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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第六章 獣人の国
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また会えるような気がする

 ウーノが言うには、この場は知識ではなく、身体を競う場らしい。

 ……どういう事?

 わからない時は聞く。


「で、どう競うの?」

⦅くんずほぐれつ的展開を希望します⦆


 その希望は通りません。

 却下です。


「そう難しい事はしない! 上体起こし、反復横跳び、立ち幅跳び、持久走の四種目で勝負だ!」

「………………」


 う~ん、まぁそこら辺なら、インジャオさんとの鍛錬で鍛えられているから、良い勝負は出来るかもしれない。

 でも、それだと疑問がある。


「別にやるのは構わないけど、上体起こし以外はその状態で大丈夫なの?」


 ウーノの足部分を指差す。

 太もも部分くらいまでしか見えておらず、そこから下は黒い本と繋がっている煙のような状態。

 跳ぶ事なら出来るかもしれないけど、走るのは無理でしょ?


「問題ない! 我の肉体の前には、本と繋がっているなど関係ない! 丁度良いハンデだ!」


 大丈夫なら気にしない。

 ウーノは跳躍するようにして台座から降り、上半身というか両腕を船のオールのように動かし、本を引き摺るようにして開始位置に移動した。


 既に呼吸が乱れているように見えるけど……本当に大丈夫かな?

 でも時間もないし、早速やってみる。


「上体起こし」

 三十秒間の腹筋運動。両手を握って胸の前に置いて行う。

 勝敗は回数で決まる。

 ………………。

 ………………。

 普通に勝った……というか、ウーノが早々にリタイア。

 数回で体を起こせなくなっていた。


「反復横跳び」

 一メートル幅に引いた三本の線を、二十秒間でまたぎ越す。

 またげなかった場合は一回にカウントされない。

 これも勝敗は回数。

 ………………。

 ………………。

 ウーノは本を中心に置いて、上半身だけを動かしてやり始めた。

 それはズルいと思ったが、二往復くらいでリタイア。

 呼吸が苦しそう。


「立ち幅跳び」

 両足を揃えて前方に跳躍。

 着地後に後方に転倒した場合、尻餅なら尻、手なら手が着地点になる。

 勝敗は距離。

 ………………。

 ………………。

 ウーノは跳べなかった……というよりは、ズッと本が少し動いただけ。

 上半身の勢いがあり過ぎたのか、勢い余って床に頭をぶつけていた。


「持久走」

 千五百メートル走るだけ。

 勝敗はタイムというか、一緒に走るようなので先に走り切った方の勝ち。

 ………………。

 ………………。

 結果は言うまでもないというか、数分も経たずにウーノがギブアップ。

 そもそも腕を振っているが、全く進んでいなかった。


 結果だけを見れば、俺の完全勝利。


「やったー!」


 とりあえず、両腕を上げて喜んでおく。

 というか、身体的にはウーノの方が勝っているように見えるんだけどな。

 どうして勝てたんだろう?


⦅マスターはきちんと鍛錬を行っていますので⦆


 それもあるとは思うけど、今回は寧ろウーノに手応えがなさ過ぎた気がする。

 もっと出来ると思っていたけど。

 今もまだ生き絶え絶えだし。


「……大丈夫か?」

「ゼェー、ハァー……ゼェー、ハァー……」


 全然大丈夫じゃなさそう。


「く、くそ……ゼェー……ハァー……ここ最近、勉強ばかりで、運動をす、るのを忘れていた……」


 あぁ、そういえば、前回の事があってから、猛勉強していたとか言っていた。

 それが裏目に出た訳か。

 こっちを先に訪れていたら、結果が違っていたかもしれない。


「うん。それは災難だった。で、俺が勝った訳だし、もう行って良い?」

「いいや、まだだぁ!」


 そう叫んで、ウーノは再び荒い呼吸を繰り返す。

 ほら、急に動くとか、無理するから。

 ちょっと苦しそうだったので、背中をさすってやる。


「……ありがとう」

「いえいえ」


 感謝してくれるのなら、もう通して欲しいんだけど。

 ウーノの呼吸が少し落ち着くと、再び叫ぶ。


「これに勝てば通してやろう!」


 そういえば、前も最後の悪あがきをした覚えが――。


⦅私がマスターより先に答えた問題ですね⦆


 セミナスさんは、気にし過ぎだと思う。

 ウーノが指をパチンと鳴らすと、壁の一部がゴゴゴ……と横にずれ、そこから新たな壁がせり出してくる。

 新たな壁には、模様が描かれていた。


 五×五のマス目が描かれ、マス目にはそれぞれボタンが付いている。

 ……うん。正式な名称は知らないけど、アレだ。


「知らないだろうから、説明しよう!」


 いや、知っているけど、ここは異世界。

 違うかもしれないから聞いておこう。


「光るボタンを押せば、別のボタンが光る! それを繰り返すだけ! 光り箇所は不規則だ! この勝負の勝敗は、押した回数が多い方の勝ちだ!」


 うん。知っているのと一緒だった。

 なら、どこにも問題ない。


「じゃあ、やろうか」


 手を組み、ぐるぐると回して軽い運動。

 ………………。

 ………………。


「馬鹿なぁっ!」


 勝った。余裕で勝ち。

 十回以上の差がついている。

 得意なんだよね、これ。


⦅マスターの新たな得意な事として記憶しておきます⦆


 ほんと、こういう事ばっかり得意だな。

 そして、俺が勝ったという事は、ウーノは負けたという事である。


「………………」


 何も言わずに落ち込んでいた。

 体育座りのような姿勢で、壁によりかかっている。

 う~ん。本気で落ち込んでいるようだから、どう声をかけて良いのか悩む。


「……えっと、大丈夫?」

「………………からな」

「え?」

「次は負けないからな! 知識はもう既に得た! その知識の中に、二度ある事は三度ある、と言われている事を知った! なら、次だ! 今度は体力を手に入れる! そして我は、完璧な我となって勝つ!」


 次があれば、パーフェクトウーノか。

 なるほど。じゃあ、その時を楽しみにして……あれ?

 なんかいつの間にか、また会う事になっている?

 いや、神様解放を続けていけば、また会う確率は確かに高いけど。


 まぁ、その時はその時だな。


「わかった。それじゃ、もう先に進んで良いか?」

「……あぁ、もう開いている」


 開錠道具を使った姿はなかった。

 でも、もう開いていると言う。

 ……ウーノとは関係ないところでの魔法的な何かかな?

 そう考えながら奥の扉を開ける。


 瞬間、嫌な予感。


⦅横に跳んで下さい!⦆

「危ないっ!」


 セミナスさんの指示で横っ飛びしようとするが、そんな俺の前にウーノが飛び込むような姿勢で現れる。

 なんで? と思う前に横っ飛び。

 視線でウーノを追うと、ウーノの腹部を矢が貫いた。


 どうやら、奥の扉の先から矢が飛んできたようだ。

 俺は倒れたウーノの下に行く。


「大丈夫か?」

「はは……罠がある事を思い出してな……だが、これはもう駄目だ……インクがこんなに零れてしまった……」


 ウーノは自分の腹部から漏れ出ている黒い液体を見て、そう言う。

 ……血って事かな?


「どうして助けるような真似を? 敵だろ? 俺たちは」

「何故だろうな……体が勝手に動いて……兄弟だからかな……」

「まぁ、そっちが勝手に言っているだけだけど」

「咄嗟に庇わないと、と思ってな」

「うん。まぁ、気持ちは嬉しいけど、視界が邪魔されて寧ろ避けにくかったし、綺麗に貫通したから、多分盾にもなっていなかったけど……でもまぁ、ありがとう」


 守ろうとしてくれた訳だし、感謝の言葉は伝えておく。


「……次に会うって話はなかった事になってしまったな」

「あぁ、それなら問題ない……所詮、この本は第二版だ。まだ、初版が……あ……」


 言い切る前に、ウーノは本ごとその姿を消した。


「ウーノォー!」


 俺の叫びが室内に響く。


⦅茶番は終わりましたか?⦆


 あっ、はい。終わりました。

 まだ初版が、と言っていたし、まだ死んでないんだろうな。

 そんな気がする。


 今度は罠に警戒しながら、奥の通路を進んでいく。

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