わかっていても、目がいってしまう時がある
フェウルさんに勝った。
ちょっと信じられないけど、鉄扇で叩かれまくったところがジンジンと痛いので、夢オチではないようだ。
……痛みで涙目……になっちゃ駄目!
カッ! と目を開く。
それにしても、俺の中ではもっとバチバチにやり合うのかと思っていたけど、終わってみれば、フェウルさんはほぼ無傷。
傷らしい傷といえば、俺のこの打ち身の痛みくらい。
といっても、回復薬で直ぐ治るそうなので、舞台から下りて、舞台傍にある治療テントで治して貰う。
こういう時、一日の最後の試合ってあとを気にしなくて良いよね。
「いらっしゃいませ~」
お揃いの白い服を着た美人女性獣人さんたちに出迎えられる。
行った事はないけど、そういうお店かな? と誤解して緊張してしまいそうだ。
⦅安心して下さい。この場に居る中にフリーは居ません⦆
どうしてそんな事を言うのかな?
まぁ、一気に冷静になれたけど。
「こちらにどうぞ。お座り下さい」
案内されるまま椅子に座らされる。
目の前に居るのは、これまた白いローブを着た美人女性獣人さん。
……猫? いや、虎かな?
他の人と服が違う辺り、多分女医さんって事なんだろうけど。
⦅確かに女医ですが、妻帯者でもあります⦆
だからそういう情報はいいから。
冷静になるだ……ちょっと待って。
妻帯者って事は……。
あぁ、でも、この世界では気にするような事でもないのか。
なら、気にする必要もないという事なので、気にしない。
ただわかったのは、この場に居る美人女性獣人さんたちの中に、フリーの人は居ないという事だけだ。
「それで、どうされましたか? どこか痛いところが?」
女医さんの言葉に首を傾げそうになる。
えっと……ここから舞台上は見え……るな。
なら、俺がどうしてここに居るのかもわかると思うんだけど。
あれかな?
もしかして見ていなかっただけ?
それとも、お決まりの文句的なモノだろうか?
出来れば後者であって欲しい。
女医さんに説明して、早速治療して貰う。
といっても、打ち身部分に回復薬をかけて貰うだけ。
いや、自分でやるんじゃなく、美人さんにやって貰う事が重要なんだ。
「ひひゃあぁ~」
染みる染みる。
治る前に染みるので、思わず声が出てしまった。
りんご味だったから、りんご酸でより染みたのかもしれない。
⦅染みているのに、味とりんご酸は関係ありません⦆
こんなに染みているのに!
観客席にまで俺の叫びが届いていない事を願っておこう。
治療は直ぐに終わったので、貴賓席に戻る事にした。
それにしても、女医さんが組んでいた足を組み替える瞬間は危なかった。
思わず視線がそっちに向いて、釘付けになるところだった。
⦅そこを右に階段を上がって下さい。なんでしたら、私がスカートの生足で行いましょうか?⦆
いや、セミナスさんには体がないでしょ。
⦅真っ直ぐ。そこは妄想で補って頂ければ。好きに動かして、好きな角度で見て頂いて構いません⦆
いえ、結構です。
それと、別にスカートの生足でなくても、パンツルックでもそれはそれで良いというか……。
⦅突き当たりを左折。マスターの業を垣間見たような気分です⦆
浅い業である事を願う。
そんな感じで話している間に着く。
というか、待って。
ちょいちょい行き先を指示してくるけど、初回ならまだしも、さすがに何回も往復したような場所で迷ったりしないから!
今回も迷わず来れたでしょ!
⦅……念のためです⦆
………………なんだろう。
セミナスさんの言葉に優しさを感じる。
という事は、もしかして来れなかったの?
いやいや、そんな事は考えない。
着いたんだから良いじゃないか。
貴賓席に入れば、前回と同じく拍手で出迎えられた。
いや、より熱っぽい感じになっているような気がする。
手を上げて拍手に応えながら、自分の席に向かう。
「よくやった。アキミチと……」
待ち構えていたアドルさんが、俺の肩に手を置いて、そこで言葉を切って労ってくれる。
どうもどうも。
続く言葉は、「セミナスさん」だろう。
⦅その他からの感謝の言葉は必要ありません。マスターからの愛さえあれば⦆
これはどっちなんだろう?
素直なのか、素直じゃないのか。悩む。
そのまま席に座ろうとしたのだが、その前にエイトが立ち塞がる。
「ん? どうした?」
「失礼します」
そう言って、エイトが俺の体をジロジロ見始める。
え? 何? こんな外で、しかも人前で?
て、違う違う。そうじゃなくて。
「一体何を?」
「しこたま打たれていましたので、ご主人様の体に傷が残っていないかの確認です」
いや、もう治療されたから、確認する必要はないんだけど?
「大丈夫だって」
「いいえ、エイトの目で見て確認し終わるまでは許容出来ません。という事で、ご主人様」
「ん?」
「服の上からではわからない箇所もありますので、脱いで下さい」
「脱ぎません」
「今更恥じらうような関係ではないではないですか」
貴賓席内がザワッとする。
ヒソヒソするな!
このままでは不味いと即座に否定。
「恥じらうわ!」
よし。これで大丈夫。
⦅それだと、そういう関係の部分は否定していませんが?⦆
「そういう関係でもない!」
危なかった。
もう少し遅れていたら、きっとメイドさんたちの誰かが、警備員とか衛兵を呼びに向かうところだったに違いない。
あと、宰相さんも、ロイルさんにあれくらいの積極性を身に付けて下さいと、エイトを参考にするような事を言わないように。
ロイルさんも、真に受けちゃ駄目……いや、宰相さんの言葉を真に受ける人じゃなかったか。
ほら、エイトも誤解を解きなさい。
「安心して下さい。エイトはこう見えて『ロリBBA』ですので」
……それを聞いて、周囲の人たちがホッとするのも、それはそれで間違いなんじゃないかと思う、俺の感性が正しいと思いたい。
とりあえず、エイトには見える範囲の確認だけで納得して貰い、漸く席に座って一息。
まぁ、王城に移動開始するまでの僅かな間だけど。
………………。
なんだろう。
戦っている時の方が、気が楽なのは気のせいかな?
そのままボーッとしていると、なんとなく見られているような気がする。
周囲を窺えば、エイトは宰相さんと何やら話しているのが見えたけど、視線は向けられていないので違う……いや、それはそれで危険だけど、今は視線の方だ。
そのまま視線をキョロキョロさせると、ウルトランさんとバッチリ目が合った。
………………。
………………。
えっと、なんで優しい目で俺を見るの?
今までそんな目で見た事ないよね?
しかも、うんうんとなんか頷いているし。
どういう事なのかを尋ねようとする前に、インジャオさんとウルルさんも戻って来て、王城に戻る事になった。
王城に戻ったら聞いてみよう。




