幻聴? いいえ、違います
……武技の神様は行ったけど、ちゃんと間に合ったのかな?
親友たち……大丈夫だろうか?
どうなったのかわからないのはもどかしいけど、今は信じるしかない。
とりあえず、このまま黒い神殿内に居ても仕方ないし、アドルさんたちと合流しないと。
ただ、体力をほぼ使い切っているので、ゆっくり進む。
時折、休みながら進む。
躓いて転んだけど、何とか無傷で済む。
駄目だ。思考力も低下している。
……そういえば、武技の神様からスキルを貰ったけど、一体どんなスキルなんだろう?
出来れば有用なスキルが良い。
どんなスキルか色々と考えている間に、神殿の出口に辿り着く。
神殿の外へと出れば………………そこは戦場だった。
「えぇ~……どういう状況? これ?」
もの凄く簡単に言うなら、アドルさんたちが大量の魔物っぽいのを相手に戦っていた。
何の魔物かわからんのが多いけど。
「インジャオ! アキミチはまだか?」
「わかりません! 結界の外に出てくれないと、こちらからは見えないですし」
「でも、いきなり襲ってきたという事は、内部で何か変化があったという事では?」
「恐らくな。だからこそ、ここを通す訳にはいかん。中に魔物が居た以上、こいつらも結界を通り抜ける可能性がある。それは、アキミチを危険に晒すのと同義だ。アキミチが出て来るまで、魔物をここから先に行かせてはならない!」
「「任せて下さい!」」
その言葉通り、魔物たちはアドルさんたちを越えて来る事はなかった。
数は多いけど、ほとんどがアドルさんたちの一撃で即死である。
目の前の光景と相まって、強過ぎる、凄過ぎるとしか感想が言えない。
しかし、魔物たちの中には武装しているのも居て、時折、矢とかが神殿まで飛んできているんだけど……そっちのフォローもきちんとして欲しい。
というか、無機物は結界を越えるんだね。
勉強になりました。
でも、このままここに居続けるのは危険だから、早く合流した方が良いと思う。
そう判断して前に一歩踏み出す。
⦅足元に百円玉が⦆
え? マジで?
思わずしゃがみ込むように足元を確認する。
ガラスっぽい破片が、キラッと光っていた。
何か騙された気分である。
そう思った瞬間、頭上を何かが通り過ぎていく。
頭を上げて振り返れば、神殿内部に矢が落ちていた。
………………。
………………。
あっぶな~。本当に危なかった。
女性の声に反応してしゃがんでいなかったら、確実に刺さっていたっぽい。
だからフォローを………………女性の声?
でも、ウルルさん以外の女性はこの場には居ない。
そのウルルさんは魔物相手で忙しい。
そもそもウルルさんの声じゃない。
いや、その前に百円玉とかこの世界にはない。
………………。
………………はっ! まさか、俺の眠れる第六感が目覚めて!
………………いや、それはないな。
考えてもわからないので、とりあえず今は飛んでくるモノに注意しながら前へと進む事にした。
◇
アドルさんたちの戦いは既に終盤だったのか、俺が姿を現す頃には終わっていた。
ある程度は慣れたけけど、周囲一帯むせ返るような血の匂いで吐きそう。
「うぷっ。……あっ、ども。お疲れ様でーす」
そう声をかけると、アドルさんが一気に駆け寄ってガシッと俺の両腕を掴む。
「無事かっ!」
「あっ、はい。何とか」
インジャオさんとウルルさんも覗き込むようにして、俺を心配そうに見ている。
心配かけてごめんよ。
でも、やるべき事はやったし、まずは報告だな。
「体力は尽きましたけど、でも、ちゃんと武技の神様は復活しました」
グッ! と親指を立てる。
「「「……武技の神様? ………………あぁっ!」」」
アドルさん達が不思議そうな表情を浮かべたあと、思い出したようにハッ! とした。
……え? 忘れてたの?
「そうであった。途中からアキミチが戻って来ないし、何かあったのでは? と心配で、それどころではなかった」
「アドル様の慌てた様子を久々に見ましたよ。まぁ、それは自分もですが」
「全く、男二人で情けない。私も同類だけど」
……何かこそばゆいっす。
「それにしても、武技の神か。確かに、何か特定の補正を戻すよりは、全体の強化に繋がるな。最初の一手としては良い」
「「……ちょっと確認しても良いですか?」」
アドルさんの許可が下りる前に、インジャオさんとウルルさんはどこかウズウズしているように見えた。
………………えぇと、嫌な予感がします。
そして、インジャオさんが叫びながら剣を縦に振り下ろす。
「『武技・流星斬り』」
激しい衝撃音と共に、大地がパックリ割れた。
おぉ! インジャオさん、凄い!
インジャオさんへの尊敬度が上がりました。
次に、ウルルさんが大きく息を吸う。
「『特殊武技・狼大砲』」
そう叫びながら、ウルルさんが吐き出したのは息ではなく、真っ赤なレーザーだった。
チュン! という音と共に、射線上が灰塵と化す。
ウルルさんへの恐怖度が上がりました。
「……はぁ、全く。遊ぶのもそこまでにしておけ。もうここに用はなくなった。アンデッド化させないためにも、魔物たちを焼き払い、終わり次第、移動するぞ」
「「わかりました!」」
頭を掻きながら仕方ないなと溜息を吐くアドルさんの言葉で、インジャオさんとウルルさんが魔物たちの処理へと向かう。
………………というか、遊びだったの? あれで?
いやいやいやいや、大地への影響を見てよ!
割られて削られて、大地に謝って下さい!
……とりあえず、俺が教えた事も原因みたいなモノだし、謝っておこう。
大地……ごめんなさい。
⦅謝る必要はありません。悪いのは、そこの骸骨騎士と獣人メイドですので⦆
そう?
………………。
………………。
またさっきの声がした。
周囲を窺うが、やっぱり誰も居ない。
……まさか、幻聴?
俺の体年齢って一体いくつ?
「すまんな、アキミチ。疲れているだろうが、休むのはもう少し待ってくれ」
「え? それは構いませんけど……あぁ、そうか。ここは大魔王側の勢力圏で、当然この場の事も知っている。だから、異変を感じてもおかしくないし、それで魔物たちが」
「その通りだ。先ほどまでのは斥候で、このあと本隊が来る可能性が高い。その前に離れるつもりではあるが」
漸く頭が回り出したような気がする。
しかし、アドルさんは魔物の処理しながら難しい顔を浮かべていた。
「……問題は、どちらに向かうかだな。東側か西側か……」
なるほど。
よくはわからないけど、難しい問題のようなので、とりあえず、うんうんと頷いておく。
⦅……世界解析完了。中央を抜けて、エルフの森に行く事を提案して下さい⦆
ん? 提案すれば良いの?
「えっと、アドルさん。中央を抜けて、エルフの森に行くというのはどうですか?」
「エルフの森か。……それは別に構わないが、中央を抜けるとなると、そう簡単には………………いや、少し待て。エルフの森について教えていたか?」
「え? いや、聞いていませんけど、そう提案しろって言われて………………誰に? アドルさんに?」
「私はそのような事を言っていないが……武技の神様か?」
「いえ………………え?」
「え?」
暫し見つめ合う、俺とアドルさん。
「………………えっと、何と言えば良いか……さっきから、ウルルさんじゃない女性の声が聞こえているんですよね」
正直に話すと、呆けていたアドルさんが、ハッ! と何か気付き、俺の両肩に手を置く。
「……疲れているのだな。それとも、ミノタウロスに何かされたか? たとえば、心の中に女性が芽生えるような事………………さぞかし痛かった事だろう……軟膏でも塗っておくか?」
それはそれは、優しい笑みだった。
「違う違う! 確かに疲れているし、怖い目にも遭ったけど、そんな事起こってないから! というか、アレが雄か雌かなんてわからないし! そもそも、互いに真剣に命のやり取りをしていただけだから!」
「………………」
「命のやり取りで、まさかやり返したのか? みたいな驚愕の表情を止めろ!」
はぁはぁと、肩で呼吸をする。
これから移動だというのに、余計な体力を使ってしまった。
「悪い悪い、冗談だ。それにしても、アキミチは理解力が高いな。通用するとは思わなかった」
「いや、まぁ………………色々と知識が手に入りやすい世界だったんだよ。それにしても、アドルさんからそういうニュアンス的な事を言われるとは思わなかった」
「いや、まぁ……妻がそういうの大好きでな。自然と覚えてしまったのだよ」
そう言うアドルさんの表情は、嬉しそうな、でも寂しそうな……そんなだった。
こんな危険な世界だし、色々とあるのだろう。
……いつか、話してくれるだろうか? と思った。
「しかし、となると、どういう事だ? 先程からと言っていたが、私……いや、私たちの誰もそんな声は聞こえていないぞ?」
アドルさんが困惑の表情を浮かべるが、俺も困惑である。
⦅………………はぁ⦆
再び聞こえたのは、溜息。
それも、こいつら仕方ないな……みたいな感じの。
……何か申し訳ないです。
いや、疲れてなかったらピンと来てたかも………………答え、くれませんか?
⦅……仕方ありませんね。『確認玉』を見て頂ければわかります⦆
という事なので、アドルさんに用意して貰い、確認してみた。




