。

 でも、助けてくれるようだし、ここは素直に大人しくしておこう。

 そう思っていると、その全身鎧の人? が声をかけてきた。


「DizUbK?」


 ………………。

 ………………おぉ、さっぱり意味がわからない。

 多分、言葉だとは思うのだが、全然聞き取れなかった。

 となると、俺が言うべき事も決まっている。


「パ、パードゥン?」

「………………」


 苦手な英語の拙い知識でそう返してみるが、返答はない。

 ……これは困った。

 でも、一応念のために別の事を言ってみる。


「アイ、キャン、ノット、スピーク、ジャパニーズ」


 たどたどしく言ってみた。


「………………あ、間違えた。イングリッシュ」

「………………」


 緊張から間違えてしまったので直ぐに訂正したが、またも無反応だった。

 というよりかは、言葉が通じていないように見える。

 ………………。

 どうしようかと首を傾げると、全身鎧の人? も首を傾げた。

 う~ん……と揃って悩む。


 この瞬間だけは意思疎通が出来ているように思えた。


 その時、ぐぅ~と俺のお腹が鳴る。

 正直な俺のお腹め!

 恥ずかしさを誤魔化すようにお腹へ手を当てると、全員鎧の人? が何かを思い付いたかのように手を打つ。

 全身鎧の人? は、遠くの方にある森を指差し、次に自分を指差し、俺を指差して、口と思われる部分に手を当てて、何やら頭を上下に動かす。


 ………………。

 ………………ふむ。なるほど。


 俺には全て理解出来た。

 この灰色の脳細胞にかかれば、まるっとお見通しである。


 つまり、あの森に行って、俺が、お前を、丸かじり、という訳だな。


 ………………。

 安心出来る要素が一切なかった。

 だから、言わずにはいられない。


「美味しくないよ?」

「………………」


 でも残念。言葉が通じない。

 やっぱり、俺のコミュニケーション能力に問題があるかも。

 終わった……俺の人生終わった。


 そう思っていると、突然体が宙に浮く。

 ……全身鎧の人? が、片手で俺を抱えていた。

 もう好きにすれば良いさ。

 あんな熊を両断するような人? に勝てる訳がない。

 為されるがままに脱力していると、全身鎧の人? が一気に駆ける。

 速い速い! 速過ぎる! 風が轟々いってますけど?

 そうして辿り着いた森の中で、男女一組が全身鎧の人? を出迎えた。

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