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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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今後のために必要らしい

 奥の通路の先、突き当たりに矢の発射口があった。

 ここから射出されたようなので、ウーノの仇ととりあえず蹴った。

 まだ死んでないと思うけど。

 でも、発射口は壊れたのでこれでよし。スッキリ。


 通路は横に折れ曲がって続いているので、そっちに進む。

 直ぐ突き当たって、あるのは扉。

 とりあえず、開けて確認。

 開けた瞬間、むわっと熱気が噴出する。


 熱くはないけど暑いというか、なんか不快感。

 うえっ、と吐く真似をして、室内を確認。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 ムッキムキの筋骨隆々な体を折り曲げて、腹筋運動をしている汗だくの男性が居た。

 しかも、黒パン一丁のみ。

 とりあえず、一旦閉める。

 ……えっと、セミナスさん?


⦅はい。お呼びでしょうか?⦆


 はい。呼びました。

 もしかしてだけど、今のが神様?


⦅はい。神です⦆


 ……なんの?


⦅『身体』の神です。この神が司るスキルは『身体能力系』だけではなく、他にも身体に関わるという理由だけで『反応系』、『筋肉全般』も司っています。与えられた知識によると、他の神々の、そこら辺は細分化が面倒だから纏めてやらせよう、という思惑の結果でもあります。ただ⦆


 出来ちゃった訳だ?


⦅はい。筋肉が滾る、という言葉と共に⦆


 それはきっと頭を抱えた事だろう。

 いや、今のところであった神様たちと、エイトやワンを創った神様たちを基準にすると……喜んだかもしれない。

 でも、この身体の神様が必要なんだ?


⦅はい。やはりどう考えても、人の身と獣人の身では、元となっている身体能力に大きな差がありますので、今のままですと、マスターは大きなハンデを負った状態でやり合う事になります。ですので、そのハンデを少しでも緩和するために身体の神のスキルが必要、という訳です⦆


 なるほどな。

 確かに、反応出来ていても体が応えてくれないと意味がない。

 逆に、体が応えてくれたとしても反応出来ていなければ同じ事。

 部屋の中に居る神様は、その両方を補ってくれる訳か。


 納得。

 そういう事なら、武闘会に挑む上で絶対必要だ。


⦅武闘会もそうですが、今後、更に厳しい戦いがあるかもしれません。その時に後悔はしたくありませんので⦆


 セミナスさんが必要だと判断したのなら、きっとそういう戦いがある可能性が高いのだろう。

 俺もあった方が良いと思うし。

 ………………待って。

 話が変わるけど、ついさっき浴びた熱気って?


⦅マスターが想像した通りです⦆


 ………………。

 ………………。

 よし。深く考えるのはやめろと本能が拒否しているので、考えないようにしよう。

 でもやれる事はやっておく。


 扉を少しだけ開けて、空気を換気。

 室内から漏れ出る熱気に当たらない場所で、少しの間待機する。

 ……えぇと、もう大丈夫?


⦅まだです⦆


 まだらしい。OK。

 もう少しだけ待った。


 ……セミナスさんの許可が出てから、扉を大きく開けて室内に入る。

 身体の神は腕立て伏せをしていた。

 しかも、両親指だけを支点にして。

 生で初めてその腕立て伏せを見たけど……普通に凄いという感想しか出てこない。


 ただ、俺に気付いていない。

 声をかける前に、改めて身体の神様を確認。


 つるっつるの頭部に、ほどよく日焼けた体。

 顔は……髭面で四十代くらいだが……くっ。イケメン。というかなんか渋い顔立ち。

 だが何よりやっぱり、全身が分厚い筋肉に覆われている事が一番の特徴だろう。

 あと、黒パン一丁ってところもか。


 ……このまま見続ける趣味なんてないので、声をかける。


「あの」

「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

「すみません」

「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

「ちょっと良いですか?」

「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 あー! ……ふー、ふー。

 一旦落ち着こう。大丈夫。俺は冷静。

 きっとアレだ。

 トレーニング・ハイってヤツだ。


 こっちに気付いて貰うには、もっと近付いて、大声じゃないと駄目だ。


「すみませーん!」

「煩いわっ! トレーニングの邪魔だ!」


 いきなり殴りかかってきたので、咄嗟に避ける。


「ほぉ……今のを避けるのか。なら、私の戦闘トレーニング相手に丁度良いな。一人で行うのも限界がある。よし。かかってこい」


 おう! とはならない。

 こういうのは、きちんと否定しないと。


「いえ、違います。そのために来たんじゃありません」

「そうか。わかった。さぁ、かかってこい!」

「いや、ですから、身体の神様を解放するために」

「そうか。わかった。さぁ、かかってこい!」

「もう外に出れますから」

「そうか。わかった。さぁ、かかってこい!」

「話を聞けぇ!」

「そうか。わかった。さぁ、かかってこい!」


 もう駄目だ、この神様。

 全然話を聞いてくれない。

 ……セミナスさん。


⦅満足させないとトレーニング完了にならないようです⦆


 つまり、戦わないといけない?


⦅はい。また、恐らく全力で来るでしょうから、こちらも全力で迎え撃たなければいけません。ですが、全力はそう長続きはしないでしょうから、想定よりは早く終わるでしょう。最速で完了させるための指示を出しますので……頑張って下さい、マスター⦆


 もの凄く頑張りたくない。

 でも、それしか道がないように思える。

 ……仕方ない。武闘会の前哨戦みたいなモノ、と思っておこう。


「人の話を聞きやがれぇ~!」


 全力戦闘を行った。


     ◇


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 呼吸が整わない。

 全力を出した結果だろう。

 でも、満足はさせて、トレーニングは完了させた。

 納得は出来ないけど。


「ふぅ~。良い汗を掻いた」


 身体の神は黒パンの中からタオルを取り出して、汗を拭いている。

 出来れば、元からそこに入っていたのではなく、アイテムボックス的空間になっている事を切に願う。

 答えが前者の可能性もあるので、追及はしない。


「そちらも良い汗を掻いただろう? タオル、使うか?」

「使いません」


 怖くて使えない。

 新品のような真っ白なタオルだけど、無理。


「それで、話があるそうだがなんだ? 共にトレーニングをした仲だ。伺おう」


 ちょっと待って。まだ息が……。

 ………………ふぅ~。よし。

 身体の神様に、これまでの事を簡単に説明。

 最後にスキルが必要だと伝える。


「……そういう事か」


 身体の神が俺の上から下を見ていく。


「まぁ、良いだろう。他の神々を解放するためにも必要だろうしな。だが、今は『身体能力向上』か『反応速度上昇』のどちらかにした方が良いのではないか? どちらも上げてしまうと、慣れるのに時間がかかって、折角の武闘会が台無しになってしまうぞ?」


 という事らしいけど、どっち?


⦅両方で問題ありません。慣れるのに丁度良い舞台がありますので⦆


 うーわ、武闘会で慣れさせるつもりだ。


「えっと、両方で問題ないそうです」

「ほほぅ。面白い。では、解放して貰った礼として、両方授けよう」


 そう言って、身体の神様が俺に向かって手の平を向けてくる。

 すると、その手の平から光り輝く球体が二つ現れ、そのまま俺の体の中に吸い込まれていく。


「えっと……これで終わり?」

「あぁ、きちんと授けた。あとで確認すると良い」


 そうなの?


⦅はい。『身体能力向上』と『反応速度上昇』が付与されました⦆


 これで準備完了、という訳だ。

 という訳で、もうここに居る必要はない。

 早く外の空気を吸いたい。

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